45
まあ詳しいことは話せないし、多分ジャミィルも求めていない。はずだ。
そしてそれは正解だったらしく、彼はまた少し考えてから口を開く。
「俺は俺の見たものしか信じないタチで」
「うん」
「正直なところをいえば、聖女ってのも姫様に会うまで象徴的なもんでしかないと思っていた」
「……うん」
まあ普通はそうだと思うよ!
ちなみにミア様には確かに〝聖なる力〟ってやつが宿っていると思う。
私たちが持つ魔力とも違う、特殊なナニカだ。
それについては私たちの間でも意見が割れていて、他の世界から来たからあちらで当たり前のように有している魔力だから違って当然だという説と、世界を渡ることによって神々の恩恵……つまり神力を人間が扱える程度に分け与えられたのではという説、それから突然変異説とまあ、色々ある。
本当に色々。
ただどれが正しいかとかそれが問題じゃない。
私たちにとって、聖女は可哀想なオンナノコ。
そこがポイントなのだ。
誘拐された挙げ句に特殊な力を持たされて泣いていた女の子のイメージしかないから、それを真似る、もしくは量産できたらそんな可哀想な子が生まれないのでは!? っていう研究理由だからね。
まあ結局サンプルが一人しかいなかったから、総括として『まず召喚させない』とここに集約したわけだけども。
「エルフは見た目が綺麗だけどずる賢い、これは俺の爺さんが言ってたんだけど……カレンデュラ先生を見てるとそうだなと俺も感じた」
「わかる」
思わず大きく頷いてしまった。
いやだってあの人絶対腹黒じゃない。
多分、うちのおじさんの方がロマンチストで性善説とか信じてそうだもの。
そういうタイプだからあのアダルト三人組はいい友人やってられるんだろうけどね。
「だから」
「え?」
「だから、お前がもし人間じゃなくても……っていう問いに対しては、俺は俺の見たままの、マリカノンナだから、好ましいと思ってる。だめか? これじゃ」
少し困ったように小首を傾げて言うとか、お前自分の顔面偏差値わかっててやってるよな!?
思わずグッと胸が痛くなったけどときめきってこんな心臓痛くなるもんだったかしら!?
くそうジャミィルめ、恐ろしい子ッ!
「……ジャミィルがそう言ってくれるのは嬉しいけど、私にも色々秘密がある。ジャミィルが言えないようにね」
「……なるほど?」
「ただ、私に対してちゃんと好意を持ってくれているってのがわかって、それは正直……まあ、嬉しい。だからその反対で、その好意が一気に反転しそうで怖いっていうか」
ジャミィルは正直な気持ちで話してくれたんだと、私は判断した。
だから私も正直な気持ちを話す。
「好きとか恋愛的な感情は、正直なところ……よくわかんないかな。ただ、私も怖いなって思うことはたくさんあって、その中で嫌われたくないって気持ちもあって……」
「うん」
「私の隠している話をしたら、みんながどう思うのかわからない。正直、そこが一番怖いかな」
仲良くなった人たちが、吸血鬼だと知って掌を返したらどうするだろうか?
そう思うと、やっぱり隠し通した生活をするのが一番無難なんだろうなって思う。
そして、そう思ったからこそ、私たち吸血鬼は……吸血鬼って名前と、恐ろしい生き物なのだっていうのを甘んじて受け入れているのかもしれない。
何かを変えるために頑張ろう! って思ったけど、何かを変えるために失うかもしれないと思うことがこんなに怖いことだとは思わなかった。
(もしかして、家族の誰も止めなかったのは……言って聞かせるよりも、感じ取らせるためだったのかな)
多分そうだろうなって私も思う。
私くらい美少女で頭も良くて要領がいいならきっとあっという間にとまではいかなくても、吸血鬼の地位向上のとっかかりを作れるってどこかで安易に考えていたもの。
友達百人できるかなとか、ちょびっとくらい恋愛なんかしちゃって~……とか夢見たけど、それは全部『吸血鬼』ってことを隠して成り立っている。
吸血鬼はこの世界の害悪。
そう呼ばれていることを変えるということは、その世界に飛び込むということなのだから、要するに悪意の海に一人で飛び込む以上嫌われる覚悟が必要なのだ。
(嫌われたくないなあ)
目の前のジャミィルは、私の言葉に耳を傾けながらジッとただ、私の目を見ていた。
その黒くて綺麗な目には、私の情けない顔が映っていて、なんだか泣きたくなったのだった。




