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怪物の日25

 持ち主の手を離れたピンの付いたままの手榴弾が足元に転がる。

 「よし……」

 他に動いている個体はない。

 念のため銃剣兼用のナイフを抜き着剣して刺していくが、いずれも無反応だ。


 それを終え、近づいて来る気配に呼びかける。

 「こちらは片付いた」

 「了解。行きましょう」

 相手の方に目をやると、ふわりとホームから線路上に飛び降りるところだった。

 彼女を追って俺もそちらに降りる。日本では絶対に出来ない地下鉄の線路ウォーキング。

 意外にホームは高さがあるのだという事をこの時初めて知った。たまに線路内に人が落ちる事故があったりするが、成程この高さから落ちれば簡単には上がってこられまい。


 その線路の上を俺たちは進んでいく。

 ポイントマンを交代したクロの背中を追い、駅からトンネル内に入ったところで後ろを向いて後方を警戒しつつ後ろ歩きで進む。

 目標のショッピングモールは一駅先だ。




※   ※   ※




 「新人二人は無事そうかい?」

 デバイスを覗いていた俺に分隊長が声をかける。

 対する俺は、彼らを表す光点から顔を上げて答えた。

 「無事のようですよ。現在地下鉄の線路をショッピングモール方向に移動中」

 このままいけば、この先の線路への合流地点で二人の後ろに出ることになるだろう。

 地下駐車場での戦闘で分断されてしまった俺たちは、昨夜歩き回った地下水路のような場所に再度入り込んでいた。まったくよく潜る日だ。


 「そいつは良かった。それじゃ俺たちも行こう」

 そう言って分隊長がポイントマンに立ち、正面と上を警戒しつつ進む。

 この辺りの地下水道は立体的な構造になっていて、先程トーマが撃たれた場所とよく似た歩廊が上を通っている。

 壁の様子などを見るに比較的新しい場所だが、恐らく有事の際を見越して避難経路を兼ねて設計されているのだろう。

 その証拠に、途中で地下鉄の線路と合流しており、他にも主要な行政或いは商業施設とも繋がっている。多少遠回りになるが、ショッピングモールもその一つだ――もっとも、そっちの道は戦時中に崩落してしまったそうだが。


 その地下通路を、俺たち二人は互いにカバーし合いながら進んでいく。

 クリアリングしながらコーナーを曲がり、後方や天井も時折警戒しつつ、ローレディに保ったパーティガンのセレクターはフルオートのままで。


 「ここのはずだが……」

 分隊長が再び声を発したのは、俺にも分かる理由だった。

 合流地点に向かうための道が塞がれている。人為的にではなく、崩落によって。

 「仕方ないですね。迂回しましょう」

 「そうだな」

 小さくため息を一つ吐いて、デバイスを確認。

 どうやら横の穴から迂回ルートに進めるようだ。

 「気をつけろよ。もう一度地下駐車場に出るようだ」

 「そのようですね」

 別の建物の、ではあるが。


 横の穴をくぐりぬけると、そこは別の地下水路。

 崩落した元の道を迂回するように進んで、しかし元の道には戻れず、近くの別の穴へ。

 その先は、水路ではない階段の踊り場だった。

 この町は地下の発展がかなり広範囲に広がっているようだ。大方地上の面積が限られている分地下に伸びるしかなかったのだろう。


 その階段を進まず、本来の出入り口である扉に慎重に滑り込む。

 一体元はなんの建物だったのか、オフィスのような空間が広がっているそこを念入りにクリアリングしながら進んでいく。

 曲線的な大きいデスクがいくつかと、それを囲むような事務用のいす。そして放置されたノートパソコンがいくつか。

 なんとも21世紀趣味というか、現代において持て囃されていそうなレイアウトのそこには、恐らく従業員だったのだろう男女数人の遺体以外には何もない。

 ――仕事場で仕事中に死亡など、それこそ死んでも御免というものだ。

 「……嫌な死に方だ」

 思わずそれが口をつく。良い死に方があるかと言われれば恐らくないのだろうが。


 「ここで何していたんだろうね?戦時中なら避難命令が出ていただろうに」

 同じく独り言のように呟いた分隊長のそれを聞いてハッとする。言われてみればその通りだ。

 「おっ、カク、見てみな」

 そう言って彼が示した方向に目をやると、オフィスの一角に明らかに燃えた跡があった。

 それもボヤの類ではない。そんなことが起きそうにないただの床とキャビネットしかない場所だ。

 では戦時中の攻撃でか?いや、そもそもこの部屋、弾痕もなければ空の薬莢も落ちていないし、ガス濃度計もずっと正常値を示している。先程の死体も改めて見てみると、戦闘によって殺害されたと言った様子はない。まさに普通の業務中に突然死亡したとしか思えないのだ。


