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その後のことは正直よくわからない。
ただ、幾人かの行方不明者が見つかったとか、騎士団と隣国が協力したとか……そんな感じの話がいくつか上がったくらいだろうか?
犯人については複数の誘拐犯ってだけの発表に留められ、発見された行方不明者たちはいずれも衰弱していて学生だった人は退学になったという噂も流れた。
真偽の程はわからない。
なんせここの学校、授業がハイレベルだから早々にリタイアする人が後を絶たないもんだからさ!
行方不明だったのか、自主的に辞めていったのか、そこは難しいところである。
少なくとも私が親しくしている人にはいないってことで。
さて、この一連の問題が片付いて大団円!
ってワケには勿論いかない。
いかないったらいかないのだ。
理由は私が定めた『ご褒美』である。
「……ってことでおじさんどうするゥ?」
「どうするって、お前……」
ミア様が求めるウィクリフによって記され、そして消された部分――おそらく聖女の記述がある部分ってことでひいおじいちゃんにお願いしたところ、全部覚えているから写本ということで来月には届くということで解決。
まあそれを読んでどう思うか、その処分をどうするかってことは……ミア様にお任せでいいんだろう。
でもイアス様の方はだめだ。
私自身知っている相手であるし、教えるだけならいいけどいや教えられるわけないじゃん!?
いや、図書館でおじさんに会った時は変装させてたから事なきを得たんだけど、いつまでもそれでいいのかって言われると……。
「ここは無難にうちの先祖でしたーってオチにしとく? なんで知りたがっていたのかってのがあるけど……」
「……おそらく、うちの一族の血が混じったことで常人じゃない力を得たってことを彼らも理解しているんじゃないか。それがなんであるか知ろうとしているなら、逆に親戚だとはっきり告げればカタルージア側からサナディアまで手が伸びてくるかもしれない」
「うっ……」
うちの一族が人間族の間諜にやられるってことはないのはわかっているけど、やっつけすぎたり煙に巻きすぎても厄介なのは事実だ。
「理由を聞いてきてくれるか?」
「仕方ないなあ……ハルトヴィヒにも何かあるか聞かないといけないし」
あの事件についても、イアス様から教えてもらえるかもしれないしね!
大事な伯父のお願いだしってことで、私は早速翌日馬術部へ行って彼らとコンタクトを取った。
「ってわけで、念のため何故その人について知りたいか……というのを聞いた方がいいっておじさんが言うので」
「なるほどね、理由はわかった」
イアス様は苦笑して私を招き、人気のない方へと……って、ハルトヴィヒがついてきてるから色気のある雰囲気ではないけどね!
というかまあ、話している内容が内容なのでそんな空気になりようもないのだけど。
「見つけてどうなるって話じゃない。ただ君の系譜だというなら、ぼくらの家系で不思議な力が生ずる理由が知りたいと思って。……この力は便利だとぼくは思っている。ちなみにぼくは治癒力が高くてね……まあ、それだけなんだけど」
「はあ」
「おかげで暗殺を何度されてもこうしてピンピンしてる」
いやそれ爽やか笑顔で言うことじゃないなあ!?
思わず顔が引きつってしまった。
ええ……王族って大変だなあ。
「……恐ろしいかい」
「え? いや別に」
なんなら似た体質ですんで!
さすがにそれは口に出せないけどさ。
(あ、あー、なるほどね)
だけどそこで私の反応に裏も表もないことを察して目を丸くしたイアス様と、そんな主人と私の会話を聞いていたハルトヴィヒの反応から気づいてしまった。
「……イアス様は、もし人でない者の血が混じっていたら怖いなって思った……ってことですかね?」
「……え。いや、……うーん、似たような、でも違うかな」
「違う?」
「そう。僕は、僕のルーツがただ……知りたくて。いやでもそうか、人じゃない者が交じったんだろうなとは思ってたけど、その正体を知ったら僕は僕でいられるのかな」
「えっ、それは私にはわかりませんけど……今更知っても知らなくても変えようなくないです?」
私の言葉にイアス様は困ったように笑った。
上手に、笑って誤魔化すんだなあと思ったら……ちょっとこの子が、可哀想に思えた。
「もう少しだけ、悩んでみるね。そう待たせないって約束するよ」
「はい」
「……ハルトヴィヒ、彼女を送ってあげて」
「かしこまりました」
そうか、その特異体質があるから王子を一人置いてハルトヴィヒはほいほい離れるワケか。
離れたいわけじゃなくて、簡単に死なないと自覚している王子が自分は大丈夫だと強く言えばハルトヴィヒが強く出られるはずもない。
(……まあそれでもイアス様は人間だから、限界ってものがあると理解してくれてりゃいいけどね……)
吸血鬼は万能じゃない。
人間族に比べれば成長もかなりゆるやかだけど、いつかは死ぬんだ。だって生き物だし。
その形質を少しだけ分け与えられて、人よりすごくてもいつかは死ぬってことを理解して生きてくれたらいいのになあと思う。
でも王族っていう立場が人生を謳歌するだけじゃ許されない環境ってのを作っているのかと思うと、なかなか複雑だ。
(もし、彼が……理解者になってくれたらな)
そしたら、そう遠くない未来、吸血鬼も受け入れてもらえるかもしれない。
ああでもそんな簡単な話じゃないか。
私がため息を漏らしたところで、ハルトヴィヒが歩みを止めた。
「どしたの?」
「……僕も、聞いていいか」
「え? ああ、ご褒美のヤツ? いいよー、質問聞いて答えられるものならね!」
「なら」
ハルトヴィヒが緊張した表情で私をじっと見る。
その顔はいつもの甘く人を誑かすような笑みじゃなくて、すっごく緊張して引きつっているようにも見えて、でもそれが逆に等身大の彼のような気がした。
(いつものヘラヘラしてるのより、そっちのがかっこいいのになあ)
暢気にそんなことを思う私に、彼は意を決したように口を開く。
そんな意気込まなくてもいいのになと思ったけど、さすがに茶化すようなことはしない。
「マリカノンナ!」
「うん」
「……お前の好きな色を、教えてくれ」
勢いよく名前を呼ばれ、そして、問われた内容。
それを理解して私は目を瞬かせた。
「……は?」




