第十話
(やらかしたやらかしたやらかした!!)
もう脳内はそればかりだ。
いくら聖女召喚っていう我が家にとって『やってはいけないこと』について調べていると言われたからって、誘拐だとかキツめに声を出してしまったのはいけない。
しかもウィクリフの名前がサタルーナ王国の記録にあるですって?
そんなのまったくもって知らないんだけど!!
(ひいおじいちゃんに手紙を出してみるか……)
おそらくこの件でサタルーナのあの三人からはこれからマークされると思う。
あまり好意的な意味ではなく。
知識はありそうなのに聖女召喚について非協力的だなんて、王族から睨まれる行動をしちゃったんだものしょうがないけど……。
(あああああ、順風満帆なスタートを切る予定が……!!)
しかも彼らが警戒しだせば当然ながらもう一方のカタルージア側だってそれに気づくはずだ。
内容まではわからなくても、私という存在にナニカがあると察して警戒、あるいは詮索をし出すかもしれない。
いずれにせよマズイ状況待ったなし。
どうする? どうしたらいいのかな?
そんなことをぐるぐる考えながら、私は図書館の前まで来ていた。
「ウィクリフくん?」
「え?」
「今年新入生の、ウィクリフくんってきみかな?」
「え、はい、そうですけど」
突然話しかけられてドキッとしたけど、そこにいた人を見て二重にびっくりだ。
だって、その人は教員服を着た人で、そしてエルフだったから。
「ええっ、エルフが働いてる!?」
「……うん、その暴言っぷりは間違いなくウィクリフだ。わたしもウィクリフという家名を見てあの引きこもり集団がまさかと思ったんだが……」
そちらも結構な暴言ですけど!?
いやいや、お互い様って言葉知ってる?
「私は体育科の教員のエランヴィル=ダンテ・イル・イラ・カレンデュラ。サナディアの南、カレンデュラの里のエルフだよ」
「マリカノンナ=アロイーズ・ニェハ・ウィクリフです。どうぞよろしく、セ・ン・セ・イ」
「なるほど、ウィクリフの中でも変わり者のニェハか」
私たちの名前は、ただ長いだけじゃない。色々と意味がある。
ウィクリフは一族そのものと言ってよくて、その中でも派生がある。私はニェハだけど従妹はチェリクだね!!
まあそんなことはどうでもいいんだけど。
「同じ人外同士、色々と仲良くしようじゃないか。困ったことがあったら相談においで」
「ありがとうございます」
そう、エルフと吸血鬼は実は仲良しだ。
サナディアがエルフの国と呼ばれているのは、その見た目と人間たちの評価でエルフが代表だと色々円滑に話が進みそうだっていう実質カカシみたいなもんである。
本人たちはこう……なんていうか、よくいえばマイペース、悪く言えば自分勝手だ。
自分のやりたいことしかしないし、興味のないものはスルーだし、協力するっていう気持ちよりは『やれる人がやればいいんじゃない?』スタイルっていうか。
見た目だけはめっちゃくちゃ美形なんだけどね……。
「では早速相談したいことが。ところでエルフが暮らせるくらいには偏見がないんですか、ここ」
「いいや、そこそこ偏見はあるかな。まあ他の種族に比べればマシってだけだ。……で、どうした?」
「遮音魔法を使っても引っかかりません?」
「なるほど、密談か」
「言い方ァ! あってるけど!!」
デカい声で密談とか言うんじゃないこのアホウ!
放課後の図書館は人がいないみたいだから良かったものの、私たちの会話が聞かれたら厄介でしょうが!!
ってまあ、私たちにしか聞えない程度の小さな声で話してたから普通の人間には聞えないと思うけどね。
彼らが言うところの人外と呼ばれる私たちは身体能力が人間族よりも優れているのだ。
とはいえ、人外同士だったらただの小声なんで、有利かどうかって聞かれたらそんなことないけど。
「実は、聖女召喚について調べている人がいて……」
私はあっさりと先ほどの件を明かした。
というか、エルフにとってもつい一昨日くらいの感覚の話題だからね。
あからさまに嫌悪感を示したセンセイに、私はホッと胸をなで下ろす。
「お任せしても?」
「任された。まったく、困ったもんだ。……とりあえず禁書の中でも最上級生でなければ申請できない区画にあるんだが、学長にも話を通して完全に書庫へ封印するとしよう」
ああ、良かった!
守ったよひいおじいちゃん!!
……あとは彼女たちが諦めてくれればいいんだけど。
(おかしいなあ、平穏な学園生活から華々しく……って思ってたんだけど、いきなり厄介だな?)
しばらくは、華々しい活躍を考えずにひっそりと過ごした方が良さそうね。
(うん、そうよ)
活躍よりも充実した学園生活を目指すなら、部活や恋愛なんていいかもね!!




