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その後、ジャミィルとハルトヴィヒ、スィリーンさんに関しては今すぐに聞きたいことは思いつかないと言われて、とりあえず私たちは情報を共有することに意識を変えた。
まあ、そうしてくれた方が今は私も助かるのでありがたい。
いやあだってどうしたらいいよ?
平穏な学園生活を夢見て、そこでのし上がってちょっと権力者と知り合いになって、吸血鬼って実はさ……的なことを目的としていたらこうなるなんて誰が思ったよ?
まさか聖女召喚でひいおじいちゃんが関係していたっぽいことを掘り返されるとか、カタルージアの王家がもしかしたらうちの親戚かもしれないとか……。
いやはやもうどうすればいいんだよって話。
たかが百歳の美少女吸血鬼の手にはちょっと余る大問題じゃないかしら!?
(後でおじさんにも苦情の手紙を書こう)
そうだ、そうしよう。
ついでにお父さんにチクってやろう。
……いや、知ってるかもしれない?
さすがによそで子供作っているんだから知っているかな……しかも相手は王族だし。
吸血鬼が嫌われているこの世界でそんなことして妻子に迷惑がかかるかもとか、一族の方とかでも色々気を遣っているだろうしなあ。
私も子供だから知らされていなかったと見るべきか。
いやでもその子孫? 親戚? であるカタルージア側が調べているとかどうしたらいいんだよこれ。
「……まあとりあえず時間帯は夜のお店が賑わう時間帯ってことね?」
「そうなるな。夕暮れに買い物に出た子供、学園からの帰宅者、学園の関係者もいるか? それから夜間営業の店へ出勤すると言ったまま帰らなかったとか、いずれも夕暮れから夜の時間帯になる。深夜は逆にないな、酔っ払いの喧嘩やその他野盗なんかはでているようだけど」
「それはそれで問題よね」
しかし王族の特権ってすごいな。
被害者の情報とかきちんとまとめられていたよ、どこの誰かとかまで。
そんで印のついているのはそれぞれの国の出身者だ。
改めてみると、結構な数がいる。
「……ここ数年の推移とかは?」
「それはこっちだな」
私の問いにジャミィルが応じて別の用紙を出して示す。
去年と一昨年の分だけだけど、それでもはっきりと今年がおかしいってことがよくわかる内容だ。
「何が違うんだろ」
「学術都市の騎士たちが行方不明者の数をごまかしていたとか、そういうことはないのか?」
「おそらくないな。今年になって急に正しくなる方がおかしいだろう。人事もなにも大きな変化は見受けられない」
「それにしても男女、年齢関係はないわね。子供が少ないのは夜間だからかしら?」
おお……ジャミィル・スィリーンの双子にハルトヴィヒがさくさくと私が疑問に思うようなことを話して潰していくから私は何も言うことがないな?
イヤ楽でいいんだけど……それにしても確かに不自然だ。
「……夕暮れ以降が多いから〝吸血鬼〟なんて噂が出たのかしら」
ふと呟く。
それを受けて、スィリーンが首を傾げた。
「どうかしら……元々入学時期に行方不明者が出ること自体は昔からあったみたいなんだけど、そういう時期だから狙い目だと思われがちって話であって……そういえば吸血鬼云々の噂はつい最近だわ」
「私がこの町に来てすぐ、騎士の一人に言われたよ? ぼさっとしてると吸血鬼に攫われるよって」
「変ね」
「それに、いくら学術都市が最高学府で受験者が多いにしても毎年行方不明者がこれだけ多発していたなら、どうして対策がなされてないのかしら」
「……それについてはカタルージアでも苦言は呈している」
「サタナール王国もだ」
「そりゃそうよね」
私の言葉に、ハルトヴィヒとジャミィルが苦々しげに言う。その向こうで、イアス様とミア様も何も言わないが口をへの字に曲げている。
「うーん……いくら自治が認められているとはいえ、毎年行方不明者が出ていることはこの学術都市にとってもよろしくないことのはずなのに……」
そこら辺は上の人たちの発言権とか影響力が問題だからしょうがないのかもしれないけど。
少なくともこの都市内部くらい安心できる土地にしろって話だよねえ。
でもイナンナの態度を考えるに、少なくとも普通に暮らしていたら平和な都市なのだろうということは想像ができるので、騎士たちはきちんと仕事をしていると思っていいはずだ。
(何かが引っかかるんだよなあ)
行方不明者のリストを前に私は首を傾げる。
ハルトヴィヒが少し躊躇いながら、口を開いた。
「……この行方不明者たちは、身内が殆どいない者だ」
「つまり後腐れない相手を選んでるんだ?」
「そうなる。少なくともカタルージア側の人間については全て確認済みだ」
なるほど、イアス様は私が動くよりも前からこの件について関与する気満々だったわけだ。
道理で国元からの騎士が来ているとかそんな話が出ていたわけだよね、納得。
そしてハルトヴィヒの視線を受けた双子は顔を見合わせて、小さくため息をどちらからともなく吐き出した。
「……サタルーナ側もそうよ」
スィリーンが首肯する。
なるほどなるほど。
でもそうなると今度は逆におかしな話になってしまう。
「……それってさ、どうやって調べたのかな。攫っても大丈夫だって」
「そこが問題だ。だからこそ、相手が組織であると考えて迂闊に動けずにいる」
身寄りのない人、或いは迫害だったり虐待だったりされている人、そういう人を狙って攫うのだとしても少なくとも三カ国に渡ってそんなことを調べる方法なんてあるのだろうか?
(いや、あるな)
魂を見ることができるなら、それが可能だと私は知っている。
ちなみに私にはできない。私はっていうか、それができる種族はたった一つだ。
「悪魔なら……ああ、確かに今年は『悪魔の騒ぐ年だから気をつけろ』って魔女たちから回覧板きてたっけ……」
思わず呟いてからハッとして周りを見る。
全員が、私のことを得体の知れないものを見る目で見ていた。
やっべ、やらかした。
「マリカノンナ……悪魔、と言ったのか?」
「悪魔の騒ぐ年……ま、まさか魔王の出現ですの!?」
イヤ違うって。
落ち着いてくれよ、本当。
「魔族と悪魔は違うんだって!」
まずはそこから弁明させてくれ!!




