第十三話
翌日、授業は平和だった。授業は。
ジャミィルについてはもう隣の席だし普通に会話をする。
腹に何か抱えてようがなんだろうが私は聖女召喚についてノータッチ。ノーモア聖女。
彼に監視を任せているのかなんなのか知らないけど、サタルーナの女性陣は関わってこないし平和よ、平和!
そうやって考えてみるとジャミィルは妹がいるからなのか面倒見がいいところもあるし、女性に対して紳士なところもあるし……美形を見慣れている私から見ても結構かっこいいしで、一緒にいて不満のふの字もないわ!!
ちなみに授業もとても面白いの。
やっぱり本を読んでいるだけじゃわからないこともたくさんあるし……いえ、知識だけならうちにある本で大体まかなえているけどね。
(それでも標本とかあるとやっぱりなんかこう、違うわよね~!)
それにワイワイ賑やかにやるのって楽しいわ。
私たち不死族と呼ばれる吸血鬼は長命な分生殖能力はものすごく低いもんだから、親戚とか兄弟とかってなかなかいないのよ。
(って言ってもクラスメイトも私からしたら相当年下ってことに……)
いやいや違う、同級生よ同級生。
そりゃ生涯を共にするとかそこまで重たい話になると寿命とかその辺をものすごく慎重に考えないといけないけれど、学生の間だけの関係というライトなもので考えるなら年齢差なんてちょっとした誤差みたいなものよ!!
「マリカノンナ」
「ん? どうしたの?」
「……今日は郷土史研究に顔を出すって、言ってたよな?」
「ええ、そうよ?」
ジャミィルが確認するみたいに言うから私は思わず首を傾げた。
そうするとますます難しい顔をしたジャミィルが、大きなため息を吐いてグッと私に身を寄せる。
ちょ、近い近い。
「振り向くなよ、ハルトヴィヒが来てる。あれは馬術部に俺たちを連行する気満々だ。廊下に出たところを捕まえようって算段だろう。教室内に入れば他の生徒に話しかけられて逃げられることを想定しているはずだ」
「……えええ……」
やだ、学生生活でなんでそこまで深読みしながら生きなきゃならないのよ。
きゅっと眉間に皺がよったのを自覚して、私は慌ててそれを解した。
折角の美少女フェイスに皺なんて残しちゃいけない。
「俺も郷土史にちょっと興味あるな。馬術は嫌いじゃないが、別に部活でやるほどじゃないし」
「それじゃあなんとかして逃げる? それかハルトヴィヒも連れて行っちゃうか」
「馬術部での二の舞になったらどうする?」
「知識に関して彼が私に教えることがあるとでも?」
「なるほどな。だが教えてくれってつきまとわれるかもしれない」
「うっ、それはいやだ……」
ジャミィルに指摘されると確かになと思ってしまうのだ。
しかしハルトヴィヒは何故私にくっついてくるのだろう。
ハルトヴィヒというよりは、彼の後ろにいる王子の存在だ。
ジャミィルはまだわかる。
聖女召喚について知っている私がどのような行動をするのか監視したり、味方に引き入れるためのものだというのが想定できるから。
だとするとカタルージアの二人はサタルーナが何をしようとしているのか、私を通じて知ろうとしている……もしくは、私の傍にジャミィルがいるから何かあると踏んでいると考えるのが筋か。
(……よし)
ジャミィルはクラスメイトで隣の席、そう考えたら彼を邪険に扱うという選択肢はない。
だとすれば、私が行動を起こすのが一番手っ取り早い気がする。
「ねえ、ジャミィル。聞いてほしいんだけど」
「うん?」
私はにんまり笑って、ジャミィルに内緒話をするのだった。
なんだか悪巧みしているみたいでちょっと楽しくなってきちゃったわ!




