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怪物の日23

 階段を登りきって再び庁舎1階へ。

 着弾の衝撃でも意外と無事だったそこを抜ける途中で再度分隊長の通信が入る。

 「オールキラー、公社の連中と遭遇した場合レーザーは使用するな。連中のバイザーには我々の眼帯と同じ機能が搭載されている。こちらの位置を晒すことになる」

 「キラー2了解しました」

 「キラー3了解しました」

 となると指摘通りこちらから仕掛ける場合は無論の事、暗闇で遭遇した場合は厄介だ。

 自身の得物に取り付けられたレーザーサイトを指先で触り、電源が落ちていることを確認する。

 件の代物はフラッシュライトと一体化しているため、誤って使わないように注意しなければならない――省スペースになると思ったが、少し注意が必要なパーツだ。

 幸いパーツのフラッシュライトとレーザーサイトが「∞」の形で並んでいて、スイッチがそれぞれの外側に分かれているため片側だけスイッチを入れなければいいのだが。


 そんな事を頭の片隅に置きながら先程駆け抜けた道を再度戻る。

 今度は先程よりペースを落とし、建物の外に、或いは中の物陰に隠れているかもしれない公社やサバーカの兵士を警戒しつつ崩落したカフェへと足を踏み入れる。

 「キラー3よりCP、無人機の現在位置は?」

 「CPよりキラー3、無人機は現在ノヴァヤ・ザウート西に待機中。高度を上げより広域の警戒に移った模様。恐らくその庁舎からビルまでは死角になっていると思われます」

 となれば奴が動くより前に駆け抜けるべきか。クロとちらりと目を合わせ、互いの意思を確認する――出るなら急いだ方が良い。


 「現在、現在東北方面から戦闘車両を含む公社部隊が接近しています。外を移動する際は十分に警戒してください。デバイス上のマップ情報を更新、高脅威目標の位置を表示します」

 付け足された指示と新しい情報にデバイスの画面上に目を走らせる。

 現在位置=合同庁舎を中心とした市街地の地図に二つの鋭角な矢印。

 西と北東でそれぞれ無人機と戦闘車両を表しているそれは、対象との距離を意味する矢印の長さから考えてまだ走れば間に合いそうだ。


 そしてそれぞれの矢印の隣には、高脅威目標のCGモデルのようなものも表示されていた。

 無人機は翼部パイロンに複数のミサイルを懸架しており、まだもう一度ホテルと庁舎を焼くぐらいのことは出来そうだ。

 そして戦闘車両は、8輪のタイヤを備えた車体の上に直線的な砲塔を備え、長砲身の主砲がそこから一本突き出した姿。

 装輪戦車。主力戦車程ではないにせよ、現在の装備で勝てる相手ではないことに変わりはない。


 「キラー3受信。感謝します」

 同様の通信がそれぞれに聞こえ、それからその内容を元に俺たちが下した判断は、それがない時と大して変わらないものだった。

 「よし、行こう。俺がポイントマンを」

 「了解。よろしくお願いします」

 地下プロムナードの入口はノヴァヤ・ザウート潜入時に通るはずだったビルの向こう側だ。幸いまだ残っているビルの廃墟の1階を突っ切ればすぐそこが入口となっている。

 大小のコンクリート片を避けて外へ。交通安全もクリアリングも同じ――左右を確かめてから渡りましょう。

 もっとも、今は上にも注目しなければならない。周囲に狙撃手がいないかを確かめて慎重に外へ。


 瓦礫でできた壁に沿って道路を横断するにあたってそれまでいた庁舎を外から見上げる。

 元は歴史を感じさせたそれも、今では歴史を感じさせる廃墟に代わっていた。

 展望室は完全に消滅し、屋根のほとんどは下の階諸共なくなっている。外にまき散らされた大小の残骸の他に、下の階に落ちて、俺たちとニアミスしたコンクリート塊を作った可能性もありそうだ。


 「よし、行ける」

 だがそうした周囲の廃墟のいずれも敵の気配はない。

 ぐるりと一周確認してから進行方向のビルへ駆け足。元はガラス張りだったのだろう1階部分に足を踏み入れ、エントランス兼エレベーターホールだったと思われるそこを突っ切ろうと進めた脚は、突然の銃声によって止められた。


