32
とりあえずポーカーでいかさまの方法をハインケルから教えてもらいつつ夜を過ごして私はまたこっそりと寮に帰り、そしてイナンナと一緒に登校した。
うん、完璧である。
ちょっと朝ご飯食べ損ねたのでお腹空いたけど、途中の花壇で少し生気を分けてもらったので解決。
……吸血鬼って究極にエコで、ついでに社畜向きの生き物じゃないかって考えになって身震いしてしまったのは内緒だ。
だって睡眠は最小限、食事も下手したら花一輪で済むし三ヶ月くらい徹夜も余裕だし長生きするし社畜にするには最適じゃない!?
やだ恐ろしい……!!
ハッ、もしやその事実に気がついた誰かが隷属させて袂を分かったとかそんな過去が……!?
(アホみたいな事考えてないでこれからのこと考えよ)
なんだかそこに触れてはならない気がする。主に前世の私が。
とりあえずセンセイが放課後にでも私たちを呼び出して、例の件を話すはずだ。
であるなら私は〝何も知らない〟状況でなければいけないワケで……。
これが厄介なんだよなあ。
「おはよう、マリカノンナ」
「おはようジャミィル」
クラスメイトにこいつがいるってだけでバレそうで怖いんだよな。
いや、伯父がこの町にいるってこととかだけでも伝えておくか?
「昨日は大丈夫だったか?」
「まあね、センセイがまさかいるとは思わなかったよね……まあ、実は私の伯父がこの町に来ていてその関係だったみたい」
「何?」
「うちの伯父はね、冒険者で旅人なんだよね。それで私がここに入学したって聞いて訪ねて来たみたい。センセイとは昔からの友人なんだってさ」
「……それはまた」
「おかげで学校生活のことも今後何かやらかしたら全部筒抜けなのかと思うと、きついなあ!」
あははと笑ってみせるとジャミィルも笑った。
いや割とそれ本気で思ってるんだけどね。
センセイのことだから、私があれこれやらかしたら絶対笑い話にしておじさんに話すと思うんだよね。
あの人性格悪そうじゃん?
面と向かって言うともっと厄介なことになるから絶対に口にはしないけどね!
「ジャミィルたちはあの後どうしたの?」
「どうもこうも、ただ宿に戻って寝た。……あちらの王子も、うちの姫様も今は策を練っているはずだ。このままにはしておけないと仰っておられてたからな」
「そう……」
「それはそうと、例の件について考えたんだが」
「え?」
「なんでもわかる範囲のことは答えてくれるんだよな?」
「あ、あー、あれね? うん、倫理的な問題でなければ」
聖女の件は何度も言うようにお断りだと言外に滲ませてそう笑顔を向けると、ジャミィルが口の端だけを持ち上げるようにしてニィっと笑った。
あっ悪い顔、そういうの好みだわ!
観賞用って意味でね?
「じゃあ、マリカノンナのことを教えてくれ」
「……はあ?」
「約束だ」
私がそれについて反論しようとしたところで、ちょうど担任が教室に入ってくる。
ジャミィルは、しれっと前を向いてもうこちらを見ていなかった。
……あれ、今、私口説かれた、のかな?
そう思ったらなんだか恥ずかしくなってしまった。




