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その後、歴史書の写本……という名のひいおじいちゃんの日記抜粋みたいなやつをミア様に渡した。
私の目の前で少しだけ本の中身を見たミア様がなんとも言えない表情をしていたけど、あえて私は気づかないふりをした。
ミア様もすぐになんでもないって顔をしたし、多分それでいいんだろう。
(みんな、なにかしら……知らない振りをして生きるんだな)
ならやっぱり〝吸血鬼〟の歴史について、人間族は知らない振りをし続けるべきなんだろうか。自分たちの罪を認めろと、先祖の罪を突きつけられても困ってしまうだろうから。
もう時代は変わって、私たちだけがその時間に生きているなら私たちが我慢すれば済むことなんだろうか。
わっかんないなあ。
イアス様もあれから何にも言ってこない。
早めに結論を出すとか言ってたけど、まあ上の人たちの考えなんてわかるもんじゃないよね。個人の意見だけでどうこうって問題じゃないだろうからさ。
「マリカノンナちゃん?」
「どうしたの、イナンナ」
「……ううん、マリカノンナちゃんこそ、どうしたの? 何か……悩み事?」
「大したことじゃないよ」
そう、きっと大したことじゃないんだ。
世界中の大勢の意見の前じゃ私一人の言葉なんてきっと届きやしない。
(でも、やっぱり)
知ってくれる人が一人でもいてくれたなら、それはすごく心強いんだろうなって思うのだ。
おじさんにとっての、愛した人のように。
一族全体が、戦うことよりも人間族の罪を黙って受け入れたのも、彼らを思えばこそだ。
本当に嫌っているのなら、全力で抗って……おそらくどちらもただでは済まないけど、でもそういう意見があるってのは世に響かせられたはずで、でもそれをしなかったのは相手を傷つけないために引いただけだと思う。
私は、私個人の気持ちと、そしてウィクリフの名前の元で何ができるのだろうか。
偉い人たちに声を届けたい?
そうしたら、きっと下の人たちにいつか届くから?
――たとえそれが、私個人を疎まれることになっても?
(うん、割り切れないわ)
無理! 嫌われたくないし吸血鬼の地位向上は諦めたくない!!
やはりここは私という存在をきちんと知らしめて親しい関係を築き上げ、『マリカノンナという見本がいるんだから吸血鬼は怖くない』と理解してもらうのが一番正しい方法な気がしてきた!!
「イナーンナ」
「どしたの?」
「ねえ、デートしない?」
「ええっ?」
唐突な私の発言にイナンナは目を丸くして、それから笑ってくれた。
周りをキョロキョロと見回して、そっと内緒話をするみたいに身を屈める。
おっ、なかなかノリノリだね?
「でもそれはまた後でにしようね」
「えっ」
「ほら、お迎えきたよ」
にっこり笑うイナンナはとっても可愛いけどね?
私はその言葉にギクリとしてしまう。
だってほら、私って吸血鬼じゃない?
だから常人よりも聴力が優れているし、なんなら背後の方からこちらに向かってくる足音が誰のものかとかもわかっちゃうわけですよ。
そういう理由で必殺の『先約ができたから』っていう断り文句をゲットしたくてだね?
しかしそんな私の願いも虚しく、背後からぽんっと肩を叩かれる。
「マリカノンナ、迎えに来たぞ」
「俺たちの主人がきみと話がしたいっていうから行こうか」
とても良い笑顔のジャミィルとハルトヴィヒに、今は会いたくなかったなあ、なんて口が裂けても言えそうになかったのでした……とほ。




