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三日会わざれば12

 「警戒して進んだ方がよさそうだな」

 血の乾き方から言って、まさに今という訳ではなさそうだが、それでもそう時間が経ったものでもない。

 全くの主観、そして勘だが、恐らくは48時間は経過していないだろう。


 そしてそれほどの時間の場合、まだ近くに交戦していた戦力が残っているか、或いは再び戻ってくる可能性が高い。

 犯人は現場に戻るという訳ではないが、この辺りでの銃撃戦となればまず関わってくるのは南洋同盟だ。

 そしてこの辺りを支配している彼らにとっては、現場保存と警戒強化の必要からこの辺りに兵を置いていてもおかしくない。


 「クロ、頼む」

 「了解」

 エントランス前でポイントマンが交代となり、指名されたクロがライフルからセカンダリに切り替えた。

 団地は建物自体のサイズに比べて動けるスペースは小さい。当然、そういう場所ではハンドガンが有効な状況も多い。

 「……」

 万が一彼女が何かに遭遇し、単独の火力では対抗が難しい場合は、そのすぐ後ろのバックアップ=俺の出番となる。幸い彼女の方が小柄だ。背中を撃つ心配をして引き金から手を放す必要はない。


 ストックを畳んだ状態で後に続いてエントランスへ。

 左右に廊下の伸びているその場所にも点々と血痕が残り、封鎖された正面の出入り口前に、それらを描いた張本人が座り込んでいた。


 「こいつは……」

 両足をこちらに投げ出し、背中をバリケードにもたれかかったまま動かなくなっている人物。

 体格や男物のジーンズとパーカーという服装から恐らく男性だと思われる。

 何故断定できないのかと言えば、その人物の顔がパラグラバで覆われているからで、そしてその事実と、彼の前に転がっているサイレンサーとオープン式ドットサイトを備えたMP5が、彼をただの死者ではないという事を物語っていた。


 「こいつが何かと戦って……ってことか」

 背後で角田さんの声。

 死体の足元に転がっている両手で足りない程の薬莢を見るに、恐らくここで最後の抵抗を試みたのだろう。

 それを聞きながら死体の前に腰を下ろして、本来なら開くのだろう目と高さを合わせる。

 ぐったりとうなだれた首の後ろに一際大きく広がる血痕。その下に、彼が背負っていた小型のリュックサックがバリケードと背中に挟まれている。


 視線を下に。死出の装いとなったパーカーにいくつか広がった血のシミ。そしてその下に来ている黒いプレートキャリアはロープロファイル仕様といって、俺たちが今着ているものよりも小型の代物だ。これなら上着を羽織って隠すことが出来る。

 ふと思い当たる可能性。振り返ってフリッツさんを探す。

 だが、幸いなことに俺の想像は外れていた。

 彼は角田さんと俺をすり抜けて死体のそばに膝をつき、無造作に顔を上げて自分の目と合わさせた。


 「やはり公社か……」

 そしてその判断までに時間はかからなかった。

 「こいつも他律生体なんですか?」

 「ああ。これはJ1614Sと言って、スカウト仕様のバリエーションモデルだ」

 成程、確かに改めて見てみると、バラグラバを脱いで武器を隠せば一般市民に偽装できるような装備品だ。敵都市部への潜入と偵察にはうってつけだろう。


 「恐らくこいつは、南洋同盟の何等かを探るために投入されたのだろう」

 「そして見つかって……ってことですか」

 その説を裏付けるような発見をクロがもたらしたのは、まさに言い終わったその直後だった。

 「こっちにもいますね。皆死んでいますが……」

 彼女の発見した方=入り口から右に入った廊下に目をやると、同じような死体が2人分転がっているのが俺たちの位置からでも分かった。

 そしてそれをやった張本人たちだろう連中の声が、これまたすぐに聞こえてきた――エンジン音と共に。


 「!?」

 「隠れろ!」

 咄嗟にクロが伏せ、俺たちも身を隠す。

 「――!……?」

 何か言っているのが聞こえてくるが、距離がある。

 そしてその感想は俺だけではなかった。

 「何か言っていますが……ここだと良く聞こえませんね」

 インカムにその言葉が聞こえた直後に入ってくる指向性マイクの声。

 どうやら男が複数人いるものと思われるが、置かれている状況はそれぞれ違うようだ。

 少なくとも、一名は捕虜であると思われる。


 「だから何度も言っているだろう!?俺は何も知らない!あいつのことも!あんたらの言う――」

 「知らない訳はないだろう?連中が護送していたのはあんたの部下なんだ。手前の部下がどこで何していたかぐらい把握しているだろうよ。えぇ、キムさん?」

 キムというのが捕虜の名前のようだ。

 そして内容と、俺の頭の中にある記憶=フリッツさん達は要人警護の任務中に襲撃されたというその点が、一つの仮説を組み立てる。


 即ち、南洋同盟の連中がキムという捕虜から護衛チームについて聞き出そうとしている。


 「なあ、俺たちは何も無理を言っている訳じゃねえぜ旦那」

 尋問側が別の声に変わった。

 先程よりも若く、明確に苛立っているが口調だけは何とか荒げないでいるといった様子の声に。

 「いいか?あんたの部下を護衛していた連中のうち、2人の居場所が分かっていない。あんたは連中とコンタクトを試みていた。あんたが連中について知っていることを教えてくれればそれでいいんだ」

