第九話
聖女召喚。
それはファンタジー世界にはお決まり(?)のよくある話だが、ジャミィルの母国であるサタルーナは初代女王が聖女だったってこともあって、聖女は身近な存在だ。
とはいえ近年〝聖女〟って呼ばれるほどの人は生まれていない。
(言わせてもらえりゃ聖女なんて、定義が曖昧なのよそもそも!)
聖女。
読んで字の如く、聖なる女性だ。
神に仕える女性の中で最高位とされ、神の声を聞く、あるいは代行者として選ばれた……などまあ、その役割は割と色々あってこれという定義はない。
「……その情報については読んだことがあるけど、用途によっては教えない」
「知ってるのか!?」
聞いといて驚くのか、オイ。
放課後に一緒に歩きながら(さすがに教室でするような話じゃない)、王女様も交えて私がそう言うとジャミィルが目を丸くしていた。
ちなみに姫様ことミア様とスィリーンさんも驚いてたけどね!!
「で、用途は?」
「……聖女を招きたいと思ってのことですわ」
「却下」
まあ調べてるんだからそうだろうとは思うけど、なら却下以外ないわ!
さすがに王族相手に単語一つで否定というのはまずかったかと思うけど、あちらも少しは思うところがあるのか複雑そうな顔をしているので許されたようだ。
よかった、いきなり成敗されるのかと思った。
「どうしてか伺っても?」
「だって誘拐じゃないですか。その文献は私の先祖が書いたモノになりますが、一方的に招いてしまった後に当時の国を打ち破りサタルーナを築いたってことは知ってます」
それは歴史上のオハナシだ。とはいえ、先祖っていうか曾祖父なんだけどさ……曾祖父からすると昨日のことのような話なんだけど、当時の国ってのが腐敗していたらしいんだよね。
で、聖女召喚して国民のご機嫌取りをしようとして招き、その結果、国を憂う貴族たちと聖女、そして国民が蜂起して当時の王家を駆逐、そのまま聖女とリーダーだった貴族の青年が結婚してサタルーナが建国されたってわけ。
まあ当時色々とあったらしいし、曾祖父はお手伝いしたらしいんだけどさ。
「ウィクリフ……ああっ、思い出しました! 王家の記録の一つを書いた人物の名前ですわ!!」
「えっ、そうなんですか」
「道理でどこかで見た名前だと思っていたんです。すっきりしたわ」
王女様はホッとした様子だけど、私としてはある意味感動だ。
ちゃんと表舞台で名前を残した人がうちの一族にいただなんて……!!
いやいや待てよ? それってある意味まずくない?
関係性を聞かれてぽろっと答えて吸血鬼ってバレたら厄介だな?
コレは一層会話に気をつけねばならない……!!
「そ、それで召喚について何ですけれど」
「召喚ってのは送り帰すことができないらしいですよ。それって誘拐じゃないですか」
そう、初代女王ってのも帰れないから覚悟を決めざるを得なかった状況だったらしく、それを知って曾祖父も哀れに思った……ってことらしいんだよね。
だから召喚なんてしようとしている人がいたら止めてあげるんだよって私もひいおじいちゃんに言われて育ちましたとも!!
「で、でも国の危機かもしれない場合だったら……」
「それでも一方的に了解も得ずに連れてこられた挙げ句に帰れないだなんて、ただの誘拐ですよ。誘拐。何回も言いますけど誘拐です」
「……うう」
「どうして聖女が必要なのかとかは出会ったばかりの私に話せないと思いますし、協力はできません。先祖は召喚された聖女が出会いがあったからこそ幸せになれたけど、当時は帰りたいと嘆いていたことを我が家の記録で記していましたし、うちの一族では召喚は好ましく思っておりません」
「……」
「どうしてもと仰るならきっと禁書あたりに記録はあると思います」
そうだ、誘拐に私は加担しないぞ!!
強い態度で臨んで……いや、臨みすぎると王族に対する不敬罪になっちゃうかな。
あれっ、聖女召喚したいとか結構な秘密を聞いてしまった段階で巻き込まれてるな?
若干いやな汗が背中を伝ったけど、私は何も聞かなかったと自分に言い聞かせて彼らを置いて歩き始めたのだった。




