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怪物の日24

 どうする?どこに隠れる?どうやって隠れる?

 辺りを見回し、頭をフル回転させる。

 必要なのは視覚的欺瞞と熱的欺瞞を同時に可能とする隠れ場所。

 だがそんなものは――。


 「!?」

 いや、ある。

 まだ確実と言えるわけではないが、試してみる価値はある。

 「クロ、こっちだ」

 彼女を呼びながら自ら目的のものの前へ。既に先客――恐らく15年ほど前の――がいるが、何とか入り込むことは出来そうだ。

 「こいつを被って全身を隠そう」

 自分の手と右目とで試してみる。熱を感知するため多少の障害物など意味をなさないサーモグラフィーですら映らなくなるのを確かめてから、俺は死体から、彼もしくは彼女を覆っているエマージェンシーシート少し分けてもらってその隣に潜り込んだ。


 これで赤外線サーモグラフィーですらも搔い潜ることが出来る。後は連中がこちらに注意を向けないでいてくれるのを祈るだけ。


 「……失礼します」

 そっと隣にクロが入り込む。左に死体、右にクロという川の字で徐々に近づいてくるレーザーサイトとフラッシュライトをじっとやり過ごす。

 「……」

 嫌に長い気がする連中の警戒。

 意思も感情もない他律生体故に、誰もいるはずがないなどとは毛ほども考えず、死体しかない廃テナントに一つずつフラッシュライトで照らし、或いは実際に中に立ち入って生存者を探している。

 一体何が目的でそんなことをしているのか――それは奴らを動かしている者しか知らない。俺たちが目当てでないことを祈るばかり。


 「……ッ」

 連中がこのテナントにも入り込む。

 サイドレールにフラッシュライトをマウントしたライフルを懐中電灯代わりに隅々までくまなく探す。

 ――もし見つかったら、その懐中電灯が即座に火を噴くことは容易に想像できる。


 「……」

 聞こえてくるのは奴らの足音と時々それらがガラスやタイル片を踏む音。そして己の鼓動と、極めて近い関係上かすかに聞こえるクロの吐息だけ。

 きっと実際には数秒で引き上げたのだろう。やけに念入りに捜索していたように思える、引き上げたその兵士が合流した部隊は、向かい側のテナントにも同様に送っていた隊員を回収して、俺たちが来た方へと去っていく。