 2人の居場所。聞き間違いではない。

 「!?」

 フリッツさんが俺の横で聞いたその言葉を理解するや否や、何とかして連中の面を拝んでやろうと動き出した。

 2人のうち一人が彼であることは疑いようがない。だがもう一人は?

 それが、彼が探しているあの女性ではないか――誰だって思いつく考え。

 一瞬の沈黙。それから渋々と言った感じで絞り出されたキムという捕虜の声。


 「……何も知らない。本当に何も知らない」

 その真意はこうだ=知っているが言いたくない。

 「やはりあいつは生きていた!だが……」

 本当は今すぐ飛び出したいのだろうフリッツさんは、しかし熟練傭兵の眼がそれを思いとどまらせている。

 しかし同時に彼もまた、捕虜が嘘をついていることに気づいたようだった。

 彼の眼が訴えるように俺たちを見る。何とかして奴を助けられないか。


 「……クロ、何人いる?」

 その彼の視線から目を逸らさずに確認。

 「捕虜の前に2人。後ろの車、運転席横に立っているのが1人です」

 そこで角田さんに目を向けて最終確認。やっていいのか?

 だが、必要ない様子だった。何より彼が足元に落ちていたMP5を拾い上げると、銃に異常がない事を確認し、死んでいるスカウトの胸元をまさぐって、プレートキャリアに留められていた予備のマガジンと交換していた。


 そしてそのまま、俺たちに指示を飛ばす。

 「トーマ、クロ、そちらで1人ずつやってくれ。俺は反対側に回って狙撃位置につく」

 「「了解」」

 答えながら、俺も体を這わせるようにしてクロの方へ。

 そしてまた角田さんと同様に死体からマガジンを失敬する。音の出ないこれが今は必要だ。


 「あれが……」

 「ええ。かなり苛立っているようです」

 立っていれば腰の辺りまであるコンクリート製の壁の上から声のしている方向を覗き込む。

 1人のサラリーマン風の男=恐らくキムを2人の南洋同盟の民兵が取り囲んで脅し、銃身で小突いていた。

 「左の奴をお願いします。私が右をやります」

 同じもの見ていたクロが、同様にマガジンとMP5を拾い上げ、狙いを着けながらそう静かに告げた。

 「了解。左だな」

 同様に構え、言われた通りの左側に銃口を向ける。

 戦闘で破損したのかドットサイトは壊れてしまっていたが、それでも焦ることは無い。アイアンサイトでもこの距離なら当てられる。


 「アルファ2及び3。頼んだ。人質には当てるなよ」

 インカムに角田さんの声。

 「分かっています」

 ここでキムという男を助けるのは、何も正義感や義侠心と言ったものではない。

 ただ、北風と太陽をやる訳だ。

 奴らと同じことを、今度は俺たちが――あくまで優しく――聞くことになる。


 「いつでも行けます」

 クロが静かに、努めて落ち着き払った様子でそれを告げる。

 「アルファ3、こちらもです」

 準備と言ってもなにかある訳ではない。ただ、アイアンサイトの向こう側をうろうろと動き続ける民兵の片方を捉え続けておく。


 「アルファ2より1へ。……まだかかりますか?」

 「こちらアルファ1。もう少し……、よし到着した」

 指がゆっくりと引き金に巻き付いていく。

 セレクターをセミに戻して身構える。


 「アルファ1よりオールアルファ。殺れ」


 キュッとでも言うような音が鳴り、それが銃声であると気づくより前に、俺の体は今のゴーサインをしっかり聞いて理解していた。

 指が引き金に絡まり一気に引くことでもう一人の方の頭を吹き飛ばす。


 「ヒイィィィッ!!」

 突然自分を苦しめていた者の頭が吹き飛んだ――とてもではないがとても理解できる代物ではない。

 丸腰で、何が起きているのかさえ分からない彼にとって、それはパニック映画の類だった。理解できなさ過ぎて気持ち悪い。そしてその状況で彼の肉体が選んだのは、恐怖のあまりに身を抱えるようにして蹲る姿だった。


(つづく)

今日はここまで

続きは明日に

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