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9/8は体調不良のため更新しておりませんでした。
楽しみにしておられた方、申し訳ございません。
「僕は構わないぞ」
「は!?」
そんなしんみりした中で何故かハルトヴィヒが即答してきた。
あまりのことに驚いて声が出たわ。
なんで即答すんだよ。
ジャミィルも目を丸くして『何言ってんだコイツ』みたいな目で見てんじゃん、もうちょっと考えなよ……!
「確かに、人以外の種族。それに対して思うところはあるし、イアス様の悩むところも理解している以上今更相容れるとも思わんし、受け入れてもらえるとも思いがたい。だが、互いに距離を置き、尊重し合う形を目指すことは出来ると思うんだ。……おそらく、話を聞く限りは、マリカノンナがそうだと思うし……そうしてくれていたのだと、思う」
「ハルトヴィヒ」
「なら、僕はマリカノンナを信じているし、好ましいと思うこの気持ちを、信じたい」
「……『好ましい』だあ……?」
「おじさん、そこ引っかかるところじゃない」
今かなりいい話をハルトヴィヒがしてくれている真っ最中だよ!?
空気読んでおじさん!!
一気に微妙な空気になってしまった中で、ジャミィルも大きなため息を吐いた。
「……俺もマリカノンナのことは信頼しているし、信用もしている。だがだからといって大きな力になれるとは約束できないし、逆に頼り切りになる可能性もある。……つまりは、それを考えた上で判断しろってことだろう? 甲斐性なしを晒すのはなかなかキツいんだがな」
「甲斐性って、あのねえ!」
「冗談だ」
クッといつものように皮肉めいた笑みをジャミィルが浮かべる。
私はそれに思わずムッとしてしまったけど、まあ彼が言うこともわかる。
今の段階では学生である彼らのできることなんてたかがしれていて、そうなれば当然……まあ話していてわかったのだろう、彼らが呼ぶ〝亜人種〟の方がそれぞれ突出した能力を持っているってことに。
そうなれば当然、問題が起きること前提に話している中で、頼る相手の方が力関係が強いとなれば?
そうだ、それはひいては自分たちの主人の沽券に関わるってもんでもある。
だが命あっての物種だ、そこにこだわっていては……という葛藤もあったと思う。
(甲斐性云々は冗談だと思いたい)
そこも少し本気交じってるとか言われたらドキッとしちゃうじゃん、乙女だもん!!
まあ悔しいのでその辺は触れない! 絶対にだ!!
「じゃあ今お互いの国でどの亜人種に対しての嫌悪感が強いとか、他の種族で悪い噂が出ているかを話すか」
「そうだな、殿下を追い落としたい勢力はやはり第一王子殿下の周辺貴族だが……それ以外だと王弟や王妹殿下、それから嫁がれた王姉殿下がおられるか」
「こちらはミアベッラ様を追い落としたい勢力としては公爵家が二つ、侯爵家が一つ、いずれも婚約者候補だな」
「亜人種で噂を聞くとすれば……人狼族が家畜を奪ったという噂があったか」
「こちらだと竜人族が鉱山の出入りを自分たちの山だと言って邪魔してくるとかか?」
……いやいや、うん、あーでもないこーでもないと二人が話し始めたのを聞いて私とおじさんは若干気まずい。
何が気まずいって、思った以上に亜人種が悪いって決めつけている感が強いからだよ!!
ちなみに人狼族は別に家畜を奪ったりしなくてもむしろ彼らは畜産能力に長けているので、自分たちで品種改良もしちゃうし大事に大事に育てて羊毛なんかを卸してくれるぞ!
彼らが育てたヤギのミルクがこれまた美味いんだわ。
竜人族は鉱山とか気にしないしむしろどっちかっていうと狩猟民族だ。
雌雄同体なのもあって一カ所に腰を据えず移動しながら生活していくスタイル。
「……知らないって、怖いね……」
「いやあ、言っても聞いてもらえないからって諦めたこっちが悪いのかもしれないね……」
どこから突っ込んでいいのかわからないけど、人間族の間でも亜人種について詳しいことを伝えていないのかハルトヴィヒとジャミィルの間でも認識が違ったりしてもうカオスよ、カオス。
それを聞いているこっちはもう顔を引きつらせる以外できないっていうか、いや困難じゃダメだ!
意を決して口を開こうとする私を前に、ジャミィルがこちらに視線を向けた。
ひたりと向けられたその視線に、私は動きを止める。そう、呼吸すらも。
「それと――吸血鬼が聖女を狙っているという噂もある」