 連中の姿が見えなくなってからたっぷり10秒カウントしてからそっと銀色の毛布から滑り出して、連中の方を見る。

 「行ったか」

 「みたいですね」

 既に連中のフラッシュライトの光もレーザーサイトの光線もはるか遠くに行っており、こちらに警戒しているのは最後尾の一人だけとなっていた。

 そしてその一人も瓦礫とバリケードの向こうに消えると、再び静寂と暗闇が訪れる。

 「……行こう」

 「了解」

 同じように毛布から飛び出したクロが、死体の方に手を合わせてから振り向いた。


 再び俺がポイントマンに立って奥へ。

 既に地下鉄の改札は奥に見え始めている。

 「奥から出てきたってことは……」

 そこに向かう間に考えたそれを言葉に出す。

 同じ答えにたどり着いていたクロが続きを引き継ぐ。

 「まだ奥にいる可能性がある……ですか?」

 「そうでないといいけどね」

 既に仕事を放棄して久しい改札機を素通りして駅の中へ。

 と言ってもただフェンスと3基の自動改札で区切られただけの地続きのそこは、左側の下り階段以外には何もない。


 「この先ですね」

 階段の下から見えない位置に移動した時、クロがそこに膝をついてプレートキャリアのポーチの一つに手を入れ、進行方向に目を向けたままそう確認した。

 「これを使いましょう」

 そう言ってポーチから取り出した一枚用のSDカードケースのような箱の蓋を開ける。

 その中身は俺も知っている。タイプは違うがグリーンロック・バレーでも使用した虫型ドローンだ。

 そのカナブンみたいな大きさと形の偵察メカをクロはそっと床に置き、慣れた手つきでデバイスを操作する。


 「よし行け」

 まるでその言葉に従ったようにメカカナブンが飛び立つまで数秒とかかっていない。

 「映像同期します」

 彼女がそう言うと、俺のデバイスに接続許可申請が表示される。

 「許可」と「不許可」が並んで表示され、「許可」の方へスワイプするとそれだけで映像が切り替わり、クロが操作しているドローンの映像が送られてくる。

 「よし、同期完了」

 ふわふわと階段を下りていく映像を見ながらそう答え、それから映像に目をやる――同時に周囲を警戒することも忘れない。

 「やはりいますね……4……、いや6人」

 二つの線路に左右を挟まれたホーム上にいるさーもぐらふぃーの人影。目の前の階段を下りた先に2人と、その少し奥。エレベーターシャフトと一体化した柱の向こうに4人。


 全て先程やり過ごした巡回と同じJ1614型だ。人間とドローンの違いこそあれこちらの存在には気づいていない様子な点も同じ。


 「「……」」

 お互いに顔を見合わせる俺とクロ。

 ここを越えていかなければならないのだ。敵が感づいていないのなら好都合というもの。

 何も言わず互いに音もなく立ち上がって階段の方へ。二人の他律生体が階段下に陣取っているが、この階段から敵が降りてくるとは考えていないらしい。


 メカカナブンが柱の天井付近に止まって4人を監視する体制を取ると同時に俺たちは階段の左右に別れた。

 階段の左側に立ってクロ=右側に目を向ける。

 彼女のハンドシグナルが手早く飛んでくる。曰く、左の敵は任せろ。右の奴を頼む。

 俺は小さく頷いてハンドシグナルで返事。曰く、了解した。狙撃のタイミングをそちらで設定してくれ。


 それからレシーバートップのドットサイトから、こちらに背を向けた相手の後頭部に意識を集中させていく。

 同様にクロももう一人を発見しそちらに銃口を向け、それから一拍の空白、そして一瞬だけハンドガードから離れた手が前に動く=殺せ。


 「ッ!!」

 ほとんど銃声の無いサイレンサー付きの一撃は、他律生体に口を利くことさえ許さずに頭を撃ち抜いた。

 そしてそれに気づいたもう一人――これは俺の相手だ。

 ドットの向こうで、倒れた味方の方に向けたその頭を5.56mm弾が貫いていく。

 糸が切れたようにどさりと倒れたJ1614。それを合図にするように俺たちは横に並んで階段を下りていく。


 突破作戦はスタートした。となれば残りの連中がこの2人に気づく前に決着をつける必要がある。

 速足に、しかし音を立てずに、ライフルを構えたまま階段を下りきった俺たちは階段上と同じ配置のまま散開する。

 目指すは目の前のエレベーターの向こう側。

 左を選んだ俺が線路と縦長なエレベーターシャフト兼用の柱を通り抜けていく、まさにその時僅かに空気漏れを鋭くしたような音がかすかに聞こえた気がした。


 そして、その音が聞き間違いではない事を証明するようにインカムに聞こえるクロの声。


 「タンゴダウン。連中がこちらに注目しています」

 「了解。後はこちらで」

 答えながら足を止めず、右肩にストックを当てていたライフルを、障害物を想定して左肩にスイッチする。

 左手は腕をピンと伸ばしてフォアサイト辺りを包み込むように。こうすることで閉所での取り回しが向上する。

 後は左腕の長さを利用し、柱の向こうに見えた一人目に向けて立て続けに2発。

 再び銃を右にスイッチしながら足は止まらず、既に柱から姿を露出してしまっている――なら、やることは一つしかない。


 「!!」

 どうやら自分たちが包囲されつつあるという状況を理解し始めた他律生体たちだが、時すでに遅しという奴だ。すぐ目の前にいたもう一人に向かって3発撃ち込み、倒れるよりも前に最後の一人にこちらの存在を見せる。

 「!?」

 奴の眼が俺に向けられているという事は、クロに対しては側面を晒している事。

 その隙を逃がすような奴ではなく、俺に銃を向けようとした瞬間に銃弾に飛ばされるようにして倒れた。


 「よし。今ので最後だ――あ」

 そう言ってから足元に目を向けると、まさに今手榴弾のピンを抜いて自決しようとしている兵士に出会った。

 「この……ッ」

 咄嗟に飛び下がりながら頭に向かって引き金を引く。

 今度こそ、本当に今ので最後だろう。


(つづく)

今日はここまで

続きは明日に

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