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怪物の日3

 「CPよりオールプレーヤー。全目標の反応消滅を確認した。状況終了だ」

 CPの声がインカムに響く。心なしか安堵した様子があるのは、俺がそう感じているからか。

 念のため倒れている連中を確認してみるが、全て動かなくなっている上に、そもそもポンプを携行していない。


 「お疲れ様でした」

 「お疲れ様でした。さっきはありがとうございました」

 同じく緊張を解いた角田さんと言葉を交わす。

 突入のタイミングは完璧だった。最後の一体がこちらに銃口を向けようとするタイミングに合わせるのもまた。あと少しでも奴が角田さんに気づくのが遅れていれば、俺が彼を撃っていたかもしれない。


 「しっかし……こいつはこんな暗闇の中で何やっていた?」

 こんな、と言ったところで電力が復旧する。暗視装置を切って窓の外=クロに手を振って成功を示し、それから倒れている最後の一人を踏み越える。

 奴がいじっていた端末を覗き込むと、どうやら横にぽつんと立っているサーバーの内容を見ていたようだ。

 予備電源を蓄えていたサーバーは、電力供給が絶たれた状態でも稼働している。元々人のいない廃墟の中に放置されていただけあって、電源は久しく入れられていなかったらしく充電は十分だった。


 「電力を復旧させようとしていた……とか?」

 横からそう言いながらしかし、角田さんの声はその答えの可能性の低さを示唆している。

 「だとしたら、直接現場に行ってMFの誰かに遭遇しているはずですよね」

 彼の考えを言葉にしてみる。今回の作戦では電力の遮断は電力管理システムではなく、配電盤を直接操作している。仮にこの建物の電力管理システムが生きていたとするなら、必ず配電盤で操作されている事は分かるはずだ。そしてその場合、普通は現場に人員を寄越す。

 勿論その途中の奴をこちらで始末した可能性もあるが、端末の画面を見るに、電源関係をいじったのは一時的で、あとは――少なくとも俺たちが突入する直前には――サーバー内のデータを検索していたようだ。


 「サーバーの中を見ていたようですが……自分そんなにパソコン詳しい訳では……」

 そう言うと、角田さんも同様らしかった。


 結局そのままにして集合場所になっている建物の前に戻ると、他の部隊の連中に混じってスーツ姿の男が一人。

 「皆よくやってくれた」

 集まった俺たちにそう告げて親しげに笑って見せる男。

 その皺ひとつないスーツと、青白くさえある肌は、なんとなく彼の生まれを象徴するような印象を与えていた。

 彼の名はフランクリン・ペレンスキー。オプティマル・エンフォーサーの取締役の一人にして今回の任務の依頼者。

 正確に言えば彼の知人から頼まれているらしいが、実際に話を通したのは彼だ。

 そして同時に北アメリカ連合共和国の実業家であり、先祖は欧州の古い貴族という筋金入りの名家の出。

 実務レベルでのトップであるビショップ氏の上にいる人であり、今回は彼を飛び越して直接下命している。社内規則並びに会社が準拠しているFNA会社法的には厳密に言えば合法らしい。


 そしてそのやんごとなき方から今回の事件の顛末が語られた。

 「先程、事件の黒幕が逮捕された。マルケス・ファミリーというこの辺りの貧民街を牛耳っていたマフィアの構成員で、抗争で敗れた対立組織が放棄したこの廃工場内に残されていると考えた対立組織の資金の隠し場所を調べると同時に、他律生体を自分たちの兵力として強奪するつもりで、工場の製造ラインをハッキングしていたらしい」

