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「……いいだろう、乗った」
「……僕もだ」
少しだけの沈黙のあと、二人がそうきっぱりと言葉に出した。
二人とも、目は真剣で落ち着いている。
その場の勢いで頷いたわけではなさそうだった。
「いいでしょ、信じるわ」
私はにっこり笑ってみせる。
別に敵対したいわけでもないし、主導権を握りたいわけでもない。
正直いえば私だって怖いわけだしね……完全に全ての手の内を明かすってわけじゃないけど、嫌われたくない気持ちは強いわけだし。
笑顔は浮かべているけど、余裕はないんだよね。
「……じゃあ、何から話そうかな」
いきなり『ずばり! 私の正体は……』なんて明かすつもりはない。
ある程度はボカして、彼らの様子を見るつもり。
「まずね、いくつかとんでもない話をここでするけど、他言無用ね。今のところはミア様にも、イアス様にも話さないで。それは彼らに隠したいからではなくて、彼らの安全を守るためのものなの」
「安全を……?」
「そうよ」
ハルトヴィヒが眉間に皺を寄せた。
うーん、若いうちからそんなに眉間に皺を寄せるとクセになっちゃうぞ!
折角イケメンなんだから。
「まず、そうね……ええと、今回のミア様とイアス様の〝お願い〟についてなんだけど……私も不用意だったんだけど」
事実を知ってしまったことで起こるであろう不利益、それによって誰が得をするのか洗い出した方がいいこと。
それは勿論もうやっているかもしれないけど、一応念押しでね。
「あと、二人に誤解しないでほしいのは他種族が人間族を混乱させたいわけじゃないってこと」
「……魔族とか、亜人族は人間族を嫌っているだろう」
ジャミィルがそう私に問う。
ハルトヴィヒも頷いた。
「まあそりゃ人間族が彼らを嫌っているしねえ」
私は呆れてそう答えるだけだ。
だってそうでしょ、嫌われてるのに絡まれたらこっちだって威嚇くらいするわよ。
もう絡むんじゃない! ってね。
だけどそれを『嫌っている』なんて言ったらどっちが先かって話になっちゃうんだよねえ、残念なことにこの場合〝忘れてしまう〟人間族の方が不利なのだ。
過去の遺恨について片や亜人族は昨日のことのように思い出せる当事者で、片や言い伝えレベルで変移していった内容しか知らない人間族。
それぞれの『嫌い』のベクトルが異なるのはしゃーないと思うんだ。
「だって彼らは人間族を襲うだろう?」
「現場を見た?」
「……それは」
「ウィクリフからの歴史、あれをミア様は『正しい』と感じた。つまり、表に出ている歴史書は改ざんされているものもある。それはね、人間族にとって都合が良いようになっているってこと」
「……」
ジャミィルが、渋い顔をしている。
でも残念ながらそれが現実ってものなのだ若人よ!
「たとえばさ、魔族と悪魔族は別物だって知ってた?」
「えっ、そうなのか」
「ダークエルフはエルフと別種族なのは」
「エルフが闇堕ちしたらダークエルフじゃないのか?」
「不死族に寿命があるのは?」
「えっ、死なないんじゃないのか……?」
私の言葉に二人が驚いていくのが、なんだろう、ちょっと面白い。
隣でおじさんが笑いを堪えているのを感じて、思わずひじうちしてしまった。
いやまあ私も笑いそうなのを我慢してるんだけどね!
私は一つ一つ、順に説明する。
そこにおじさんが補足していく感じね!
特にダークエルフや魔族についてはそこの土地に対しての適応なので、土地について行ったことのある人からの話はとても参考になったはずだ。
「……不死族に関しては、かなり古い話で……カタルージア王家にも、サタナール王家にも関係している。色々と新しいことを知りすぎて混乱しているようだが、どうする?」
目を白黒させる彼らに、おじさんが優しく問う。
まあミア様とイアス様に降りかかるのは、人間同士の戦いだ。
ただそれに対して亜人と呼ばれる私たちを巻き込まないでくれって話なんだ。
(……それも結局、何故袂を分かったのかを知らなきゃ私たちは悪役のままだ)
私たちの言葉を、彼らがどう受け止めて、信じるのかはわからない。
だけど、真実は常に一つしかないわけじゃない。
それぞれの立場に、あるのだと知ってほしい。
私はそう、思ったのだ。




