第八話
大丈夫。そう思っていた時が私にもありました。
「これから一年間よろしく、マリカノンナ嬢」
何故、王女の護衛であるジャミィル・ブランドンが隣の席なのかな!?
これはあれなのか、監視されているのか……!?
王女の次に好成績を残した謎の美少女と来れば確かに調査対象になるのかもしれないけど。
いや、いくらなんでもサナディアまで人を派遣して『ウィクリフって氏族について調べている』とか聞いて回らないだろう。
聞いて回ってもあそこら辺だったら『ああ、あの本が好きな引きこもりの一族』って言われそう。
うっ、事実だけに胸が痛い。
「……よろしくお願いします、ブランドンさん」
「そんな他人行儀にならなくてもいいだろう? 親しくジャミィルと呼んでくれ。俺も君のことを名前で呼ばせてもらうから。その方が友人らしくていいだろう? マリカノンナ嬢」
「……では私も呼び捨てでいいですよ……」
「そうか、ありがとう」
ッカーーーーー、悪い笑顔しやがって!
イケメンだから許されると思うな!? 似合ってるよかっこいい!!
でも私も美少女だから負けてないもんね!!
(って、私は何と戦っているのかしら……?)
自分の考えに恥ずかしくなりつつ、私はジャミィルが私を監視する役割を担っている可能性を頭に入れつつ、クラスメイトとして分け隔てなく接することを心に誓う。
何故なら、ここであからさまに避けたりする方がよっぽど怪しいからだ!!
「ブランドン家は平民だけど、王女殿下の護衛に選抜されるってコトは二人ともものすごく強かったりするの? 二人とも合格表だと上位にいたのは覚えているから、頭がいいのはわかるんだけど」
「まあね。うちは元々王女殿下の母君……つまり今の王妃殿下の生家である公爵家の従者の家系なんだ。その関係で年齢の都合上、公爵家には俺たちの兄や姉が、王女殿下には俺たちがつくことになった」
「へえ……やっぱり貴族って大変なのね」
「君んとこは古い家だって言ってたけど、そういうのはないのかい?」
「うちはないわねえ、近所のエルフさんとかドワーフさんが昔からウィクリフの一族がそこに住んでいるって言っていたから古いんだろうなって思ってるだけで、本当はあまり古くないかもしれないし」
これは割と本当だけど嘘もある。
確かにサナディアには古くから人間族で言う所の〝亜人種〟が住んでいて、彼らから見たほんのちょっと前が数百年前の話だったりするのもよくある話だ。
だから『どこそこにちょいと前から住んでいる人間』って言ったらその言葉通りに受け取ってはいけない。
まあドワーフさんの感覚の方が割と人間族に近いかな。
エルフと吸血鬼はだめだ、そういう意味ではポンコツである。時間感覚ナニソレ美味しいの? ってヤツらだから彼らの時間に関する発言はあまり信用してはならない。
「姫が君の家名を『書を綴る』と言っていたけど、君も本には詳しいのか?」
「え? うーん、どうだろう。うちにある本は大抵読んだけど……学園の図書館ってすごいんでしょう? 調べ物がしたいならそっちの方がいいんじゃない?」
「ああ。……なら悪いんだが、手伝ってくれないか? 俺は図書館で調べ物ってのは慣れてないんだ」
「いいわよ。何を調べたいの?」
おお、これは友達として距離を詰めるのにいいイベントじゃない!?
しかも学園の図書館に堂々と入り浸る良い理由にもなるし……ふふ、楽しみだなあ。
だって学術都市って呼ばれるだけあってこの町には本屋がいっぱいあるのよ!
その中で最高学府なんて呼ばれているこの学園にはありとあらゆる蔵書があって、なんだったら禁書とか持ち出しできない古書まであるってんだから最高オブ最高じゃなくって!?
いやあ、私眠らず一ヶ月と言わず三ヶ月とか図書館に滞在してもいいと思っているくらいなんだから!!
いや、さすがにそんなことしたら常人じゃないって思われる以前に吸血鬼ってバレるからやらないけどね。
そのぐらいの良識は弁えておりますとも。
まあ私の欲望はともかく、ここは本好きの一族として新しい友人のために尽力してさしあげようじゃないの。
ふふふ、感謝するがいい。
「聖女召喚について」
「……は?」
「だから、聖女召喚についてだ。姫がそれについて知りたがってたからな」
前言撤回! 厄介なものを調べようとするんじゃない!!