51
「それは厄介だな! ああ、厄介だ!」
「爽やかな笑顔で連呼しないでくれる?」
私はとりあえずミア様とイアス様の発言について、おじさんに伝えた。
おじさんはわかっているのかわかっていないのか、いやこれは現実逃避なのか……?
とにかく笑顔のまま厄介だと連呼している。
「どうするのよ、イアス様はおじさんを探してるわよ。ウィクリフの人間だと伝えちゃっていいわけ?」
「いや、それはよくないな。それに、じいさんの写本だ。そっちも問題だろう」
「え? そっちはそんなに問題ないかなあと思うけど。問題ないと思ったからひいおじいちゃんも写本を作って送ってくれたんでしょ」
「いや、そんなことは考えてないぞ。じいさんは『欲されたから渡した』だけだ」
「ええ……」
おじさんに言わせると、ひいおじいちゃんは特に意図せず……というかそこになんらかの思惑があるとすれば、真実を知って誰がどうしようと知らないっていう爆弾だと知ってて渡す、みたいな暴挙のようなものなんだと。
私はミア様の言葉は心からのものだと思ったけど、おじさんに言わせればお姫様一人がそれに対して誠実であろうとしたって権力ってのはそんな甘いもんじゃないって話。
「……俺の妻だった彼女が、女王にならざるを得なかったように。かつて異界から招かれた少女が女王になる道以外を選べなかったように。権力に抗おうとしたって抗えないことは、いくらでもあるんだ」
「……」
「おおっぴらにしない、そこは賢い選択だ。だが真実を知って、それを分かち合う相手を選ばなければ潰されるのは彼らだ。下手にこれ以上の情報を知るべきか、そこは難しい……大変厄介な問題だと言える」
「……そっか」
どうやら私の考えは、甘いらしい。
ミア様は王女だ。それも次の女王となる王女だ。
王家の求心力が弱くなっているから聖女……いや男性版聖女? それ聖女じゃないな、聖人とでも呼ぼうか、とにかくそんな人を召喚して夫にと思っていたってくらいだから結構切羽詰まっているんだろう。
貴族たちのパワーバランスとかは私に理解の及ばないことなので、その恐ろしさについてはちょっとわかんないけど、なるほど真実を知ってミア様が潰されることはあるのか。
そうだよね、人間族としてそこそこ歴史のある王家なら、王族から臣下になったとか姫が嫁いだとか、そういうことがあるはずだ。
(……ミア様を潰して、自分の親戚を次の王にすることも……できなくはない、か)
イアス様に関してもそうだ。
今でこそ〝神に愛された王家〟だから特別な力をうちに秘めていてもそれで済んだけど、どこからともなく〝人外の力である〟と知られれば人間族至上主義のやつらからしたら格好の餌で、そして人は人じゃないものに対して恐怖を抱くことから王家に対して疑念が発生してしまうだろう。
それを扇動されたイアス様は潰される。そういうことだろう。
で、どちらにせよ両国共にいえるのは『人外によって未来ある王子/王女が惑わされた。やつらは悪だ』って結論に至るワケか。
わー、酷い話だ!
「となると、……ほっとくわけにはいかないよねえ」
「そうだな。俺の見立てではジャミィルくんだったか、彼はある程度の事情は察することができるだろう。ハルトヴィヒくんは……まだ、心が弱いな。受け止めきれるとは思えない、今は、まだ」
「……」
おじさんの言葉に、私はなんとも苦い気持ちだ。
ミア様とイアス様に直接話すのが一番早い気もするけど、彼らが一番危険であって……その彼らを守るための行動をどうしたらいいか、だ。
それも人間同士の争いに対して、吸血鬼の私たちがだよ!
(……そういうの面倒で、ウィクリフは人との関わりから離れた気がする)
うん、だって面倒だもんね。
おちおち本も読んでいられない!




