怪物の日22
連れてこられた水路管理事務所から地下駐車場へ戻る。
部屋にあったもので封鎖された地下水路側のとは反対の扉から広い地下空間に出ると、同時に分隊長がCPに伝える――テーブルで。
「キラーリーダーよりCP、地下水路内で敵の待ち伏せを受けた。一度は押し返したが増援の可能性あり。別のルートで脱出するオーバー」
「CP了解。その地下駐車場からは水路管理事務所の扉の並びにもう一つの通路に出られる扉があります。そこから市街北部のショッピングモールに向かってください。CPアウト」
全員聞いたな――これまでのようにその確認が来る前に、別の情報が割り込んだ。
「Incomimg!!」
聴覚がその声を聞き、視覚がその正体を確認する。
この地下駐車場の出入り口のシャッターが破壊されていて、そこから一斉になだれ込んでくる――勿論濃密な制圧射撃下で。
二つの情報から反射的に一番近くの柱に飛び込んで銃撃を凌ぎ、畳まれていたライフルのストックを展開。柱の左から銃身だけを出して反撃する。
「あれって!」
「ああ、間違いない――」
同じように散ったクロの声とそれに応じる分隊長の声。
どちらも驚きを隠せないそれは、敵の姿をはっきりと見たが故のものだ。
「公社だ!」
こちらの反撃に怯んだか、或いは単に移動中か弾が切れたのか、制圧射撃が一瞬止んで、その瞬間に俺も柱の影から覗いて確認する。
こちらと鏡合わせのように車や柱の影に身を隠して散開する敵部隊。
見覚えのあるバイザー付きACHとIMTV風ボディアーマー。間違いなく公社のJ1614型だ。
――だが、何故?シェスタコフさんの話によれば連中の介入にはまだ時間があるはずだった。だからこそ今回の作戦が実行されたのだ。
「動きを止めるな!切り抜けるぞ!」
分隊長の言葉に思考を先頭へと切り替える。
考えるのは後でいい。目の前の相手が撃ってくるなら、やられる前にやるしかない。
「ッ!!」
一瞬だけ頭を出して分かった=連中の制圧射撃は正面から行われている。
入り口はこの柱の正面奥に位置するが、そこから入り込んだ公社兵のうち射撃班は全身をすっぽりと隠すバリスティックシールドを携えた先頭の連中の作った横隊の後ろから分隊支援火器を撃ち込んでくる。
広い車道の真ん中に陣取ることで広く射界を確保しつつ、同時に相手=この場合は俺たちの目を集め、その上で反撃は楯によって防ぐ。
「ちぃっ!」
そしてその間に他の部隊が敵の側面や背後に回り込む。お手本のような戦術。
そのお手本通りに右手側から近づいてきた相手に、柱の影から数発お見舞いする。
向こうもそれぐらいは想定済みで停車した車に隠れたが、その間は前進が止まる。
「うるさい機銃を黙らせる!トーマはそのまま足を止めろ!クロはトーマを支援!」
矢継ぎ早に飛ぶ指示に従い、柱からその横に止まったセダンに滑り込み、前輪の上から顔と銃だけ出すと、まさに一人が車の影から飛び出してくるところだった。
「このっ」
向こうがこちらに気づき銃を構えようとする、その出鼻を狙って引き金を引く。
「!!」
奴の動きが鈍る。
構えが崩れ、足が止まる。
僅かに上体を折り曲げようとしてこちらに下げた頭へとどめの一発。
その場に崩れ落ちる奴の後ろからもう一人が反撃に転じようとしている姿にドットを重ねて更に撃つ。
「タンゴダウン!」
二人を仕留めたところで向こうからも反撃を受けるが、古くとも車体は頑丈だ。
がくんとタイヤが撃ち抜かれたことで車高が下がるが、頭を下げている時はどの道当たらない。
そしてその銃声もすぐに止んだ。柱の影に追加されたもう一人に気づかなかったのだろう。
「タンゴダウン」
そのもう一人が冷静にそう発し、直後に乾いた炸裂音が響いた。
「よし、機銃を黙らせた!おい待て――」
炸裂音に代わって耳に入ってくる声。それに更に変わって聞こえた鋭い空気音。
その音が妙に長く耳にこびりついている――水路管理事務所入口前の天井が爆発した後も。
「うおっ!!」
思わず飛び退き、その瞬間車の影から完全に飛び出していたことに気づいて慌てて反対側の柱へ滑り込む。
その後ろにぴったりと続くようにクロ。
「野郎ッ!!」
角田さんの怒号とそれに続く二度目の爆発。
そして俺の声。
「分隊長!!カクさん!!」
もうもうと吹き上がる黒煙が急速に地下駐車場を満たしていく。
追い詰めた俺たちを爆殺するつもりだったのか、立て続けに撃たれた二発のロケット弾が最初に俺たちがいた辺りを徹底的に破壊していた。俺のいた柱も、今や発泡スチロールか何かだったのではないかと思う程にひどく破壊されているが、急速に悪化していく視界の中で見えた。
「そちらは無事ですか!?」
クロが叫ぶ。だが同時に前進してくる敵の相手もしなければならない。
俺は再度柱の左からブラインドショットで弾幕を張り、入れ替わってクロが一発だけ撃ち込む。
「タンゴダウン!応答を!」
身を隠しながら叫び、そして入れ替わった俺が再度出る前に反撃が数発コンクリートの表面を削っていく。
――攻撃頻度が落ちてきている。数が減っているのか、或いは連中も煙にまかれているのか。
「この間抜け共めが!」
後者であると断定して煙に向かって引き金を引く。
右目の世界は温度差で僅かにだが敵が隠れていることを知らせている。
「タンゴダウン」
その右目の中で一人がひっくり返る。
丁度その時待望の声が耳に響いた。
「俺とカクは無事だが、新ルートの入口は潰されている。本来の通過予定だったビルを抜けた先の地下プロムナードから地下鉄を使ってショッピングモールに向かえ!」
互いの耳の音に目を合わせる俺とクロ。
「キラー3及び2了解。ご無事で」
一言だけ添えて通信終了。
合同庁舎1階への道はすぐ近くだ。
「クロ、先に行ってくれ」
「了解」
彼女が先程降りてきた階段へと向かって走り出す。
それを確かめると、俺は今のマガジンに残っている弾を全てばら撒いてから彼女の後を追った。
「CPよりオールキラー!地下駐車場での敵襲を確認しました。それぞれのルートで聖アレクセイ記念大学に向かってください。大講堂前で回収します。CPアウト」
階段の途中で無線が音を立てる。
そう、無線で。つまり、サバーカの連中に聞かせるために。
「……了解」
静かに口の中で呟き、無線からテーブルに切り替えると、直後に着信。
「CPよりオールキラー、当初の予定通りショッピングモールへ」
まあいい。考えるのは後だ。
今は生き残る事だけに集中しろ。
(つづく)
今日は短め
続きは明日に




