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ハルトヴィヒの質問に、私は思わず間抜けな声を出してしまった。
だけどすぐに気を取り直して、私は考える。
好きな色、好きな色……ええと、そんな急に聞かれてしまって上手く言葉が出ない。
「え? ええと……私、薄い紫とか青とかが好きよ? あとオフホワイトも好きだけど……でもそれがどうしたの?」
というかウィクリフの知恵じゃなくていいのか?
さすがに質問が何も思いつかなかったからってお茶を濁すのに私の好きな色とか、女性慣れした男を匂わせなくてもいいんだぞ?
(……そういう、茶化す雰囲気でもなかったけど)
んもう、ジャミィルといいハルトヴィヒといい、調子狂うなあ!!
でも実際に遠巻きに今は男子が私のことを見ているけど、私が想像に描いていたようなモテ期が到来すると今みたいな会話はしょっちゅうとかそういう話になるのか?
え? あれ?
これって私モテてんのか?
まっさかー!
ハルトヴィヒも王子のためにってんで献身だろうしね。
わかってるわかってる。おねえちゃんわかってるんだぞう。
余計な期待はしないよ。
私は君たちと良い友人関係でありたいからね!
私は年上として彼らの好意をきちんと受け取った上で大人の対応をすればいいのだ、そう決めてハルトヴィヒににこりと笑いかける。
「私の好きな色だけじゃ、ご褒美にもなんにもならないでしょ。他にも質問してイイヨ?」
ほーらおねえちゃんがここは譲ってあげようじゃないか!
イアス様のために質問したい気持ちを抑えてるんだろう? わかってんだぞー!
だけど、ハルトヴィヒは相変わらず真面目くさった表情のままだ。
「なら、その言葉に甘えてもう一つ聞いていいか」
「う、うん」
なんでそんなすごく、すごーく、こう、熱っぽい目で私を見ているんだろう。
こっちまでジワジワと体が熱を持ったみたいになって、こう……そわそわしてしまうじゃないか。
「僕がお前にプレゼントをしたら、受け取ってくれるか?」
「え?」
「受け取るか、受け取らないか、それだけでいい」
「……そ、それは……ええと? うん、よっぽど高価なのとか、嫌がらせみたいなものとかじゃなければ受け取ると思う、けど……」
「そうか」
いやいやいやいやいや質問の意図がまるでわからないんですけど!?
なんだよもうそれ質問っていうかさあ、なんかさあ!
(……本当に私に好かれたいみたいじゃん!!)
ハルトヴィヒどうしたんだよお前そういうキャラじゃなかっただろ!?
困惑する私をよそに、彼ははにかむような笑みを浮かべた。
それも、ものすっごく嬉しそうに、だ。
んああああああああああああ!!
どうしたんだよお前らあああああああああああああああ!!
「それじゃあ、僕は戻る。今日はお前も出歩かずにきちんと休めよ、マリカノンナ」
「え? あ、う、うん」
「また明日」
「……また明日」
一体全体どうしたって言うんだ?
私は何かおかしなことをしたのか?
はっ、いや私が美少女で魅力的だってことに彼らがようやく理解した!?
……それはないな。
これまでも一緒にいたし、なんだかんだミア様とか上流階級の女子はとても綺麗な子が多い。
所作なんて洗練されたなんて一言で片付けていいもんじゃないくらい綺麗な子がたくさんいる。
私も勿論、ひいおばあちゃんや他の親戚から叩きこまれちゃいるけど、どうにも古くさいらしくてね……センセイにも「古式ゆかしい礼儀作法は私も好きだが、新しく学べることっていいもんだよ」なんて笑われたから今絶賛勉強中の私からすると大変参考になりますってな感じで。
そんな彼女たちを間近で見ているはずのジャミィルとハルトヴィヒが、今更、頭脳明晰な美少女ってだけで私にコロリと落ちるとは思えないんだよなあ!
「んんん」
少し悩んでみて、私は考えることを放棄した。
人の気持ちなんて想像してみたところで本人にしかわからないし、彼らが私を異性として思ってくれているかどうかも不明だ。
恋はなんてことないきっかけで落ちるもんだってばあちゃん言ってたもん!
私が頭で考えてたって仕方ないよね!!
こういう時は一人で悩んでもしょうがないのだ、頼るべき友達が私にはいるじゃないか!!
ってことで私はハルトヴィヒの言葉を聞かなかったフリをして、町へと繰り出すのであった。




