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さて、それぞれお迎えが来たものの基本的に用件は別、ということで……。
まあね、お互い探られたら困る腹ってのがいくつかあるんでしょうしそこについて私がとやかく言うことはないんだけどさ。
なんていうの、これこそスイートルームなのかしら?
三つ四つ部屋があるような宿屋さんまで連れて行かれて、はいじゃあここで待機、右の部屋でミア様、左の部屋でイアス様とそれぞれ面談するよ! って爽やか笑顔で迎えに来た二人に言われたからって私が笑顔になるとでも思ったかい?
なるわけねえし!
なんだったら胃がちょっと痛いし!!
そりゃちょっと豪勢な部屋に「わあ」って思ったのは事実だ、でも正直泊まれないこともないっていうか……なんだったらうちの実家もドワーフ製で立派だったんだなと実感したというか……。
「で、私はミア様とイアス様、どっちから会えばいいの?」
「どっちからでもいい」
「お二人は順番にこだわっていないから、お前が話しやすい方からと仰っておられた」
「……そういうのが一番困るんですけど」
まあどっちの話でも困るんですけど?
だってミア様は聖女の話……に関してウィクリフの、ひいおじいちゃんの話だろうし。
イアス様の方は王家の……っていうかおじさんの話だろうし。
どっちに転んでも私が勝手に話をしていいパターンじゃ……。
(あっ、そうじゃん。どっちも私が勝手に答えられませんでお茶を濁せばいいんじゃん!!)
問い合わせはしときますね、でオッケーだよこれ。
私、あったまいいなあー!!
「じゃあまずミア様と話します。ジャミィルも同席するの?」
「ああ」
そして私はエスコートされるみたいにして右隣の部屋へ。
ノックして入ると、そこには厳しい顔をしたミア様がいた。
「……ウィクリフの書、ありがとう。読ませていただきました」
「はい」
「あまりのことに……目を覆いたくもなりましたが、これが我が王家が忘れてはならぬ罪……ウィクリフが我らを見限ったとしても、それは仕方のない話だったと、よく理解しました」
「ミア様……」
「だけれど、この罪を公表することはできません。哀れな異世界の少女は、聖女として強く立った、表向きはそれを守らなければならない。……だけれど、もし、許してもらえるならばあのウィクリフの書を……我が王家でそのまま保管させてもらっても良いかしら。お母様に、女王に見せたいと思うの」
「女王陛下がどう思うかはわかりませんよ?」
「……そうね。だけれど、次代を担うものとして私はあれを、心に刻み、そして繋いでいきたい。聖女の力は確かに薄れ、それゆえに王家としての求心力は弱まっていると……そのことから大変なことを仕出かすところだったわ。ありがとう、マリカノンナ」
「私は特に何も」
うん、何もしてない。
ただ、聖女召喚は誘拐だって事実を言葉にしただけだ。
「疑わないんですか」
「……確かに、これが本当なのかと疑ってかかったわ。だけれど、あまりにもその内容は……伝説なんてものじゃない。生々しいもので……正しくなければ、彼女の葛藤や絶望を、あんな英雄譚ではなく……」
ミア様は苦々しい表情だ。
だけど、それは彼女がきちんと〝聖女〟という役割を押し付けられた女の子のことを思いやれる『良い人』だからこそなんだと思う。
少しだけ苦しそうな表情をみせたミア様だけど、すぐに凜とした表情に戻った。
「信じるに値すると、思ったわ。わたくしにとっては、それが大切なの」
「……そうですか」
「ただそれを伝えようと思ったの。それから」
そしてミア様はじっと私を見る。
それは探るとか、恐れとか、そういうものじゃなくてただ真っ直ぐなものだ。
「ねえ、マリカノンナ。ウィクリフって何者なのかしら?」
「……それは、どういう意味?」
「そのままの意味よ。……これからイアス殿下とも話をするんだったわね、その後でいいわ。もし貴女がわたくしたちを信頼してくれるのならば……話して。お互いに、協力していけるかもしれないでしょう?」
「……」
おっとお、これはどうしたらいいんだろう。
思っていたのとは違う提案をされてしまった。
どちらかというと〝お気持ち表明〟みたいなのをされてしまっただけなので、私自身と話したいとかそういうのってもしやウィクリフとは何者か、その一点なのかしら?
(おやおや? 雲行きが怪しいな……)
胃が、本格的に痛くなってきたぞ。
思わず顔を引きつらせる私に、ジャミィルがにんまりと猫みたいに笑ったのだった。
お前か! お前が画策したのか!!




