第十一話
出だしを失敗したからってへこたれない。マリカノンナです。
そうよ、部活や学生生活をエンジョイすることだって大事だわ!!
(嫌なことは忘れる、それが大事よね)
ただ勉強ができて品行方正っていうのではなく、親しみやすく友達百人いてこその人脈作り!
かつ私が楽しいと来ればそちらの方が絶対にいいじゃないの!!
(さてなんの部活に入ろうかしら)
魔術同好会、文芸部、美術部、剣術部、絵画鑑賞同好会、陸上部、その他にもたくさん。
ふうん、色んなものがあるのねえ。
郷土史研究とか生物研究とかもあるのね? もうそれって部活なのかしら。
「マリカノンナはどれに入るんだ?」
「へえっ!?」
「なんだ、驚かせたか。悪い」
「じゃ、じゃみぃる……?」
「俺もどれか部活に入ろうとは思ってるんだが、結構あるな……」
何でアンタ普通に私に話しかけてきてんの!?
心臓が口から出るどころか驚きすぎて思わず灰になるかと思ったわ!
あ、吸血鬼ジョークよ? 笑うところだからね?
「聖女の件は忘れてくれ。……もし、妹が何か言ってきたら俺に言ってくれるか。残念なことに今俺たちの間でも意見が割れている」
「え?」
「俺はマリンカノンナが言っていた誘拐ってのに納得がいったが、妹はとにかくその内容よりも姫が望んだことが否定されたってことの方に怒り心頭でな。姫は……まあ、ご自身で気持ちに折り合いをつけるだろう」
「……」
これは、信用すべきかしないべきか。
いやそもそも信用とかそういうレベルじゃない関係だけどな?
ほぼほぼ『顔見知り』に毛が生えた程度の関係だしね?
(信用はしない、けど嫌悪を示すほどでもないか)
ほどほどの距離感でいることも大事よね。荒事は避けたいわけだし。
私としてはサタルーナがなんで聖女を召喚しようとしたかってのは疑問に思うことはあっても、わざわざ首を突っ込みたい話でもないし……センセイに丸投げしたしひいおじいちゃんにも手紙を書いて飛ばしたからノータッチの姿勢でいいはずだ。
「わかったわ」
にっこりよそ行き美少女スマイルでジャミィルの言葉に頷いてみせる。
もし彼の言葉が本当でも、ただ私を監視するための方便でも、どちらでも構わない。
私はノータッチ、つまり無関係なことに間違いはないのだからね!!
「ところで部活見学決めたの? 私は郷土史研究とか面白そうって思ったんだけど」
「ああ、俺も悩んでいるんだが……料理もいいな、いずれ一人暮らしをした時に役立ちそうだ」
「ええ? 国に戻ってエリートコースじゃないの?」
「まあ覚えておいて損はないだろう?」
ジャミィルってよくわからない男だな……いやまあ、できないよりはできた方がいいってのは確かだけど。
ウィクリフの男性陣は寝食忘れて読書に耽る代わりに、掃除だけはマメだしなあ。
本が汚れるからって理由なのがとてもわかりやすくて笑っちゃうよね。
「なら二人とも、馬術部はどうだ?」
「え?」
ああだこうだと話している私たちの後ろから、快活な声が聞こえた。
そこにはハルトヴィヒ・ヌルメラ……つまり王子の護衛兼従者がそこにいるではないか。勿論、王子もいた。
「殿下と自分も馬術部に行くつもりだ! 学びも大切だが、生き物と接することも大事だぞ!」
「……ああ、まあそりゃそうだろうが……」
「遠慮するな、殿下はサタルーナの民ではなくジャミィル・ブランドンという個人、そして遠方から来たマリンカノンナ嬢と友人になりたいと思ってくださっている!」
にっこり笑ってそんなことをデカい声で言うハルトヴィヒ、人が良いような笑顔を浮かべているけどこいつ、腹の中真っ黒だな?
私はそう思ってチラリとジャミィルを見るが、彼も私にそういう目を向けていたから同じ意見に違いない。
(そうよね、王子が同じ部活に入って友達として仲良くなろうねって言ってるってデカい声で宣伝してるのをどうして断れるって話なのよ)
あたかも『王子は身分なんて関係なく学園生活を楽しんでいる』風に言うのがズルいわ、これが偉い人たちのやり方か……ッ!
私とジャミィルは同時にため息をついて笑顔を浮かべた。
きっと私たち、とんでもなくよそいき中でもサイッコーの笑顔だったと思うよ!!




