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「……本当に、できることでしたら良いのですか」
「えっ、ええーと……ええ、まあ、その……こないだみたいのはちょっと遠慮しますけど」
改めて聖女召喚については反対の意を示しておく。
だけどその言葉は一応、気を遣って言わないでおいた。
でも私の言葉を受けて、ミア様は少しだけ思い詰めたような表情を見せて、それから隣のスィリーンさんとジャミィルを見て、決意を固めたようだ。
「ではお願いがあります。貴女のご実家に問い合わせていただきたいものがあるのです」
「……なんでしょう」
「サタルーナ王家の記録書、その二巻目です。そこにウィクリフという書き手がいたのですが、その人物が書いたものが塗りつぶされ読めなくなっているのです……」
「……」
心当たりはある。
ひいおじいちゃんが、聖女のことを懐かしんで書いた記録がある。
「……聞いてはみますが、でてくるかはわかりません」
「それで良いのです。……なぜ塗りつぶされたのか、聖女の気持ちはどこにあったのか、それを知りたい。……悲しみながら、どう向き合ったのか」
サタルーナ王家の記録書か……ひいおじいちゃんって何してたんだろう。
まあ後で手紙を書いてみるとするか。
ミア様が希望を述べたことで、今度はアイネイアス様……イアス様が手を挙げた。
「ぼくはウィクリフといっても本当にその人物がいたのかどうか怪しいくらいの話でね。このロケットの中に絵姿が描かれているんだが、その人物がきみの系譜にいるかをしらべてもらえないかな?」
「なぜだか伺っても?」
「うーん、そうだな。ここにいる人は秘密を守る。ミアベッラの聖女の記録が塗りつぶされていたことについてもぼくは何も聞かなかったし、ミアベッラもぼくが語ることは聞いていない。そうだよね?」
「そうですわね」
王族同士めんどうだな!?
そうは思っても私は黙っておくことにした。
イアスが持っているのは、酷く古ぼけたロケットだ。
随分と年代物らしいが、大事にされているのだろう。
ぱかりと開くと彼はそれをなんとも言えない表情で浮かべて見つめている。
「……数代前、王家の男たちが病に倒れ、側室の娘として追いやられていた少女が仮初めの女王とならざるを得ない時代があった。その時彼女はすでに妊娠しており、決して王配を迎えることもなく、また赤子の父親が誰かも言わず、このロケットをただ大切にしていたんだそうだ」
「素敵な話じゃありませんか」
「それだけならね」
ミア様の言葉にイアスはため息を漏らす。
そしてロケットの蓋を閉め、私の前に滑らせるようにしてよこした。
「女王は血筋として軽んじられていたが最後の王族。その子供は直系だ。軽んじ始める空気が生じた中で、その子供は誰よりも優秀だった。それこそまるで人ならざるもののように」
「……? それって」
「身体能力や知能に優れ、時に不思議と生き物たちの声すら聞いたという。まあ、血筋に劣る王子を守るために盛った話……世間ではそう思われている、が」
イアスは言葉を切って、困ったような表情を浮かべて私たちを見た。
そして躊躇いながら、言葉を選んでいるように続ける。
「……予知、とも、幽霊が憑いているとも違うんだけれど、その子孫であるぼくらも危機に瀕すると、不思議と声が聞えたり……コウモリが助けてくれたりするんだ」
あれ、なんか覚えがあるなあ。
不思議な声、コウモリ、あれれ、おかしいなあ?
私はおそるおそるロケットを手に取り、蓋を開ける。
そしてそれを眺めて、すぐに閉じてイアス様に返した。
(はい! まあそうですよね、そうだよね!!)
私のおじさんですね!!
昔忘れられない恋をしたとかなんとか話してたの覚えてます!
って事は何か!?
イアス様は、カタルージアはうちの親戚ってことになっちゃうんですかね。
言えるかボケエエエエエ!!
 




