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三日会わざれば6

 改めて助手席のヘッドレスト越しにその検問に目をやる。

 今そちらに接近している2車線道路の先にたむろする数名の人影と、彼らが囲むようにしている、道路を塞ぐバリケード。

 迂回する?いや。もう無理だ。見通しのいい直線のため、恐らく向こうからもこちらは見えているだろう。他の車もおらず、ここであからさまに回避するのは無理がある。

 運転している角田さんも同じ考えのようで、たった今通過した最後の交差点に戻る様子も見せず、やや速度を落としつつもそちらに向かっていく。


 左右に細い歩道を備えたこの道路、左側は南国特有の鬱蒼とした木々が隙間なく並ぶ林となっており、右側には畑――だったのだろう荒れ地が広がっているだけで、それぞれ別の理由ではあるが、どちらも検問を迂回して進めるような場所ではない。

 荒れ地の奥には工場と思われる大きな建物があるが、そこに至るまで50mはある。車を降りて進むにしても発見されないでというのは不可能だ。

 結局進む道は一つしかないという結論に達したところで、インカムにその背中を押す声。


 「CP了解した。その検問は連中の同種の場所の中で最も手薄だ。通信手段も無線だけで自動通報機能もない。必要なら無力化して突破せよオーバー」

 肉眼とバックミラー越しにそれぞれが顔を見合わせ、それから角田さんが代表して答える。

 「アルファ了解。妙に連中に詳しいな」

 「ここには前から仕事で来ていたからな……突破後は最低限の隠ぺいを施しすぐにルートに戻れ。CPアウト」

 今は目の前の問題に集中しよう。自身のプレートキャリアに手をやり、座ったままでもすぐに取り出せる位置にポンプを配置していることを確認する。


 「合図するまでは撃つなよ……」

 検問所の目の前まで近づいて車を停めながら角田さんが呟く。

 無言のアイコンタクトで応じつつ、視線をすぐに車外へ。検問所前にたむろしていた4人が車を囲むように広がり始める。

 一人はバリケードの向こうでこちらを正面から見据え、わざと見えるようにだろう、手にしたパーティーガンの本体上部に折りたたまれていたワイヤーストックを展開し、最大限全長を大きくした状態で肩に担いでいる。

 いざ事が起こればその彼の射線を塞ぐこと請け合いな場所=バンパーの前にもう一人、こちらはK7短機関銃を弄びながら、スモーク越しに何とか見えないかとじろじろ見ていた。

 そしてもう一人、こちらもK7を携えた男が助手席側をうろついている。


 「用意はしろ。まだ撃つな……」

 言葉に従って助手席の背もたれを開き、M10を取り出してセーフティを解除。

 「アルファ3用意よし」

 「アルファ2用意よし」

 左ハンドルの件も含め、独立後に右側通行に改正したのだろう関係で俺が一番近い距離にいる詰め所――恐らく元はコインランドリーか何かだろうか――の前に出されたパイプ椅子に最後の一人。

 一番年かさの首にタオルを巻いた男が立ち上がり、バンパーの男に何か指示を出している。恐らくこいつらの指揮官なのだろうが、立ち上がった時もこちらに近寄ってくる時もパイプ椅子に立てかけられたパーティガンは置きっぱなし。