 放棄された廃墟に資金の隠し場所なんて残しているとは思えないが、間抜けな奴もいたものだ。


 「さて、立ち話はこの辺にしよう。皆改めて礼を言わせてもらう。本当によくやってくれた。ここの事は警察に引き継ぐことになる。ホテルを用意してある」

 装備を脱いですぐ近くに着けていた車に戻ると、運転手は委細承知とすぐに動き出す。どうやら作戦中に既に話がついていたようだ。

 まあ、セーフハウスという名のぼろガレージとおさらばできるなら十分だ。

 街道沿いに出るとすぐ警察車両が先導に入った。乗っているのは現地の警察官がひとりと、後は公社の他律生体J1614型。

 北共の段階的PG受入れを発表したこの国においては、警察業務の補助という形で公社が治安維持活動に関わっている。段階的とは言っている通りいずれは全ての業務を公社が担当することになるため、今回俺たちが派遣されたのは滑り込みの受注だったのかもしれない。

 ――ついこの前まで殺しあっていた連中に先導されるというのはなんとも妙な気分だが。


 まあ、いつかは慣れるだろう。そんな風に思考を中断して、窓の外を流れていく夜景に目をやる。

 街道の下には貧民街が広がっていて、いくつかの通りに沿って疎らに明かりが灯っている。海に向かって緩やかな下り坂になっている貧民街は、日中であれば白い壁と赤や青の屋根がびっしり並んだその全景を拝むことが出来る。


 その景色が後ろに高速で流れ、ほどなくして見えてきたのはそれまでとは比べ物にならないネオンの明かりだった。

 それまで見下ろしていたのとは打って変わって、こちらは富裕層の暮らすエリア。交通は整えられ、通りには武装したJ1614型の姿が頻繁に見える。

 貧民街には事実上不干渉の姿勢を示している現地警察は、こちらに人員を集中しているようだった。


 故にか、或いは原因と結果が逆かもしれないが貧民街はマフィアの管轄という考えが広まっている。

 貧民街で生まれた者は、よほどの運と才覚に恵まれない限り基本的にそこから抜け出すことは無い。彼らは生まれ育った町で、そこのカラーに染まり、そしてその中からそこを取り仕切る者が現れる。そこに外部の介入する余地はなく、ある意味で独立国家と言ってもいいようなコミュニティを形成している。

 そしてそうした層と切り離されたこの辺りは、近代的な警察組織による警備体制が敷かれている。


 もっとも、実際には警官よりも他律生体の方が圧倒的に多いのだが。

 ――ここの住民からすれば、もしかしたらそちらの方が良いのかもしれなかった。あいつらは兵器で、賄賂も汚職もないし、命令さえ下れば容赦なく射殺する。良き市民でいる限りは頼もしい存在だろう。そして現にこの辺りの治安は改善しているらしい。


 そんな市街を通り抜け、俺たちはホテルに到着する。各部屋に温水の出るシャワーと機能する空調。そして特にこちらで対策を施さなくても虫や爬虫類が走り回ることのない部屋。

 チェックアウトは明日の朝7時と伝えられ、部屋を割り振られて解散。


 日本のビジネスホテルのような一人用の部屋を与えられ、そこに荷物を置いたら、まずは間取りと避難ルートの確認。

 窓から飛び降りるのには高さがありすぎる。周囲を見ると近くに同じぐらいの高さの建物もあることから、万が一の場合は狙撃を警戒する必要もあるだろう。

 室内には隠れられる場所もない。オートロックの入り口から直通のベッドルームと、その途中にあるユニットバスだけだ。


 廊下に出て非常口を確認。鍵が掛かっていないため実際に移動してみると、狭くはあるが何とか人がすれ違えるぐらいの幅だ。ただ、人がごった返した時には危険ではある。

 まあ、そうならない事を祈るしかない。災害などではなく犯罪や襲撃の場合、室内にあった動かせそうな什器で扉を塞いで救援要請を出し、カーテンを閉めて待つのが一番確実かもしれない。一応拳銃の携行は許可されているが、同じかそれ以上の武装をしている警備員のいるホテルが襲われた場合、それ一丁で強行突破するのはまず無理と考えるべきだろう。


 そこで結論に達し、ようやく部屋に戻れる。

 この仕事を始めて、妙な癖が身についたものだ。


(つづく)

今日はここまで

続きは明日に

なお、明日からは通常通りの投稿を予定しております

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