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「うーん」
ジャミィルは突然の私の質問に驚くこともなく、少し考えているようだ。
でもそれは嫌悪感とか、それを誤魔化す言葉を探すというよりはもっと……なんだろう、なんていうか『これまで考えたことがありませんでした』って感じだった。
「よくわからないんだよな。サタルーナはそれこそ王家以外は割と緩いというか、他の国の人間も良く行き来するし……だけど、他の種族が来ること自体が、あまりなくて」
「……うん」
それについては私も理由を知っている。
ただ、多分、サタルーナの人間は忘れてしまったんだと思う。
人間は、忘れる生き物だ。
勿論、私たち吸血鬼や他にもエルフ、ドワーフ、みんな忘れてしまうことくらいある。
でも、尺度が違う。
私たちにとってつい昨日のように思い出せる出来事も、人間族からしたら親や祖父母世代の話になってしまうから。
そうして私たちにとってつい昨日の出来事、が……彼らにとって遠い昔の話ということになって、結果忘れられたり歪められたりするのは、まあ当然といえば当然っていうか……。
こちらとしては複雑な気持ちになるんだけどね!
「サタルーナにエルフたちすら来ないのは、嫌われているからか?」
そんな複雑な気持ちになった私に気づいたのか、ジャミィルが苦笑しながらそう聞いてきた。
くそう、核心を突いてきやがるぜ!
「……そうよ」
だがここで否定したり誤魔化してもしょうがないのだろう。
私は素直に頷いてみせた。
「聖女に関連している?」
「うん」
そう、始まりは聖女だった。
その頃はまだサタルーナはサタルーナという名前の国じゃなくて、別の物だった。
そして当時はまだ他の種族もたくさんいて、交易が盛んだったって聞いている。
だけど王侯貴族の腐敗から、争いが起きていた中で招かれた異世界の少女がいた。
突然攫われた彼女の嘆きをよそに、その力を欲した連中の醜い争いが勃発しちゃったもんだから当時の良識ある貴族たちと交流のあったひいおじいちゃんや、その他のエルフとか、他の貴族たちが彼女を護ったんだよね。
ひいおじいちゃんやその他の人間族以外の種族からしてみれば、その攫われてきた異世界の少女は本当にただの幼子みたいなもので、自分たちと似たように特殊な能力を持っていたからって小さな子供が『家に帰りたい』『お父さんお母さんに会いたい』と泣いているだけなんだもの!
あれは可哀想だった、そうひいおじいちゃんも言ってたね……。
(気になって私も少しだけ調べたけど、愛し愛されて育った異世界の子が招かれると聖女になるんだってね)
なら、〝聖女を召喚した〟ならそれは誰かに愛され、大切に育てられて、そしてその愛に応えて幸せな生活を送っている子が誘拐されてしまうってことなのだ。
虐待されている子が異世界に招かれてハッピーエンド! ってわけにはまずいかない世界、それがここなのだ。
愛し愛されることを知っているからこその〝聖女〟。
これからそれを知るのではなく、既に知っていることが大前提。
そう思うと大変世知辛い。
だけどまあ、そんな彼女を思いやれる状況にないまま、国は転覆した。
そして当時の良識的な貴族を含め、多くの人が〝聖女〟である少女に縋ってしまった。
【この悲しい状況を導く人になってくれ】
そう、人々に責任を押し付けられた少女。
そのあたりから、ひいおじいちゃんは詳しく話してくれなくなった。
ただ、貼り付けたような笑みで国民の幸せを祈る〝聖女〟が治める国を見たくないと、そこで袂を分かったと……まあ、そんな感じでまとめられた。
(ってそんな話できるかーいっ!)
いや、ひいおじいちゃんが編纂に関わった例のサタルーナの記録見たらわかるかもしれないけどね!!




