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第三章突入です!
そして私たちは一度解散し、みんなが寝静まった頃を見計らって再びおじさんの隠れ家に集まった。
理由は単純だ、私は寮生なのでいつまでも帰らないと騎士隊に捜索願が出されてしまうからだ。
なので、周りが寝静まったのを確認してから抜け出してきたってわけ!
で、おじさんの隠れ家にいるとその人はいた。
人間そっくりの、でもまるで匂いが違う男の人。
無精髭がすごくって、どっから見てもアウトローって感じなんだけど女の人がほっとかない雰囲気がある。
「ハジメマシテ」
「おう、嬢ちゃんがラインハルトの姪っ子か。可愛いじゃねえか」
「マリカノンナに必要以上に近寄るな。うちの末姫だぞ」
ラインハルト――ラインハルト=アシュケナージ・ニェハ・ウィクリフ。
それが伯父の正しい名前だ。
ただそれを知る人は少ない。おじさんは大抵の時、自分のことをライと名乗るから。
ということは、この悪魔はおじさんにとって親しい友人って事なんだろう。
「……ちなみに悪魔さんもポーカー仲間?」
「まあ、そうなるな」
「へえ……じゃあ今度何か使えそうな方法を教えてもらおうかな」
「おう、いいぜ?」
にやりと笑った姿はあら、なかなか素敵!
私こういうワイルド系も実は好きなのよね。
ただ泣かされるのはいやなので、自分からのめり込むような真似はしないって決めているので、鑑賞させてもらうことにしよう。
「なかなか面白いお嬢ちゃんだな、ラインハルトの姪っ子にしちゃなかなか話がわかりそうだ。オレは悪魔族のハインケル。まあこいつらとは腐れ縁だし協力してやるよ」
「ありがとうございます」
悪魔は別次元の揺らぎの向こうに住まう種族、そう私たちは定義している。
だから弱いヤツは一人で出てこられないし、強いヤツは出て行く利点がなければ来る必要もないのだ。
わざわざ異世界に行きたいならそれなりの理由がいるでしょ? それだけの話。
で、悪魔が騒ぐってのはその言葉通り、揺らぎが薄くなるから下級悪魔がこちらに出てきやすいタイミングってわけだ。
そうして抜け出て異世界で暮らす中で上手いことエネルギーを蓄えると実体を持ち、自分で好き勝手できるという流れである。
この、ハインケルのように。
「で、どうするの?」
「囮はそのままウィクリフくんにお願いしようと思っているよ」
にっこりと笑ったセンセイの手には瓶とカードがある。
おいおい、子供を交えて賭け事するってか?
「幸いハインケルは誤魔化すのが得意なんだ。それでマリカノンナの吸血鬼としての気配を人間のものとすり替えて騙す」
悪魔ってのは一枚岩ってわけじゃない。
そもそも私たちと同じように好き勝手生きている中で、それなりに関係性とかはあるみたいだけど……要するに異世界に飛び出したい連中はそういう柵をポイ捨てして別天地で頑張っているだけなので、ハインケルが彼らに義理立てする必要もないらしい。
「どうせせせこましい連中が魔王とか大悪魔を呼び出すにはたくさん代償がいるとかなんとか言って、取り憑く際の肉体を用意してんだろ。それなりの代償を払うんだろうが、肉体を斡旋する連中はその肉体の魂と悪魔たちからの貢ぎ物でウハウハってわけだ」
「中々あくどい連中だな」
「本当だな。そんなうまい話があるんなら噛ませろってんだ」
カカカッと笑ったハインケルはセンセイから受け取った酒を瓶から直接飲んでご満悦だ。
なるほど、善人とは呼べない悪魔らしい悪魔。
その肉体の持ち主は一体何をやらかしてこの悪魔に乗っ取られたのか。
(それとも、肉体を作り出せるくらい強くなったのか)
まあおじさんの友人ってことなら警戒しすぎては失礼だろう。
それよりも囮作戦だ。
一応おじさんとセンセイによる説明によれば、おじさんは冒険者ってことにして旅の途中、姪っ子の様子を見に来たって設定にする。
センセイは私たちに無茶はしないように、だけどおじさんと自分が手伝うならオッケーだと許可を出す。
で、ハインケルはこっそりと私に隠蔽をかけて同胞をだまくらかして横から生体エネルギーをかっぱらう、と。
あれ? ハインケル悪人じゃん?