 「待て」

 「聞こえましたね……」

 乾燥した連続の銃声。

 それに応じる異なる種類の銃声――空気の鋭く抜けるような音。

 そしてそれに更に反撃するのだろう、また別の銃声。

 複数のそれらと時折混じる叫び声。やがてそのうちの1種類のもの=空気の抜けるようなそれが黙り、それを合図にしたように他の2種類も絶えた。


 「こちらの被害は?」

 唐突に人の声が銃声に取って代わる。距離はかなり近い。俺たちのいる場所からエレベーターホールを挟んで反対側のエントランスだろうか。思わず足を止めて身を隠す。

 もう一度デバイスを確認。無人機も装輪戦車も今のところ近づいてこない。

 「負傷者が一名。出血が治まらず現在治療中です」

 まさに今の戦闘の結果だろう。恐らく公社と遭遇した遊撃隊か難民兵の部隊だ。

 「……だ。もう……だ……」

 「なんだ?」

 聞き取れなかったのは俺だけではないらしい。

 だが、その後の声は誰にでも聞こえるような、しかし聞き取りにくい錯乱状態のようなものだった。

 「もう無理だって言うんだ!俺は逃げるぞ!!」

 「おっ、俺もだ!こんなところで死にたくねぇ!!」

 怒っているとも泣いているともつかないような声が爆発したようにおこり、それに賛同する同じような声が一つ続く。


 「どこに行く気だ?」

 それを制止したのは新たな声。

 その新たな声が更に何かを尋ねた――のだろう。ここからではデバイスの指向性マイクを使っても聞き取れなかった。


 「はっ!ですがあの無人機は遊撃隊のカン中尉が担当されているのでは?」

 「その中尉殿が行方不明だ」

 新たな声の返答は意外と若い、嘆きとも苛立ちともつかない声だった。

 「とにかく……だ。逃げる者は……に……」

 それからすぐ元の口調で何かを告げたのだろう。それが逃亡を許さないという内容なのか、或いは全員で逃げる算段をしているのかは分からないが。

 「了解しました」

 最初の声の返答を最後に声は途切れ、思い出したように俺たちも動き出す。もし連中が何らかの都合でこちらに動いても困る。


 1階部分を突っ切って、地下鉄の入口のような地下プロムナード入口へ。

 地下に形成されたこの商店街はその中で実際に地下鉄駅と一体化しており、そこから線路を歩いて件のショッピングモールに向かうことになる。

 地下に向かう階段の途中には軒を連ねる店舗の看板が並んでいるが、おりた先にあったのは、それからは全くかけ離れた世界だった。


 「なんですか、これ……」

 クリアリングの最中、それによってここの姿を目に焼き付けたクロが困惑した声を上げる。

 昨夜通過したブティックのような、略奪と破壊の限りを受けて荒れ果てた惨状であれば、恐らくそこまで反応はなかっただろう。

 それは昨夜のあそこで慣れているし、言ってしまえば今は想像できるのだ。


 だが、ここは違う。

 碁盤の目のように整理された商店街はバリケードによって通行が制限され、多くのテナントはシャッターが閉ざされるか、或いは別の用途に用いられて元がなんだか分からなくなっていた。

 「これは……」

 そうしたうちの一店舗の前を通り、中を覗く。

 並べられた無数のボディバッグ。そしていくつかはそこから顔を覗かせている白骨死体。


 「ひどいな」

 思わず漏れた正直な言葉。

 恐らく戦時中は死体安置所として使用されていたのだろうこの辺りでは、シャッターの開いているテナントはそうした用途に使われていない所がなかった。


 その死体置き場の間を抜けて先へ。

 途中から別の用途=避難所に用いられた場所を見つけ、徐々に死体安置所とそれが混在したエリアへ、そしてそれから完全に避難所のエリアへと移り変わっていくが目につくものは変わらない。ただ纏っているのがボディバッグかエマージェンシーシートかの違いだけ。

 何があったのか、ここに避難した者達は皆、運び込まれた死体と運命を共にしてしまったようだった。

 エマージェンシーシート=防寒性に優れたアルミコーティングの薄手毛布にくるまったか、寝かされたままで命を終えた者達の集い。


 「!?」

 「やばい!隠れろ!」

 咄嗟に彼らの中に混じって屈む。

 奥から見えた一瞬の光が、反射的に俺たちにそうさせた。

 「くっ」

 暗視装置の向こうに目を凝らす。

 大型犬位のサイズの四つ足のメカを先頭にした公社の部隊が改札を越えてこちらに向かてくる。

 周囲を念入りに警戒しながら歩く連中の中から数条の光が伸びている。

 レーザーサイト。恐らくライフルのサイドレールにマウントされたそれが、この死体だらけの世界の例外を探してくまなく辺りを走っていた。


 「落ち着け……やりあえる数じゃない」

 静かに、自分に言い聞かせる。

 敵は10人以上は確実で、それに偵察用メカがついてくる。

 対するこちらはたった2人だけ。

 ならやることは一つ。安全に――即ち複数の機能を持ち、こちらの温度さえ探知できる相手に見つからないように隠れる事。


 ここの連中の仲間入りだけは御免だ。


(つづく)

今日はここまで

続きは明日に

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