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三日会わざれば4

 「アジャーニ!?なぜ奴が?」

 自分の声が思った以上に車内に響く。

 対するグスタフ氏の言葉はそれまで同様静かだ。


 「奴の腹心、AIFの幹部が逮捕された件は知っているな?」

 「ええ。誘拐やら薬物の密売やらで」

 その話なら前に装備管理課のラジオで聞いた。

 「今やAIFは風前の灯火だ。なんでも捕まった幹部が色々話したらしくてな、アジャーニ逮捕も時間の問題とされていた。だがそれでは困る者もいる」

 アジャーニが逮捕されて困る者。

 つまり、アジャーニが色々と調べられた場合に名前が上がりそうな人物や団体。

 勿論、FNAの政治家やら企業やらもいるだろうが、一番大きなところは別にある。


 「東人連……」

 浸透工作の足掛かりとしてアジャーニを使っていた彼らからすれば、色々話されては困るはずだ。

 「ご名答。だがアジャーニも馬鹿じゃない。自分の身が危なくなると悟ると、記録的な速さでFNAを飛び出して地球の反対側まで高跳びを決めた。かつてから付き合いのあった南洋同盟に、持参金と組織運営、そして非正規戦闘の経験を売り込んで、な」

 その説明に口を挟んだのは角田さんだった。

 「随分南洋同盟ってのは高く見られている訳だ。ここも一応東人連の支配下でしょう?」

 俺も南洋同盟という組織についてはよく知らないが、大袈裟でも何でもなくこの世界を三分する勢力の一つである東人連に対して、その領土内で敵対しても頼れると考えられるほどに巨大な組織だったのだろうか。


 「そこだよ。アジャーニは馬鹿じゃなかったが、誰だってパニクっていれば100%の成果は出せない。確かに南洋同盟は東人連に反抗しているし、現在までしぶとく生き残ってはいる。だがそれは、結局東人連が望んでいるからだ」

 そう言ってハンドルを切ると、車は高速道路の方へと滑るように車線変更して交通量のまばらな道路から更に車の少ない高架を登り始める。

 入口付近には正規軍と同様のアームスーツを着込んだ武装警官が2人立っていたが、別に何かを取り締まっている様子はない。恐らくただ監視の目を光らせているのだろう。


 空港へのアプローチを最低限残すようにした以外は近未来的な高層ビルが立ち並んでいるのはこの辺りだけで、遠くに見える市外には随分別の世界が広がっているというのがスロープを登りきったところから見て取れた。

 「今の見たか?武装警官の連中」

 説明を中断するグスタフ氏。

 「この辺り、かつての名で呼ばれる那覇や宜野湾の辺りは東人連の施設や企業が立ち並ぶ都市で東人連の本土並みの設備や警備体制だが、一歩外に出れば発展とは無縁の現地民の暮らす貧民街が広がっている」

 今から向かうラプラス周辺も含めて――そう付け足してから、車は言葉通り東琉球市方向に回頭。


 「そしてそこが南洋同盟の支配領域だ。分かりやすく言えば、この辺り一帯以外のこの島の大半は連中のほうがデカい顔をしている。そしてそいつら相手に取り締まりや治安維持を担当しているのは公社だ」

 どうにも公社とは縁がある。

 というか、この世界でこういう仕事をしている以上無縁ではいられないのだろう。


 「東人連は公社のパトロンにして大口の顧客だが、ここでの注文は南洋同盟を滅ぼすことじゃない。あくまで連中の力をコントロールすること。要するに、都市部に攻め込むほどの力を持たせず、かつ滅ぼさずのシーソーゲームを維持させることだ」

 ここで説明が戻ってきた。

 それが東人連が南洋同盟を生かしておくという事らしい。

 ――なんとなく、その後に説明されるだろう理由は読めてきた。

 「つまり、東人連としては南洋同盟との戦いで儲けたい……ってことですか」

 なのでそれをこちらからぶつけてみる。


 「鋭いな。その通り。三大国にとって公社は手広い便利屋だが、同時に大きな消費者でもある。連中の使うJ1614型の材料や生産施設、動かすための燃料に、使用する諸々の装備品やその燃料。それに様々な権利関係で奴らを動かすだけで儲かる人間が沢山いるのさ。ついでに言うと、時折公社に協力する形で投入される東人連軍にとっても装備や戦術のバトルプルーフ(実戦による実証)や新兵に実戦経験を積ませるという意味では反体制武装勢力ってのは貴重だ。特に、この僻地の島から出てこないような連中は」

 思わず自分の顔が歪むのが、その直感的に覚えた嫌悪感で分かった。

 EFにとってのザウートしかり、そしてこの島しかり、結局三大国の連中には自分の領域内であっても、そして死ぬのが自分の国民であっても、金儲けのための戦争を辞められやしないのだ。


 鎮圧するでも、対話するでもなく、ただ金儲けのためにわざわざ泥沼化させる。

 そしてその時に流れる血は公社の他律生体=いくら死んでも痛くない兵器によって肩代わりさせる。

 自分だけは安全で痛みもない環境にいながら、同じ国の人間をそうではない状況に追い込んで殺して金を得る。


 「琉球自治区ってのは、最早東人連にとって昔ほどの価値がなくなった土地だからな。夏の間に多少の観光収入がある以外にも収益を得ようとすれば、こうなるのだろうさ」

 マキナがその説明を補完する。

 東日本暫定自治区=関東甲信越の一部を除く日本列島のほぼ全土を手中に収めている今の東人連にとって、かつてこの島に求めていた太平洋への橋頭堡という役割は既に終わっている。

 南には俺たちの世界で言うASEAN諸国を併呑したことで防壁を構成し、海を挟んだ北共には日本列島を防波堤にすることで対抗しうるようになった今、特筆すべき産業も地下資源もないこの島の使い道など、極東派遣部隊の整備・補給基地が精々だ。


 そしてユーラシア戦争の復興によって後回しにされていたが、東人連軍内部には数年以内にその機能を九州に移す計画がある。

 そうなればこの島に残るのは精々レーダーサイトぐらいだろうか。


 何となく、さっきの空港でのやり取りの適当さに合点がいった。最早ここで何が起ころうが、誰も気にしちゃいないのだ。その空気が現場の兵士たちにも広がっているのだろう。

遊ばせておくぐらいなら、戦争を創り出した方が儲かる――イカレた経済感覚だが大方そんなところだろう。

 もしかすると、南洋同盟という組織自体、その目的で東人連が生み出した組織かもしれない。

 ――だとすれば、確かにクレセロ・アジャーニは焼きが回ったと言える。産業としての戦争=管理された小競り合いを本物だと信じてしまったのだとしたら。


 「……だとすると、アジャーニをやったのは……」

 「恐らくは東人連だろう。奴らからすれば、欲しいのは安全で制御可能な反動勢力であって、本当に厄介な敵ではない。シーソーで楽しく遊べないのならご退場願うまでだ」

 もう一度モニターを見る。

 そのプロレスに巻き込まれた運のない連中のうち、一番運に恵まれた男の顔が映し出されていた。


(つづく)

今日は短め

続きは明日に

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