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「スィリーンちゃんはジャミィルくん推すんだろうけど、わたしはヌルメラくん推すよ! マリカノンナちゃん!!」
「ええ……」
いや推してほしいとかどっちを選ぶか迷っちゃ~う☆とかそういう話じゃないのよ、イナンナさん。
私としては急に友達だと思っていた二人が態度変えてきたんだけど、どう? みたいな話がしたかったのであって……ってまあジャミィルは割と最初からそうだったということが発覚した今、私が鈍感だったのかもしれないんだけども。
(……おじさんに相談してもいいものか)
ジャミィルとかハルトヴィヒのアプローチはともかくとして、私が今後この学術都市で生活する中の目標として掲げる一つに『恋愛する』ってものがある。
ただ二人にアプローチされてそれが現実味を帯びた今、自分の種族特性による問題とか黙ってなきゃとか色々問題が山積みであることから目を背けられなくなってしまった。
地位向上を訴えて、普通に暮らせたとしても……一生涯つきまとう問題だよこれ。
いや、吸血鬼が危険じゃないって周知されたら問題じゃなくなるんだろうけど。
実年齢? いやまあそこは置いておこうじゃないですかハハハ。
「ハルトヴィヒとイナンナってそんな仲良かったっけ?」
「うーんとね、ヌルメラ君がマリカノンナちゃんのこと聞きにくるついでに一言二言会話する程度かなあ。あ、でもうちのお店に何度か買い物も来てくれてたよ」
「……そっか」
なんだろう、私の周りに包囲網が敷かれている気がしないでもない。
何度も言うようだけどあの二人がいやとかそういうことじゃなくてだな……。
ううーん、やっぱりネックなのは種族なのか。そうなのか!
「……マリカノンナは何がそんなに引っかかってるわけ? アンタ恋人がほしいとかイナンナに言ったことあるんでしょ?」
「えっ、そんなこと言ったっけ……」
「言ってたよう、二人で恋バナしたじゃない! ……こんな人がいいなって」
それ恋バナって言えるのか?
まあしたな、そんな感じの!!
「何がって……そうだなあ。うーん」
引っかかってるのは、種族間の問題。
だけどそれをここでぶっちゃけるわけにもいかない。
悩ましい!
「……私、サナディアの出身で、いろんな種族がいるところから来たでしょ」
「そうね?」
「田舎者とかそういう風に言われることはないけど、でもなんていうか、こっちまで来て他種族に対する態度とか見たらさ、価値観の違いとか出てきちゃいそうで」
「……それはそうね」
遠回しに実際の悩みと似たようなことを口にすれば、二人もうーんと考え込んだ。
それを見て、ふと私は口にする。
「もし、もしもさ? 私が人間族じゃないって言ったら、二人はどう思う?」
「え?」
「もしもの話!」
純粋な人間族じゃなくて、混血とか呪われ児とか好き勝手言われるような人たちもいて、彼らは大体出自を隠している。身の安全の為だ。
残念ながら人間族が大半を占める世界では、少数派はやはり肩身が狭い。
イアス様が躊躇っているのだって、そこに理由があるのだと思う。
神に愛されたから特別な力を授かった王族という目から、人間族以外の血を受け入れた異端の一族と見られることは……かなり怖いよね。
「そうねえ、あんまり気にはしないかしら。あたしはね。平民だし。ただまあ、もしミア様がそういう相手と恋愛するってなったら身分差とかもあるから反対は一応するかしら」
「わたしは気にならないかなあ、お店に来るお客さんっていろんな人がいるからね!」
「……そっか」
「イナンナじゃないけど、人間族の中でも部族や国、地域の違いで差があるくらいだしね。他種族って特に区切るのは……まあ残念ながらサタルーナじゃよくあるって言うと語弊があるかもしれないし、説得力はないけど……ミア様もあたしも、そういう意味ではあまり偏見がないほうよ?」
まあそりゃそうだよね、そこもわかっているのだ。
でも私の場合、もっと問題なんだよなあ。
世界中で忌み嫌われてる、吸血鬼だもん!
(……それを告げたら、彼女たちは私から離れてしまうんだろうか)
いつか、そうやって隠さなくて済むように努力をしてのし上がるんだって希望を抱いてこの町に来たのに。
知り合った彼女たちに、それを明かすのは怖くてできないなんてお笑いぐさだ。
「大抵の厄介ごとはジャミィルにぶん投げてみるといいわよ! アイツ、実家からヤバイ連中との取引も任されたことあるしなんとかしてくれるわ。あたしが保証してあげる!」
うん、なんか励ましてくれるのはわかるんだけどね?
君は何を言ってるのかわかってるのかね、スィリーンちゃん!




