怪物の日20
男の指が説明に上がった名前を順に追っていく。
「何か質問は?」
「破壊が目的なら、車列を攻撃した方が速いのでは?」
そう尋ねたのは角田さんだった。
――それはつまり、端末ごとグレンコも始末するという事。
表向き、依頼では暗殺は謳っていない。当たり前の話でそんなことを依頼されても企業としては断るしかない。オプティマル・エンフォーサーはPMCであって始末屋ではない。
だが、俺たちの目的は端末の奪取或いは破壊だ。そしてその端末を持っているのはグレンコだ。
つまり、必要になれば奴に近づくことになる。そしてその時奴が大人しく渡してくれるとは限らない。
俺たちは殺し屋ではない。だが、必要に応じてその真似はすることになるかもしれない。
「いや、それは出来ない」
だがその質問に対する答えはノー。
「連中の常に複数台で行動しており、どこにグレンコが乗っているのかは降りてくるまで分からない。よって確実に端末を奪うか破壊するには、連中がホテル内に入ってからを狙った方が良い。車列全てを一度に吹き飛ばすだけの火力も用意できない」
「了解。ならその予定で」
「そうしてくれ。連中は0700時にホテルに来るはずだ。連中のホテル内への進入を確認したら侵入を開始してくれ」
後は俺たちの中での話だ。
デバイスに入れられたホテルの見取り図を確認しつつ侵入ルートと脱出ルートを考える。
やがてそれも終わり、後はただその時を待つだけとなって、俺たちは1階に移動することとなった。
庁舎の受付の隣、併設されたカフェの廃墟からはホテルの入り口がよく見える。
その上瓦礫の壁は、このカフェの一部を巻き込んでおり、窓だった場所から外に出ればそのまま壁の影を進むことが出来る。
ここで連中の接近を見張り、建物に入ったのを確かめたらいよいよ作戦開始だ。
「……あの、分隊長」
そこに移動し見張りと仮眠を交互に取ると決めた時、俺は意を決して先程頭に浮かんできた考えを伝えることにした。当然、インカムが拾わないようにして。
「もしかしてですが……、CPはサバーカの機密データを奪う気ですか?」
「そう思う根拠がある?」
「あの外れの端末。どうして必要ないはずのあれの置き場所を必要としていたのか。恐らくですけど、あれが本当は当たりだったとしたら……」
もしそうなら、あの時本当はサバーカに照合なんてせず、適当な事を言っていた可能性もある。
今回のサバーカの依頼は、機密データ=中身を見られたら困るデータだ。
それを回収することが出来れば、サバーカとの関係は変わってくるだろう。
「成程、それで?じゃあ誰がそれを回収する?」
「……俺たちです」
今この時間に動くのなら、連中にはバレることは無い。
「……そうか」
そう一言だけ言って分隊長は沈黙する。
一瞬の静寂が俺たちの間に訪れた。それが続いたのは一秒にも満たない時間だったが。
「じゃあ、あれのシリアルコードを読み上げて、かつそれは外れだと伝えるやり取りを、サバーカにも聞こえる無線でやっていた理由は?」
「あ……」
穴はしっかりあった。
「まあ、面白い考えではあるけどね」
そう言って少しだけ笑いながら、分隊長は肩を竦めて見せる。
そしてそれから、更に小さく、そして真剣な声で続けた。
「CPというかビショップ爺さんがサバーカに隠し事をしているのは事実だ。とりあえず今はこのままテーブルを使える状態で待機しておけ」
「了解……」
敵を騙すにはまず味方から――分隊長はそう言って締めた。
敵。やはりサバーカを信頼していないのは事実のようだ。
「ただまあ、今は目の前の作戦に集中だ。恐らく連中も作戦中は味方だろうからね」
そう付け加えて、今度こそ終わり。
それで俺は、先程の考えをもう一度実行に移すことにした――即ち、難しいことを考えるのはひとまず分隊長に任せておく。あれこれ考えながら作戦を継続できるほど俺は器用ではない。
ビショップさんもサバーカの連中もよく分からないが、少なくとも分隊長はそれらより信用できる。
そう考えて思考を打ち切り、それからは仮眠と監視を続けた。
やがて東の空がゆっくりと明るくなりはじめ、黄昏時が早朝に明確に入れ替わる頃になって、三台の車列が現れた。
「キラーリーダーよりハンターチーム。連中と思われる車列を確認した」
「ハンター6了解。こちらでも確認した。……間違いない、2台目の車から降りてきたのがグレンコだ。端末も持っている」
他の遊撃隊員に囲まれた男が黒いセダンから降りてホテルのエントランスに消えていく。
「よし、全員準備しろ」
朝の冷たい空気が全身に沁み渡ったようなピリピリした緊張がみなぎってくる。
いよいよ作戦開始だ。
「ハンター6よりオールキラー、連中が展望台ホールに入った。最上階だ……ん、待て」
口調が変わる。
全員の耳が無線に向かい、眼が話題の展望台を見上げる。
ハンターチームが呼び止めた理由が、その見上げた視界に飛び込んできた。
「なんだあれは……?」
展望台の上に人影が複数。
双眼鏡を取り出す暇もなく、それは動き出した。
「なんだ!?おい、どうなっている!?」
無線の向こう、今まで聞いたことのない慌てふためいたハンターチームの声。
それと同時に、人影たちは動いている――屋上から一斉にラペリングした人影が、展望室に銃撃を加えながら飛び込んでいった。
(つづく)
今日は短め
続きは明日に




