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1.フォンタンジュ男爵令嬢の死

感想欄を開けております。

ネタバレを回避したい方は、読了までご覧にならないようお願いいたします。

 王都近郊、リュイユール伯爵家の別邸「トレヴィーユ荘」。

 4代前の伯爵が、成人前の子女や隠居した親族などが暮らす私邸として建てたもので、漆喰塗りの白い壁に銅葺き屋根の緑青色が映える、瀟洒な別邸だ。


 抜けるような青空の下、サロンから直接出られるテラスで、デイドレスを着た3人の令嬢達がこわばった表情でガーデンテーブルを囲んでいた。

 せっかくの手のこんだ菓子は手をつけられず、香り高い紅茶は冷めていくだけ。

 王都を一望する眺めにも、近くで咲き乱れる満開の桜にも、目を向ける者はいない。


「ほんとうに、あの時のことなのかしら」


 一番顔色が悪いのが、リュイユール伯爵の長女マリー・テレーズ。

 淡い金髪に整った顔立ちだが、憂いの影は濃い。

 来年、十八歳になったら、この館の西隣に別邸を構えるセニュレー侯爵家の次男シャルルと結婚する予定だ。

 

 テーブルの上には、四季の花々が描かれた繊細な茶器とは不似合いな、スキャンダルを毒々しく扱う週刊絵入り新聞が置かれていた。

 今朝出たばかりの号だ。


 一面には、大々的に「某伯爵令嬢に吊し上げられた某男爵令嬢、貴族学院にて焼身自殺か!?」という見出しが踊っている。

 未婚の令嬢がよりによって焼身自殺とは、大スキャンダルだ。

 女神フローラの教えでは、女神が与えた命を勝手に放棄する自殺は、天への反逆に等しい行為。

 その上、遺体を酷く傷つける焼身自殺とは大逆としか言いようがない。


 一昨日の未明、貴族学院敷地内の普段使われていない物置小屋で出火、火は類焼する前に消されたものの、焼け跡から黒焦げの遺体を発見、寮生の男爵令嬢がいなくなっていること、自室に遺書とみられる書き置きがあったことから、彼女の遺体だと推定されたと記事には書かれている。

 そして末尾には、「この某男爵令嬢、某家舞踏会にて某伯爵令嬢とその取り巻きに吊るし上げられたばかりとの噂もあり、本紙では今後もこの痛ましい事件の背景にある社交界の闇を追っていきたい」と宣言していた。


 この「某伯爵令嬢」というのが、マリー・テレーズを指している──ようなのだ。


「彼女が他にトラブルを起こしたとは聞いていないので、まず、そういうことかと。

 いずれにしても、フォンタンジュ男爵令嬢が亡くなったことは確かです。

 みんな酷く怯えていて……」


 街道を挟んだ向かいに別邸を持つブラントーム伯爵家の長女で、マリー・テレーズと同い年のアンリエットが口ごもりながら言う。

 王都の令嬢は、家庭教師の指導の下、親元で嫁入り修行をしながら縁談を探すことが多いが、魔力に優れ、将来魔導師を目指しているアンリエットは本邸から貴族学院に通っている。


 アンリエットは、自殺した女子生徒がマリー・テレーズと揉めた令嬢だと気づき、すぐに手紙で知らせてくれたのだが、今朝、街売りの新聞の見出しを目にして驚倒し、一部買い求めて別邸まで駆けつけてくれたのだ。


「あの、新聞社に抗議して、取り下げてもらうわけにはいかないんでしょうか?」


 一緒にやって来た、アンリエットの妹のルイーズが半泣きでマリー・テレーズに訊ねた。

 年は1歳下の16歳。

 姉と同じくつややかな栗色の髪に、普段はあどけない笑顔が愛らしい少女だ。

 なにしろ、幼い頃からのつきあいのマリー・テレーズが男爵令嬢をいじめ殺したと報じられているも同然な上、「吊し上げ」に加わった「取り巻き」とは、明らかにたまたま一緒にいた自分たちのことなのだ。

 今頃、社交界では誰のことか噂が駆け巡っているはず。

 せっかく社交界デビューし、これから友人を作り、将来の結婚相手を探していくという時に、悪評が先に出回ってしまうのは辛い。


 マリー・テレーズは首を横に振った。


「こういう新聞って抗議すれば誤報でしたと取り下げはするのだけれど、取り下げる時に『○○家の抗議により取り下げます』って書くものなのよ」


「下手に抗議したらどこの家の話か確定してしまう、ということですか」


「そんな! マリー・テレーズ様は、一方的にシャルル様との婚約を解消しろって絡まれただけじゃないですか!

 せっかく穏便に済ませようとされていたのに、勝手に興奮して暴れだして。

 あんなことをしたら、連れ出されて当然ですよ!

 あの人、頭がどうかしてたんじゃないですか?

 それか、嘘をついてお金をせびろうとしたとか」


 ルイーズが吐き捨てるように言う。

 マリー・テレーズは、ため息をついた。


 半月ほど前、他家の舞踏会で、それまで顔も名前も知らなかったフォンタンジュ男爵令嬢は、マリー・テレーズに「シャルルとの婚約を解消してほしい」といきなり迫った。

 一体なにを言っているのかと驚いていたら、興奮してマリー・テレーズに取りすがってきた。

 反射的に振り払ったら、床に倒れ伏して泣くはわめくはでかなりの騒動になり、物見高い野次馬の視線に晒されて、かなり居心地悪い思いをしたのだ。

 その上、遠くから騒動を見ていた従姉妹のニコルが「シャルルに憧れる男爵令嬢をマリー・テレーズが人前で嬲った」という風に捻じ曲げて父に言いつけ、厳格な父にめちゃくちゃに叱られてしまった。


 それにしても、フォンタンジュ男爵令嬢はどうしてあんなことをしたのか──


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