13.はぁ!? 四人も殺されたのに!?
「じゃあ、あなた、マリー・テレーズと顔見知りだったってことね。
あなたは彼女が四人を毒殺したと思う?」
管理人は顔色を変えた。
「まさか!! 私のような者にまで優しく接してくださったお嬢様が、あのような非道をされる道理がありません!」
真っ赤になった管理人は、悲憤慷慨する。
「ほむむむむ……
なにか決定的な証拠でも出たのかしら?」
「あー……そのあたりは、事件の後、薬草園の毒草がむしられてたのが見つかって、それを盛ったんじゃという話になったのでは?」
昔、犯罪実話本を読んだ時のうろ覚えで、ノアルスイユが首を傾げる。
そう聞いております、と管理人が頷く。
「薬草園は今もあるの?」
「いえ、とっくの昔に潰して、今は芝生になっています」
カタリナは微妙顔になった。
「というか、その言い方だと、なんの毒を盛られたのか、はっきりわかっていないのかしら?」
「確か、正式な捜査はされてなかったような」
ノアルスイユが管理人を見ると、管理人は頷いた。
「そうです。
亡くなられた令嬢達は、皆『病死』と届けられたそうで。
それでも人の口に戸は立てられず、結局ゴシップ紙で大々的に報道されてしまったのですが」
「はぁ!? 四人も殺されたのに!?
一人が急死したなら病気ってこともありえるけれど、同時に四人もってどう考えたっておかしいじゃないの」
あー……とノアルスイユは声を漏らした。
「解剖をいやがったんでしょう。
三十年前のことですし」
この国で信仰されている女神フローラの教えでは、人は亡くなったら生前の姿のまま女神の御下にゆき、その庇護の下、女神の花園で幸福に過ごすことになっている。
というわけで、他の神を奉じる地域では、火葬や鳥葬をするところもあるが、この国では土葬一択。
死体の損壊は大タブーなので、殺人事件でも解剖なしの遺体検分のみで済ませることの方が多い。
特に良家の令嬢が亡くなった場合だと、見知らぬ男性に身体を見せるのを厭って、かかりつけ医の見立てで済ませることも珍しくない。
「キィィィィ! なによそれ、使えないわね!」
案の定、カタリナはキレた。
「逆に考えましょう。
警察が捜査して、物証つきでマリー・テレーズが加害者だと確定していたのなら、三十年も前の事件をひっくり返すのはほぼほぼ無理です。
曖昧なままになっているからこそ、説得力のある真犯人像を提示できれば、冤罪だったのではと思う者も出てくるはずです」
「あらノアルスイユ。
頭が良さそうなことを言うじゃない」
「実際! 頭は良いんですよ、私は!
学院でも大学でも文官登用試験でも首席だったんですから!」
せっかくのフォローをまぜっ返してくるカタリナに、ノアルスイユはつい叫んでしまった。
「知ってるわよ、そんなこと」
カタリナはクスクス笑って、ムキになったノアルスイユをあからさまに面白がっている。
「ええと、その……
まずは、なにが起きたのか、事実関係を改めてお調べになるのはいかがでしょうか。
私も、叔父から断片的に聞いた話しか知りませんし」
管理人がおずおずと提案した。
「そうね。
マリー・テレーズも、日記の最後に、当日なにがあったのか詳細に書いているけれど、できる限りの裏取りは必要だわ。
リュイユール伯爵家が事件後にどうなったのかも気になるし。
あとは、事件に先立って、マリー・テレーズにうざ絡みしたあげく学院で焼身自殺したっていうフォンタンジュ男爵令嬢のことも。
ノアルスイユ、あなた、宮廷庁所属だから、各家や学院の記録は閲覧できるでしょ?」
どうせそういう話になるだろうと覚悟していたノアルスイユは、不承不承頷いたが、一つひっかかった。
「事件後の動向も、ですか?」
「セニュレー侯爵家、ブラントーム伯爵家の方たちは顔くらいは知っているけれど、リュイユール伯爵家なんて、聞いたことがないもの。
きっと、田舎に引っ込んだままなんじゃないかしら。
令嬢達の命が狙いだったんじゃなくて、伯爵家の名誉を地に落とすためだったのかもしれないじゃない」
「なるほど。
というか、自殺したフォンタンジュ男爵令嬢の身内からの報復という線は?」
「んん……どうかしらね」
カタリナはマリー・テレーズの日記を繰った。
「ありえなくはないけれど、男爵令嬢が亡くなったのが事件の一昨日とあるでしょう?
遺族なら、遺体の引き取りやら葬式の準備やらで修羅場の真っ只中じゃない。
そんな時に、つきあいもない家のお茶会に、いきなり毒を仕込める?
数カ月後、一年後であれば、手の者を下女として潜り込ませて〜……とかやれないこともないでしょうけれど。
遺族ではなく、親しい友人が報復したとしても、いくらなんでも反応が早すぎるわ」
「確かに。男爵令嬢がマリー・テレーズを毒殺するべくあらかじめ手配していた、とかならまた話は違いますが、それならそれで、よりによってマリー・テレーズが生き残った意味がわからないですね」
でしょ?とカタリナは頷いた。




