43
カフェに行くと、ラッキーなことにちょうど角のテーブル席が空いていた。
そこで向かい合わせに座って、私はカフェオレを、ジャミィルはブラックを頼んだ。
ううーん、なんだろうこの甘酸っぱい気持ち!!
決してジャミィルも私に『恋をしている』ってわけじゃなくて、『恋になるかも』っていう雰囲気なんだと思う。
実際、悪くない空気だし……なるほど、こうして恋は育てられていくのか……!
「うん、悪くないな」
「……ジャミィルってコーヒー好きなんだ」
「ああ、割と。うちは姫様もスィリーンも紅茶の方が好きでろくに飲めやしないんだけどな。実家は色んなモン置いてたけど、仕える主人に合わせろって感じで試させるだけで好きに飲んでいいわけじゃなかった」
「ふうん」
「マリカノンナんちは?」
「うちは……割とハーブティーが多かったかも。エルフたちにお裾分けしてもらったりするの。魔女たちが作るのは薬草茶だったから」
「なんだそれ、逆に気になるな……」
「美容と健康にはお勧めだよ」
そう、マジで効くんだよあれ……びっくりするよ。
エルフたちのハーブティーもこれまた美味しいんだ、色んな種類があってさあ!
人間族以外が作ったものだからって嫌われがちではあるけど、アレは是非試してもらいたい逸品だよ。
「……ジャミィルはさ、どうしたいの? わざわざこんな……」
「デートに誘ってまで?」
「そうはっきり言われると照れるな」
いや本当、照れるわ。
だけどこれは聞いておかないと私もジャミィルも、きっとなあなあになってしまうんだと思う。
逆に、その方が私にとっては都合がいいんだろうなって思うんだけど……でもそれはずるい気もした。
「どうしたい、か。正直にいえばお前が好ましいから、もっと知りたい。そういう感じだな」
「……異性として?」
「異性として」
はっきりとした好意を、口にされるとくすぐったい。
だけど、やっぱり私の中で『彼は私を人間だと思っているから』好意を抱いてくれているのだ……という事実に対して、申し訳なさと悔しさを覚えている。
かといってじゃあ、正体を明かすのかって言われるとそれは無理なんだけど……。
「……そっか……」
「微妙な顔をしてるな。まあ、いいさ……で、ご褒美にあれこれと聞いてるんだが不快だったら止める」
「今のところ大丈夫」
「なるほど?」
にやりと笑うジャミィルだけど、その目はどこか……探るようなんだけど、彼もまた不安そうだ。
私たちはこの関係をどうしたいのか、二人して手探りになっていて、滑稽だ。
なんせ、どちらからも踏み込めずにいるんだから。
でももし、本当の意味で私の手を取ってくれる人がいたら。
私が目指す先のことが、無駄じゃないってわかったら。
ちゃんと理解してもらえて、独りで頑張らなくてもいいんだとしたら……。
思わず、そう考えた。
これは恋とか愛とか全く関係のない、誰かに縋っているだけだって自分でもわかっているのに止められなかった。
「……スィリーンにも聞いたんだけどさ」
「うん?」
「ジャミィルは、もし、私が……人間族以外の存在だったら、どうするの?」




