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怪物の日33

 「さて、行くぞ軍曹」

 慣れた手つき、そう呼ぶには余りに滑らかな、体の一部のように何事もなく点検を終え装備を揃えたグレンコが俺たちに並び立って後方に告げる。その背中には端末の代わりにいつの間にか大きなリュックを背負い、チェストリグのマガジンポーチには先程の場所に積み上げられていた中から新しいマガジンを補充していた。


 「り、了解……」

 対するウォン軍曹には、準備と言えるものは何もない様子だった。

 無理もない。元々自他ともに認める非戦闘員なのだ。俺たちのようにマキナを入れている訳でもない以上、突然武装して戦えというのも無理な相談だろう。

 「大丈夫だ、信じろ……、大丈夫だ、信じろ……」

 角田さんに返してもらった拳銃よりなにより、念仏のようにそう唱えるのが彼の唯一にして最大の備えのように思えた。


 だが、彼の上官は――俺たちと同様に――それだけでは不十分だと考えていたらしい。

 大きなため息を一つ吐くと、先程までいた商品の山の中から大きな板を一枚取り出して彼に寄越す。

 「軍曹」

 だが、極度の緊張状態の彼には念仏以外の声は聞こえていないらしい。

 「軍曹!」

 「はっ、はい!!」

 「いいか?こいつを持って大人しくついてこい。お前はそれでいい」

 「り、了解しました」

 そう言ってグレンコが渡した板=バリスティックシールドを腕に通し、それをぴたりと体に密着させるようにして保持する。

 それでようやくこちらの準備は整った。


 「キラー1よりCP、これより移動する。LZはどこにする?」

 「こちらCP。今いる建物の北側。駐車場にヘリを下ろします。残り10分で到着予定。なお、無人機はあと7分で空域に進入します。こちらが安全を確保するまで外に出ないでください」