 直感:こいつらは烏合の衆だ。


 動作の統制もなく、装備も立ち振る舞いもそれを感じさせるものだ。

 その烏合の衆の一人が、どんどんと耳障りなノックを運転席のドアに叩きつける。


 「こいつは俺が引き付ける。後部座席の窓を開けたらクロ、後ろから撃て。トーマは左のドア前の奴を。始末したら降りて応戦する」

 「「了解」」

 段取りを決め、無反応に苛立ちのこもり始めたノックに窓を微開にして角田さんが応じる。

 「検問なんて聞いていませんが?」

 「なんだよてめえ」

 窓を開けるなりの第一声がそれ。思わず苦笑が漏れそうになる。

 「許可は取っているのか?何の権限があって道を塞いでいる?」

 「なんだてめえ?てめえが誰だか知らねえけどよ、いいから降りろや」

 「……わかったよ」

 ドアロックに手をかけたのが俺の位置からでも見えた。

 ――同時に窓の緊急開放ボタンにも指がかかっているのが。


 「……殺れ」

 声と同時=後部座席のドアガラスが瞬時にドア内に落ちるのと、運転席のドアが蹴り開けられ、ぞんざいな検問要員が体勢を崩すのと、その頭が9mm弾で吹き飛ばされるのが。

 そして同時に、俺もまた反動を全身で受け止めるように抱えたM10の引き金を引き切り、銃弾が目の前の相手を後ろへと弾き飛ばすのをスローモーションに見ていた。


 「全員下車!」

 角田さんの号令と同時に後部座席と助手席の扉も開く=助手席のそれを盾にしろという意味。

 俺は飛び降りると同時に丸腰の指揮官に銃口を向け、助手席の扉に張り付くよりも前に鉛玉をお見舞いしてやる。

 「ッ!!」

 その直後詰所に動きがあったのが視界の隅に見え、反射的にそちらに振り向く。

 「くっ!」

 咄嗟にセミオートに切り替えつつ、新たに飛び出してきた敵に一発ずつ刻むように撃ち込んでいく。


 一発目、慌てて飛び出してきたそいつが奇妙なステップで跳ねる。

 二発目、重力が急に働いたように後ろの地面に吸い込まれるように倒れる。

 三発目、自分を撃ったのが誰なのか、或いは何が起きているのかを確認しようとした頭を9mmの鉛玉が貫通した。


 「トーマは俺と詰め所へ。クロはバックアップを」

 バリケードの向こうの相手に浴びせかけた角田さんがそう言ってこちらへ。

 運転席の影から詰め所の入口に銃口を向けるクロを認め、彼女の射線を塞がないようにしつつ建物へ――連中の悪い見本の二の轍は踏まない。

 同じく脇から接近した角田さんと同時に入り口の左右に到着。撃つな――ハンドシグナルでクロに伝えて、彼がポイントマンになる。


 続けて入った俺が、彼と同じセリフを言うのはそのすぐ後だった。

 「「クリア」」

 入り口前で伸びているのが最後の一人だったのだろう。建物の中には地図と無線機とスナック菓子の空き袋の乗った机と、かなり昔に壊れたままと思われる洗濯機と乾燥機以外には壁に立てかけられたショットガンが一丁あるだけだった。

 外のクロに合図を送り、建物の外へ。

 大方ショットガンは足元に倒れている奴の持ち物だったのだろう。

 何が起きたのかも分からず飛び出してきたが、その時に銃を手にしておくという癖はついていなかったようだ――やはり烏合の衆。


 「アルファ1よりCP。検問を無力化した。こちらの被害はない。死体を隠して移動を再開するオーバー」

 「CP了解。よくやってくれた」

 こちらの被害はないどころか、連中はついに誰も一発も撃たずに殲滅されている。そんな程度でよく東人連や公社相手に――いくら相手が本気で潰しには来ていないとはいえ――渡りあえたものだ。


 通信通り死体を詰め所に放り込み、土嚢で重しをしただけのバリケードを撤去すると再び車に乗り込んで移動を再開。

 「血痕はだいぶ残りましたね」

 「まあ仕方ないさ。近づかれなければ分からないだろう」

 言葉を交わしながら撃ち尽くした得物を元の場所へ。処理する際に死んだふりをしていないか頭の残っている相手には一人ずつ撃ち込んでいったが、全て心配には及ばなかった。

 車は更にスピードを上げ、独立記念公園=放置された今はただの荒れ果てた空き地を左手に通過する。


 そう。放置されているのだ。

 そしてそれは、なにもこの公園だけではない。

 「しっかし……、本当にゴーストタウンだな……」

 目標とするラプラス本社まで2ブロックの所で、台風発生時かその後に設置されたのだろう警察用のバリケードと放置車両に塞がれていたため下車した際に漏れたその言葉は、その場にいる全員が同じことを考えていたようだ。

 道路は所々アスファルトが無くなり、或いはジグソーパズルのように無数の亀裂に分断されていて、それらの隙間から南国の植物が自然の逞しさを存分に発揮している。

 周囲の建物もまた同様に、あるものは倒壊し、またあるものは敷地内に伸び放題になっている植物に包囲され、ゆっくりと時間をかけてなくなろうとしていた。


 「アルファ1よりCP。ラプラス本社に接近しているが道路が塞がれていて車での移動が出来ない。ここからは徒歩で移動するオーバー」

 「CP了解。こちらでもそちらの現在位置を確認している。十分に警戒して移動せよ。なお、要救助者が使用している周波数を全員のデバイスに送信する。以降はその周波数に変更せよ。オーバー」

 再び俺たちは目を見合わせた。

 今回最初に疑問を口にしたのはクロだった。

 「アルファ2よりCP。どういう事ですか?今の周波数を使えない理由があるんですか?」

 というか、もしそうだとすれば最初からその周波数にしておく必要があるはずだが。

 その疑問に返答が返ってくるのは体感的には数秒後だった。


 「理由は不明だが、彼が使用できる周波数がこれしかないとのことだ。恐らく無線に何らかのトラブルが生じているものと思われる。また、彼はデバイスを所持しておらず連絡手段は無線に限定されている。今送信した周波数に変更してくれ」

 送られてきた周波数を確認する。

 腑に落ちない点もないではないが、敵地の真ん中で孤立無援の状況で俺たちを騙す必要性も感じない。

 今はその言い分を信じるより他にないだろう。


(つづく)

今日はここまで

続きは明日に

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