表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
48/382

怪物の日2

 他律生体に暴走はない――元からインプットされた命令に従っている事を暴走と呼ばないのであれば。

 今回の作戦のCPに詰めている専門家の意見がそれだった。

 連中に自由意思を持ってものを考えることが出来るぐらい脳の機能が残っているなんてことはあり得ないし、こいつらに搭載されている程度のAIが問題を起こしているのなら、世界中に存在する無人兵器やそれ以外の機械がとっくの昔に反乱を起こしている――例えばロボット掃除機とかその辺が。


 それが専門家の意見だ。ロールアウト直後に異常をきたしたという事は、異常行動を起こすように作られていたというだけの話。要するに、製造部門か品質管理部門か、はたまたシステム管理部門か、大方その辺がやらかしたミスを哀れな人形たちに擦り付けているだけ。製造ラインへの悪意ある第三者の介入を許し、それを見抜けなかった人間側の問題に他ならない。


 考えてみれば足元に転がっている連中にも同情の余地はあるのかもしれないが、銃火器を持って制御不能になっているこいつらを野放しにするのはよろしくない。

誰が何の目的でこいつらに何かを吹き込んだのかはいずれ明らかになるだろうが、とりあえず今はここにいる連中を一掃するより他にない。


 「よし、上へ」

 今度は俺がポイントマン=先頭を担当する。危険のあるポジションであるだけに片方に任せきりという訳にはいかない。

 入ってきたのとは反対側に出て、封鎖されている廊下の横から上に伸びている階段へ。

 上を警戒しつつ、忍び足で一歩ずつ登っていく。

 既に長い年月が経過しているのか、足元に敷かれていたタイルは細かく割れ、残っているのも疎らであったが、それが却って足音に気を付けさせるのに役立っていた。所謂危険予知活動。音が鳴るかもしれないというイメージは大事だ。


 「フォワード2よりMFリーダー、裏道に2体向かっています」

 クロのその声がインカムに響いたのは、その階段を登り切り、外の生温い風が流れ込む割れた窓の前にたどり着いた時だった。

 思わず窓の外=麓の街道に通じている細い裏道が伸びている場所を見下ろす。

 藪を左右に分けるようにして設けられた――そして今や藪の逆襲に晒されている――その道に、確かに月明かりに照らされた二つの人影が動いているように思える。

 暗視装置のサーモグラフィーを起動。藪の影になっていた白い影が2つ、はっきりと映し出された。


 「MFリーダー了解。そちらはディフェンダーの正面だ。……排除完了」

 銃声はない。人影二つは道半ばで奇妙なステップを踏み、そのまま倒れてそれっきりだった。

 ディフェンダー。ややこしいがコールサインではなく本当にその名で呼ばれているタレットは、その名の通り本来は施設や陣地の防衛に用いられるものだが、180度向きを変えれば随分アグレッシブなディフェンスを見せてくれる。


 その一幕をわき目に捉え、同時に後方にはハンドシグナルで止まれを伝える。

 階段を上がった先、階段から見て右方向へ伸びている廊下の奥にターゲットが一人。

 窓がある分この辺りはわずかだが光がある。低光量増幅は十分に機能するし、夜目の利く者なら肉眼でも見えるかもしれない。


 その光の中を、ターゲット=武装した他律生体が歩いてくる。

 こちらを発見してはいない。それどころか隠れていることも恐らく気づいていないのだろう、辺りを警戒しながらも、ライフルを懐中電灯のように暗闇に向けながら一人で近づいてくる。


 本来ならこういう状況での単独行動は厳に慎まれるべきだろう。そして恐らく奴自身のCOSもそう判断しているのだろうが、いない者と組むこともできない。大方連絡の取れない味方と合流するために捜索を行っているのだろう。

 そのターゲットがこちらに近づいてくる。幸い俺の隠れている側=奴から見て左側の壁には窓がないため、割れた窓の向こうにいる俺を見つけることは無い。


 「……」

 ライフルを下ろす、変わって逆手でナイフを抜く。墨を塗った刃は月明かりにも光らない。

奴の銃口が壁の向こうからにゅっと生えてくる――まだ、あと一呼吸。

 そう判断したまさにその時、奴の左手添えハンドガードが見える。


 「ッ!!」

 それをめがけて飛び掛かる。

 咄嗟の事で反応が遅れた奴を左手で掴みつつ、同時に右手の刃を首へと差し込む。

 すぐに首を前に倒し、そのまま階段上まで持ってきてから、床にうつ伏せにしてナイフを抜く。血の噴水を浴びずに処理し、刃を相手の背中で軽く拭いてから後続の角田さんを呼んだ。


