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その後、若干パニックになった室内だったけどそこはやはり王族とその側近、すぐに落ち着いてくれた。
とはいえ、動揺はしているようだったけど……。
そこで私は魔族というのは魔力をその身に有した人間とよく似た種族であること、悪魔族はまた別物であることを説明した。
そのため魔王はその魔族の王であり、悪魔とはまったく別物なのだ。
とんだ風評被害だよねまったく!!
ちなみに魔族が人とよく似た姿でありながら魔力を有することで迫害されたという歴史もあるんだけど……まあそこに報復行動とかあれこれあったらしく、そのせいで魔族がイコールで悪魔みたいな図式になったのかもしれない。
まあその辺の違いについて何故詳しいのかって目を向けられたので「サナディアには普通に彼らも暮らしている」って答えておいた。
嘘はない。
ちなみにご近所に魔女がいるのも本当だし、その魔女は魔族の一人でエルフの旦那さんがいる。
彼女は星見の魔女というやつらしく、要するに占星術師なのだ。
時には天変地異なんかを預言したりもするけど、基本的には恋愛占いとか失せ物探しとかそういうのでお小遣いを稼いでる感じ。
「……マリカノンナは、他種族に対して思うところはないのか」
「ないね。むしろ人間族が何故他種族をそこまで恐れたり嫌うのかが不思議でこの学術都市で学ぼうと決めたんだよね」
「……そうか」
イアス様は顔色が悪かった。
彼もやはり他種族に対しては恐怖を感じているのだろう。
一応、王族として差別的なものは見せないのだろうけど。
(仕方ないか)
いきなり意識改革をしてくれって言ったところでそう簡単じゃないことくらい、私にも理解できている。
私が理不尽だと思うように、彼らは彼らでずっと恐怖の対象として教え込まされていたのだ。
常識を放り出して新しいものをインストールし直せと言う方が無理があるよね。
とはいえ、私の話をきちんと聞こうとする姿勢は嫌いじゃないよ!
「まあそれで話を戻すんだけど、魔族が関係ないって理解してもらった所で魔女から教えてもらった『悪魔の騒ぐ年』について説明するね」
「あ、ああ」
「まあこれは私もよくわかってないんだけど……悪魔ってのは基本的に別世界? 別次元? の生き物だから、自由に行き来はしないんだって。でもそれは鏡の向こうみたいな本当に近いところだって聞いた」
「かがみのむこう」
「まあなんとなくでいいよ。鏡を見た時に映る世界が別のものかもしれないってこと」
「む……」
ハルトヴィヒがすごく難しい顔をしているけど、そこについて詳しく説明するのは大変なので私はスルーすることにした。
というか、私も本職じゃないから説明なんてできないしね。
「で、その悪魔ってのがまあこちらの生き物の感情が好きなんですって」
「感情?」
ジャミィルが困惑した表情を浮かべる。
ああ、そりゃそうか。悪魔のイメージは彼らの中で、例の王様の物語みたいなものだ。
いわゆる、魂を引き換えに契約を……。
「まあその辺も私にはちょっと説明が難しいから飛ばすけど、とにかくその世界の境界線ってのが曖昧になるのが〝悪魔が騒ぐ年〟なんですって。何年なのか、何十年単位なのかは知らないけど……そういう星の巡りがあるんだって言ってたわ。そしてそれが今年だって」
だから回覧板ついでに私が学術都市に行くのだと聞いて、特にその辺に疎い人間族ばかりいるところは悪魔もちょっかいかけやすいので気をつけなさいねと忠告されたのだ。
具体的にどうしたらいいのかはわからんらしい。
まあ何か起きるってわかっているだけ心構えができる分、こちらに有利……と思えばいいのかもしれない。
って今の今まで忘れてたんだけどね! あっはっはっ。