 「なんだ、ここ……」

 「こいつらNGOだ。確か遊撃隊が虐殺していたとかなんとか言っていたな」

 そういえばそんな話もあった。

 昨日の夜、拘束されたNGO職員をカンとかいう遊撃隊の隊員が殴りつけているのも見かけた。

 「……」

 デスクの上に残された書類に目を落とす。戦災復興支援組織シード――これを見る限りはまともなNGOに思える。


 「本当にNGOだったのかねぇ、こいつら」

 「疑わしいですか?」

 「遊撃隊の肩を持つって訳じゃないけど、戦災復興組織が地下のオフィスに籠って秘密裏に活動する理由なんてちょっと考えられないね」

 言いながら、彼は黒一色に染まった方向に向かって歩き出し、その手前の扉を顎で示す。


 「ま、今はサバーカも遊撃隊も信用できないってことだけ分かっていれば今は十分さ。俺たちがいまするべきことは――」

 「若手二人と合流して生きて帰る……ですよね?」

 「そういう事。部下全員を生かして帰すのが俺の仕事だからね」

 部隊長の仕事は部下を生かして帰す事。部下の仕事は部隊長の手足となる事――彼が今の立場になった時から言われている事だった。

 そして今日まで、彼は自分の指揮する部隊でその仕事に失敗したことは無い。


 「連中のいがみ合いやら公社連中が何でここにいるのかは今気にする必要はない。今必要なのは生きて帰る事だけさ」

 そう結論付けて会話を切り上げ、扉を注意深く開いていく。

 「よし、クリア」

 彼の後に続きながらオフィスの外へ。

 その外は先程とは異なる地下駐車場に面していた。

 合同庁舎のそれよりも大きなそこはどうやら2階建てで、ここはその最下層=地下2階に相当するらしい。

 そことオフィスの間――エレベーターホールに通じている廊下を進み、まさしくそのホールに出ようとした瞬間、分隊長が足を止めた。


 「……聞こえたな」

 「ええ……」

 僅かな足音。

 だが聞き間違えではないという事は彼の態度が示していた。

 「……」

 そっとホールを覗き込む。J1614型の後姿がエレベーター横の階段を上っていく。

 それを見送ってから心の中で5秒カウント。敵はいないと考えて俺たちがホールに出て、そのまま地下駐車場へと足を踏み出した瞬間、横の柱からぬっと影が出てきた。


 「くっ!!」

 現れた人影=俺のすぐ左隣。

 この距離での遭遇は相手も想定していなかったのか、咄嗟に手に持つライフルを構えようとしていた――だが、そうはいかない。

 「!!」

 反射的に奴のライフルに飛びつく。

 左半身になってブルパップ式のそれを俺の右側に逸らしつつ懐に飛び込むと、その顔面を殴りつける。


 「ッ!?」

 奴が怯む。

 そのままライフルの銃身を上から押さえつけて右腕を極め、その勢いで頭からコンクリート打ちっ放しの柱に叩きつける。

 湿った音。べっとりと柱に残る血液――そこから引きはがすように襟を取って背負い投げ。

 柱と同じコンクリートの床が音を立て、背中から落ちたそいつがバイザー越しに俺を見上げる。


 恐るべき戦闘能力:左手がナイフに伸びている。


 「させるかよ」

 その努力が実る前に、奴の首に足を振り下ろした。

 びくんと体が跳ねる。ナイフに向かっていた手が止まり、ゆっくりと落ちていく。

 二度目の死を受け入れたJ1614型から手を放して周囲を確認。

 隣で銃剣術の餌食になっていた個体以外には確認できず。


 「読まれていた……?」

 「さて、どうだろうね」

 断定はしなかったが、ライフルの状態を確認している分隊長の表情はその口よりも高い確率でそれがあり得ると考えているようだった。


(つづく)

今日はここまで

続きは明日に

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