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三日会わざれば11

 その後にクロが彼の後を追い、俺、フリッツさんと続く。

 「クリア」

 中は更衣室というかロッカールームだった。いずれも年季の入った人の身長ほどのロッカーが隙間なく並んでおり、ウナギの寝床であるその部屋の隅には先程のぞき見した部屋とは反対側に通じる扉がもう一枚。だが、こちらは開いたままだ。


 「おい、誰かいるのか……?」

 そしてその扉の向こうからの声に、俺たち全員が身構える。

 続いて聞こえてくる足音に目配せ、誰が何をするのかは決定する。

 「……」

 即座に扉の横のロッカーの影に陣取る俺。一番近かった俺が黙らせる役目を担うことになった。

 プレートキャリアから音を立てずにナイフを引き抜くと、炭を塗り込んだ刃を逆手に持ち直す。


 「誰か――」

 言いながらこちらに顔を出す民兵。

 03式をスリングで首から提げ、フリッツさんと同じようなチェストリグをシャツとジーンズの上から纏っただけのごくシンプルな装備のそいつを驚かすように飛び出して襲い掛かり、口を手で押えながら背後に回り込むと、奴が何をされたのか分かるより前に腎臓の辺りに刃を根元まで突き刺した。


 「ッ!!?」

 手は口に当てたまま。

 何かを叫ぼうとした息だけが当たる掌でしっかり蓋をして、仰向けに寝かせるように引き倒していく。

 奴の全身が埃まみれの床に寝かされる頃には、既に一切の生物的な反応はなくなっていた。

 「南無……」

 そこまで漏らしてから、酔っ払いを介抱するかのように奴の上半身を起こし、既に角田さんが開いて待機していたロッカーの中にそいつを押し込んでからナイフを抜き、奴の服で刀身を拭って鞘に戻した。


 ロッカーが閉じられ、パチンという扉の音を最後に室内を静寂が満たす。

 それが次に破られたのは、奴が来た隣の部屋=休憩所だかなんだかだったのだろう、ベンチ2つに挟まれた長机2つの上に放置されたノート型端末だった。

 「皆さんこんにちは!こちらは東日本暫定自治区放送センターです」

 「ッ!!」

 思わずびくりとすくみ上って、反射的に声のする方=端末の画面をのぞき込む。

 端末の画面には、教育番組風の舞台を歩き回りながら、カメラ目線を崩さない若い女優の姿が映っていた。

 「なんだこれ……?」

 咄嗟に漏れた感想は全員が共通して抱いたもので、そしてまたそのために全員に共通していたのだが、誰もその正体を知らなかった。


 「今日の世界史のお時間です。今回は前回に引き続き、清王朝の始まりについてです」

 その間もお構いなしに画面の中では歴史の授業が始まっている。

 なんともこの状況に場違いな放送。東日本暫定自治区放送センターと名乗っているが、本当にそんな放送局が存在しているのだろうか。


 「ああ、これか……」

 やはりと言うかなんというか、フリッツさんは知っているらしい。

 「こいつは東日本暫定自治区の……国営放送みたいなものだ。統合共同体、つまり現在の事実上の暫定自治区政府が運営している放送局でな、ネットを介して全世界に配信されている。割かし出来が良いのと、見ての通り――」

 指をさされた画面の中では若い女優が真っ白な歯を見せて微笑んでいる。

 「この司会の女優のファンも多くてな、さっきの奴も大方その口だろう。大人から子供まで支持を集めている。特に三大国じゃ、それぞれの国の背景に合わせた番組だけを編集したバージョンが放送されているからな」

 つまりここで流れているのは東人連用の放送という事か。

 ――今さっきロッカーに詰め込んだ男が見ることの叶わなかったその映像を放置して入ってきたのとは反対の扉をそっと開けると、そこはもう一つの――施錠されていない――出口の目の前だった。


 「よし、ここから――」

 どうする?その問いが喉に上がってくるよりも前に、今度は別の声が俺たちの動きと声を遮った。

 「市民の皆様にお伝えします――」

 再び反射的に声のした方向に目をやる。今度は頭上の屋根のはるか上。

 「現在南洋同盟内政委員会により、外出禁止令が発令されました。市民の皆様は外出禁止令が解除されるまで、一切の外出を控えてください。また市街展開中の全ての警備隊員は、規定の箇所に身分証と識別票を常時表示してください」

 MQ201ランフォリンクス。長い尻尾を持ち、機械の翼を鳥のように羽ばたかせるその無人機が、滑空しながら俺たちの頭上をフライパスしながら機械音声の放送を続ける。


 「……とりあえず、民間人を誤射する危険性は下がったと考えよう」

 例え苦しいいい所探しであったとしてもその意見には賛成だ。

 「……で、これからどこに行けばいい?」

 振り返った角田さんがフリッツさんに尋ねると、彼はまず答える代わりに道路を挟んで反対側の敷地を指さした。

 「あそこを抜けていければ近道だ」

 彼の言うあそことは、工場の向かいに建つ団地だった。

 それもさっきのような小さなものではない。大学病院並みに巨大なそれが、その巨体故に劣化の様子をあまり感じさせずにそびえ立っている。

 デバイスに目をやり地図を確認。目の前に見えているのとは別に、全く同じ形の建物があの建物の裏に完全に隠れて2棟あるらしい。


 「3棟全部抜けるんですか?」

 「ああ。そうすればすぐにCPに出られるはずだ」

 その答えに最初に反応したのは角田さんだった。

 「了解。まあ、連中も外に出るなと言っているしな」

 「フフッ、そういう事だ」

 軽口に相槌を打ち、それから再度周囲のクリアリング後に外へ。

 幸い先程のランフォリンクスは既にどこかに飛び去っており、他に監視している人間も無人兵器も確認できない。

 それを確かめると、俺たちは急いで工場から飛び出し、道路を挟んで反対側=マンモス団地の残骸の中に飛び込んでいく。


 建物は前回と同じだ。つまりボロボロに劣化して、ありとあらゆるセンスの落書きが施され、残っているガラスの方が少ない。

 どこにでもある、普通の廃墟だ。


 だが、2棟目はそうもいかなかった。

 「おい、これ……」

 「弾痕……ですね」

 エントランス前の柱や壁に出来た無数の穴と、その前にいくつか転がっている拳銃用の空の薬莢。

 そして壁の卑猥な絵を隠すように付着した血液と思われる液体――まだそこまで時間が経っていない。


 まず間違いない。ここではかなり最近、銃撃戦が行われていた。


(つづく)

今日は短め

続きは明日に

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