 つまり、接近してくる連中相手にヘリが――どういう手段を使うかは知らないが――無人機を追い払うまでここの建物内で頑張らないといけないという事だ。

 難しい話。だが、無人機の真下で生き残るのとどちらが、と聞かれれば最大限努力するより他にないと答えるだろう。


 「オールキラー了解。それでは10分後」

 「CP了解。連中が南から建物に接近。警戒してください。どうかご武運を」

 通信が切れる。いよいよ10分間の生存をかけた戦いが始まる。

 臨時分隊長=角田さんが自身のデバイスを確認しながら方針を告げた。

 「まずはこの店を出よう。北側出口からショッピングモールを出て、無人機到着前に駐車場の出口付近にある水素ステーションに移動。そこでヘリを待つ」

 異論はない。ここに籠っていても、連中の主力が公社の他律生体である以上、フレンドリーファイアなど気にせず空爆してくる可能性は高い。


 「なら善は急げだ」

 「行こう。トーマ。先頭を任せる」

 「了解」

 俺を先頭にして店を出る。

 後ろにクロとグレンコ。そして角田さん、ウォン軍曹の順で続く。


 店の前は来た時と同様に静まり返っていた。

 出て直ぐに右に曲がり直進。奥のエスカレーターを下りれば、もうそこが駐車場に通じている北側出口だ。

 その方向に向かって足を進め始めた、まさにその時だった。

 視界の隅に見えた、1階のメインストリート。そこに入り込んでいた人影。

 反射的にそちらに目を向けた瞬間、そいつと目が合った。


 「コンタクト!」

 目に続いて銃口もこちらに向けてくる相手から反射的に後ろに飛び下がると、同時に複数の銃声が建物内に響き渡った。

 そしてそれはただ反響している訳ではないという事をすぐに知ることとなる――鼻先を音を立てて飛んでいった銃弾によって。

 「奥だ!二階にもいるぞ!」

 叫びながらマキナと俺の頭が瞬時に次の行動を教えていた。

 それに従い、咄嗟に目の前に放置されているコンテナの影に滑り込み、同時にセーフティーを解除。


 「下からも来ているぞ」

 同じコンテナに隠れたグレンコが先に南側2階通路に向けて発砲する。

 超高速の2点バーストが複数回行われ、奴の口から一度小さな「よし」が漏れたのを聞いた。

 そしてその声をかき消すような角田さんの掃射。グレンコの言った下からの敵=エスカレーターを駆け上がらんとするそれを一番上で迎撃している。

 その彼と背中を向けあったクロが、先程俺と目が合った連中を相手にしている。


 当然、俺もサボっている訳にはいかない。鋭い音を立てて飛んでくる銃弾が途切れたところでドットサイト越しの世界を覗く。

 通路正面。ちょうど降りようとしていたエスカレーターの辺りから撃ってきたそいつらに反撃を試みるが、連中も同じように放置されているコンテナを見つけたようだ。

 頭を伏せた奴らの手前でコンテナに着弾した銃弾が音を立てて弾かれる。


 「くっ!」

 なら仕方ない。こちらも銃身だけ出して盲撃ちを放つ相手から身を守るために鏡写しのような形で隠れる。

 「タンゴダウン!」

 背後で角田さんの声。

 銃声が止んだところで俺も再度頭を出すと、まさに正面の奴も同様に盲撃ちから通常の依託射撃に切り替えてくる瞬間だった。

 「このっ!」

 撃たなければ撃たれる。もしくは撃っている最中に撃たれる。

 それを直感的に察して指切りバーストで撃ちこんでやる。三発の銃弾が奴に飛んでいくのが感覚で伝わってきて、そしてそのうちの2発がコンテナを叩いたのもまた分かった。


 そして残りの一発は、相手の左腕をコンテナから叩き落していた。


 「よし」

 更に指切りで三発。銃弾による籠手面が決まり、奴が崩れ落ちる。

 「タンゴダウン!」

 宣言しつつすぐに前進。コンテナを飛び越え、前方右にあるコンクリート製の円柱の影へ。

 円柱を盾にとると、すぐに90度左=南側2階の通路に照準をつけ、南北の連絡通路に向かって走っている敵に一発ずつ撃ち込む。

 その未来位置を予測して、奴ら自身より少しだけ前に。予め弾を置いたところに相手から突っこんでくるように。

 ――と言ったところで簡単には出来ない。下を始末し終わったクロが俺たちのいたコンテナに移動しつつ接近したそいつらを仕留めるのを確かめてから、今度は90度右へ。先程始末した奴の後続が同様にコンテナに隠れて制圧射撃を行いながらもう二人が飛び出して走り込んでくる。連中お得意の戦術。今回は前衛も一人が射撃しつつ近づいてくる。


 柱に隠れて銃撃が止むのを待ちながらしかし、戦う相手は一人減ったという事をグレンコの銃声で知った。

 「ナイスキル」

 止んだ銃声の代わりにそう言って柱から左に飛び出し、同時にライフルから手を放してセカンダリーにスイッチ。

 「!?」

 突然飛び出してきた――というより覗き込んだ俺に飛び込んできた一人が咄嗟にライフルを構えようとする。

 「遅い!」

 だが、既に4メートル切っているような至近距離で、コンパクトなブルパップ式とはいえ、一瞬とはいえ反応の遅れは致命的だ。

 ましてや既に抜かれ、セーフティーを解除して引き金に指をかけたハンドガン相手には尚更。


 「しゃっ!」

 息を吐きながら2発。胸と頭に叩き込む。

 拳銃弾とはいえ四十五口径で頭。この至近距離では助からない。

 奴が倒れるよりも更に前に左に銃を振り、倒れる味方が邪魔になって射撃が遅れたもう一人にも同様のダブルタップ。

 2×2回のリズムで2人を沈め、すぐさまライフルに持ち替えると、またコンテナの後ろに現れた後続にも同様の2発をお見舞いする。

 「カンバンか」

 どうやらこれで向こうは終わりだ。柱でカバーしつつそう考える。

 クロも角田さんも始末は同じく片付いたようで、前進を再開するべくこちらにやってくる。


 「よし、今のうちに――」

 言いかけたところで、インカムに緊迫した声が。

 「CPよりオールキラー!包囲部隊のトレーラーから何かが発射されました!飛翔体は三発!」

 もう遅い。そう思うよりも、その内容を理解するよりも早く、残り僅かな天井のガラスが、耳障りな音を立てて光のシャワーに代わる。

 「伏せろっ!!」

 咄嗟に叫び、反射的に飛び退いて自分の言葉を再現する。

 が、爆発はしない。爆風も音も何もない。

 いや、音だけは例外だ。爆発の轟音とは明らかに異なる、何かが激しく衝突する音と、その後から聞こえ始めた不快な、ワンワンと唸るような音。


 「いかんグロウラーだ!」

 グレンコの声に跳ね起きるようにして立ち上がり、音のした方向に目を向ける。

 1階のメインストリートに突き刺さったミサイルのような飛翔体。

 その胴体部分はどうやって閉じていたのか不思議なほど大きく開いて中身のない空洞となって床のタイルを打ち砕いて突き刺さっており、そのすぐ上に唸るような音を立てるものの正体が浮かんでいた。


 M-1103グロウラー。かつて北共で開発され、今でも現役で使用される無人兵器。


 蜂を模したようなそのサイズと姿で、無数の蚊柱ならぬ蜂柱を形成して群体として襲い掛かる。

 「来るぞ!」

 そのグロウラーの標的ただ一つ。ここにいる全員を殺すことだ。


(つづく)

今日はここまで

続きは明日に

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