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しっかりグラタンとサラダ、ついでにローストビーフに期間限定ドリンクをいただいて私はご機嫌でレストランを後にした。
後悔があるとすればデザートを食べていないことだけど……まあそれは今回ので上手いこと尻尾を掴めたら……って魂を取られた人間ってどうなるんだろう。
生体エネルギーをかっぱらうとか言っていたハインケルに頼めば上手いことやってくれるんだろうか?
いやいやその場合は人間族である彼らになんて説明するのよ。
エルフと吸血鬼と悪魔で共謀して人間族を助けましたって?
どう考えてもなんか悪いことやらかしてましたって思われる組み合わせですね?
(……まあいいか、そこはおじさんたちに任せれば)
私がすべきはご機嫌なまま路地裏っていう近道を通って帰るだけ。
幸いにして餌には見事にかかってくれるらしい。
ああ、なんて都合がいいのかしら!
(私みたいな美少女に引っかかんないのも困っちゃうけどね!)
ああでも学園じゃ高嶺の花って遠巻きにされちゃってるから、人攫いにもそういうのあるのかなあ?
これが普通に人身売買なら高値がつくからって喜ばれそうな気もするけどさ。
(それにしてもハインケルの隠蔽ってどんな風に見えてんのかな)
路地裏に入ると一気に大通りの喧噪が遠のいた気がするから不思議だ。
少し顔を上げると、建物と建物の隙間にお月様が見える。
とはいえ、常人なら足元が見えなくなるくらい、ここは月明かりが届かない場所だ。
どこかの窓が開いていて、喧嘩をする人の声が聞えたりとああここでも当然ながら人の生活が、営みがあるのだと思うとどこかホッとした。
(……その割にはみんな簡単に攫われたってことは)
悪魔の魔法か、あるいは薬品か。
どちらにせよ私には効かないから、襲われたらとっととやっつけるが吉ってね。
「よ~ぉ、お嬢ちゃんコンバンワア!」
「うわ驚いた」
素で驚いたわ!
見事な小者感ありがとうございます、ぼーっとしててすみませんでした。
私の前に現れたのは『ザ・チンピラ』って感じの二人組だ。
でもどうやら気配的には違う?
どうするべきか……ここでやっつけるのは簡単だけど、私が強いことを知ったら相手は引いてしまうのではないか?
だが周囲にこいつら以外、こちらに視線を向けている者はいない、と思う。
自慢じゃないけど私はウィクリフの中でもかなり英才教育を受けているクチだ。
今になって思うとなんでそんなこと教えた? くらいのことまで知っている。
いやほら、剥製の作り方とか火起こしとかそこはまあ教養の範囲としても暗殺の仕方とか毒物の取り扱いとか。
人間に限らず生き物のどこが急所で、吸血行為は最悪の時だけだけどその際は……とかの注意事項とかね。
(おじさんも教えられたって言うけど、一体何でだろう?)
あの頃の私はまだ前世を思い出す前だから疑問を抱かず、ただ普通に親類縁者から教えてもらうことを吸収したって感じだった。
でも今にして思えばおかしいよな?
まあここ数千年のうちで私はものすごく覚えのいい生徒だったらしく、親類縁者大喜びで余計な知識まで教え込んでいたっていう説がなくもない。
あの人たち、基本は本を読む以外は暇だから……。
(さて、そんなことを考えている場合じゃないな)
私は改めて相手を見る。
彼らは幸いな事に私が怯えていると思っているらしく、にやにやと下卑た笑みを浮かべるばかりだ。
「こわくないよぉ~、ちょおっとおれたちと遊んだら後は素敵なトコに連れてってあげるからさア」
「そうだよお、特別綺麗な場所に連れてってあげるからねえ。ほら、コイツみたいなキラキラしたアクセサリーとか、好きだろお?」
差し出されたのは、金色のブレスレット。
だがそれは私の目ならわかる、禍々しい光を放っていた。
「ビンゴ!」
あっ、思わずまたクチに出しちゃった!




