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「ビンゴぉ?」
私の言葉に男たちがキョトンとする。
おっといけない、このうっかり失言癖はきっとおじさんのがうつったんだな。
私はパッと口元を押さえつつ、周囲をもう一度警戒する。
ただ攫うだけの様子なら大人しく攫われて……とも思ったけど、こいつら私にイタズラする気満々だしなあ。
まあ私みたいな超美少女を前にしたらそりゃ仕方ないってモノかもしれないんだけど?
ただそれで私も『なら仕方ないね!』でお触りを許可する気はこれっぽっちもないわけよ。
(でもあのブレスレットがあればなんとかなりそう)
あれには精神に何か影響を及ぼすような魔法を感じる。
ハルトヴィヒやジャミィルからは私の行動は見えないだろうけど、大人たちはわかっているはずだ。
私は少しだけ加減して目の前の二人の腹を問答無用でグーパンチする。
ゲボッて音が片方からは聞えたが、大丈夫私は無事だよ!!
「ふー」
加減するって難しいよね!
やりきった感でものすごく私は満足だ。
いやこんなことで満足しちゃいけないんだけど。
とりあえず男の手から落ちたブレスレットを触れずに眺める。
(うーん、これはセンセイにお任せした方がいいかなー)
とりあえず直接触れるのは何か怖いよね。
隠蔽がバレてもあれだし……でもこの男が直接触ってたんだから大丈夫か?
「マリカノンナ!」
どうしたもんかと首を傾げていると、どうやら私が戦ったようだと大人たちが二人に教えたようだ。
血相変えてやってくるもんだから、なんだかちょっぴりおかしいやら……嬉しいやら。
(いやいや絆されるなマリカノンナ。彼らは私が吸血鬼だって知らないから心配してくれるのであって……もしバレたら速攻剣を向けられるんだって立場を忘れちゃいけないぞッ!)
自分にそんなこと言い聞かせるのも悲しんだけど、これが現実だからなあ。
その現状を打破するためにも今は一歩ずつ前進するんだ!
「大丈夫か、襲われたのか!」
「うん、まあ撃退した。でもまず間違いなく関係者だと思うよ」
「何?」
「センセイ、あのブレスレット、あれ嵌めるとなんかあるみたいなんでお願いしていいですか。あとおじさん、こいつら騎士隊に渡す? それとも……」
「騎士隊には渡さない。……とはいえ縛って王子と王女には報告した方がいいだろう」
おじさんに言わせると、騎士隊自体の質は悪くないはずだし実際ここの町での警備はこれだけしっかりしているのに、定期的に人が行方不明者になるのは上層部に悪魔に乗っ取られた人が少なからず関係しているのではというのだ。
だから引き渡したところで背後関係が見つけられなかったとか、下っ端過ぎて何も知らなかった……で釈放される可能性があるという。
「だから先にこちらで尋問した方がいいだろう。その方法は……まあ、子供には聞かせられないな!」
爽やかな笑顔で物騒なことを言うおじさんに、ジャミィルとハルトヴィヒが胡乱な眼差しを向けていた。
いやまあ吸血鬼一族がお得意の催眠術で自白させるだけだとは思うけど……さすがに拷問めいたことはしないと思うよ。
こう見えておじさん、割ときれい好きだからね!
小汚いオッサン触りたくないと思うよ!!
「……殿下に報告ということには賛成だ」
「姫様も待ってるだろうしな……」
「それじゃあ俺の隠れ家で一旦こいつらを引き受ける。得た情報は必ずそちらに伝える。それでいいか?」
おじさんの言葉に二人は納得し切れていない様子で頷いた。
だけどまあ、おじさんも馬鹿正直に全部は情報を教えないだろうし……どこまで話すつもりなんだろう?
「マリカノンナ、二人と一緒にレストランに行ってくれ。騎士隊への対処を王子と王女にお願いしておいてくれるかい? エランヴィル、運ぶぞ」
「仕方ないね」
苦笑しながらセンセイが例のブレスレットを拾い上げて「なるほど、精神に干渉する呪いか」と呟いた。
私の見立てはあっていたようだ。ふふふ。
「こいつをどちらかに装着させて様子を見てみるかい? どこに行くとかの暗示がかかっている可能性があるし」
「そうだな、情報を聞き出したら試してみるのもいいだろう」
大人たちが悪い笑顔で恐ろしいことを言うのを聞いて、私たち三人は顔を見合わせる。
これ以上ここにいても、私たちにはどうしようもないのだという意味を込めて私が肩を竦めて見せると、ジャミィルとハルトヴィヒは大きくため息を吐き出したのだった。