 「フォワードリーダーよりCP。製造ラインを制圧した」

 「了解したフォワードリーダー。現在残敵数は4。2階東側の部屋に集まっている」

 どうやらこれから向かう最後の部屋で仕上げらしい。

 合流した角田さんと目配せして合図。2階東側の部屋はすぐ近くだ。

念のためデバイスに目を落とす。頭の中の地形と寸分違わぬそれは、東側と南側に扉が設けられていて、西には窓が一つ。


 「こちらフォワード1、2階東側の部屋に向かっている。フォワード3と協働し東と南の扉から突入するオーバー」

 「CP了解。フォワード2、予定通り製造棟の屋根から突入を支援せよオーバー」

 「フォワード2了解。狙撃準備出来次第連絡しますアウト」

 通信は再び沈黙する。

 そしてそれを合図に、俺と角田さんはそれぞれ廊下を反対に向かって進みだした。

 部屋への突入は先程の無線通り二つの扉から同時に行う。そしてその際、クロに一人減らしてもらう。


 静かな、今まさに戦闘中とは思えない程に静かな闇の中を、俺は進んでいく。

 敵は全て最後の部屋に籠っている。その部屋の前で、俺は足音を過去最高に忍ばせて、廊下と部屋との間に設けられた窓の下を這って動いた。


 「フォワード1、扉前に到着した。フォワード2の狙撃と同時に突入する」

 「フォワード2、狙撃位置に到着。いつでも撃てます」

 焦らない、焦らない。ただし急ぐ。

 窓の終わり、扉の前で立ち上がりポーチからブリーチング用爆薬を取り出す。タイル型のこれの裏側――ご丁寧に「こちらを貼り付けろ」と指示付きの面のカバーを外して扉へ。

 空気に触れることで瞬時に強力な粘性を持つジェルが塗られたそれが、音もたてずにぼろい扉に密着する。


 次に暗視装置を低光量増幅に戻して窓から室内を覗く。情報通り中には4人。

 一人はこの扉のすぐ向こう。ただしこちらに気づいた様子はない。

 もう一人はその奥、恐らく何かの作業をしているのだろう、立ったまま腰を曲げて机に向かっている。

 窓の前にもう一人。恐らく合図をすればクロがこいつの頭を吹き飛ばす。

 そしてもう一つの扉の前に最後の一人。


 「……フォワード3、用意よし」

 「フォワードリーダーよりオールフォワード、了解した。突入せよ」

 ばたりという音。そして同時に聞こえるクロの声。

 「タンゴダウン」

 それが突入の合図。

 「ッ!!」

 ドアを吹き飛ばし、それと同時に中へ。

 狙撃された味方の方を反射的に見ていた目の前の相手は、そこで初めて自分のすぐ後ろにも敵がいたことに気づいたようだ。

 振り返って銃を向けようとする――だが遅い。

 引き金を引く。こちらに向けられようとしていた銃口が途中で大きく軌道を変えて天井を向き、その持ち主は破壊されたドアの残骸と玉突きする様に向こうへ吹き飛ぶ――残りは2人。


 「!?」

 そして残った内の一人=机の上に置かれた端末を操作していた個体は、2方向からの突入に気づくのが遅れたようだった。

 奴は最初片方にしか意識が行かず、端末の横に置いてあった銃を掴むと咄嗟にそちらに向けていた。


 問題は、その片方が俺で、突入時に始末した奴から視線を移した時には奴の銃口が俺のそれより速く動いていたことだ。


 だが、奴はすぐに気付いた。敵が俺だけではないという事に。

 「らああっ!!」

 もう一人の進入者がもう一人の仲間を殺したのに気づいたその一瞬、そのほんの一瞬の間にそっちのもう一人=角田さんは姿勢を下げ、一気に奴の懐に飛び込んでいる。

 「ごっ!!」

 その突進の勢いそのまま、首を掴まれた奴が音を吐き出し、そしてその音さえもかき消すように、後頭部からコンクリートの柱に叩きつける角田さん。

 そのまま止まらず背負い投げにして床に落とすと、ライフルの銃口を押し付けるようにして引き金を引いた。


(つづく)

今日はここまで

続きは明日に

なお、明日も午前1時に予約掲載を予定しております

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