そこを見た者17
「CP!ヘリは!?」
「CPよりフルバック、次のLZはトンネルの横の丘頂上。ヘリは現在そちらに向かっています。無人機を避けるため迂回中」
「フルバック了解!移動する」
分隊長とキングさんの声を聞きながら、体は前に広がる車の墓場に飛び込んで、手近なワゴン車の残骸に身を隠す。
運転席側に移動してボンネットから顔を出すと、つい先ほど俺たちが出てきたトンネル方向よりばらばらとえんじ色のベレー帽が向かってくるのが見えた。
直後、ワゴン車の車体が金属音を立て、反射的に頭を引っ込める。一瞬敵の姿が視界から消え、代わりににわか雨のようなパラパラという音が辺りに響く。
「全員あの丘に向かう。何とかして切り抜けるぞ」
了解と答え、同時に銃身だけ車体から出してブラインドショット。釘付けにされないよう連中の足を止めておく。そしてその銃声に混じって、隣のセダンからクロの声。
「タンゴダウン」
うまい具合に制圧射撃として機能した――と自惚れてもいいだろうか。
もう一度バンパー越しに向こうを見る。連中は倒れた味方を避けて道の左右に広がりつつ更に応戦してくる。
――だが、奴らの周囲にこちらのような遮蔽物が存在しない。その上斜面になっている関係上、下にいるこちらからは連中の全身が見えている。
気休め程度に横に動き、膝をついて姿勢を低くしている相手に狙いをつけ、セミオートで一発ずつ修正していく。
三発目が立膝を崩して奴を横に寝かせ、それを確認してすぐ銃身を横に振る。
「タンゴダウン」
連続する自分以外の三つの銃声に混じる俺の声。
今の奴と同様の戦法でこちらを狙っていたもう一人を同様に転がしてやると、ほぼ同時に分隊長の声。
「全員前進!」
そしてそれに被せる視覚と聴覚。
視覚:前方の敵の射撃が一斉に止む。全員の移動やマグチェンジが同時に起こった故の一瞬の凪。
聴覚:攻撃の手が止んだ前方と交代する様に背後から聞こえてきた銃声。
「くっ!!」
車だったのものの間を縫いながら、先程まで前方の攻撃に対して使っていた楯の前に入り込んで背後をカバーする。
それまで前方から聞こえてきた金属音が、今度は背後で響いた。
大方ヘリが吹き飛ばしたエントランスか、俺たちがいた病室だった場所から入り込んで追ってきたのだろう。
そしてその音が聞こえる=背後を晒していたこちらに気づいたという事は、開けっ放しにしていた裏口のすぐ後ろにまでその追跡者が来ているという事になる。
その事実には、前進を指示した分隊長が真っ先に反応して連中と同じ銃声によって返事をしていた。
「カク!クロ!前の奴らにスモークを!!」
叫びながら裏口に向かってグレネードランチャーを撃ち込んでおく分隊長。
当然ながらその視線は後方の敵に――そしてそれから自身が身を挺して守っているランゲル氏に向けられるが、そのままどうやって見ているのか、俺たちの目の前に広がった煙幕を確認して指示が飛ぶ。
「トーマ!先頭に立って横の丘へ駆けあがれ!連中が追ってきた場合は追い返せ!!カクは制圧を続けろ!!」
「「了解」」
二つの声。そして途切れない銃声。
その銃声の下をくぐるようにして俺は走り出す。
可能な限り頭を下げたままで煙幕の壁に突進。すぐに壁に沿うようにして左に急旋回。
先程見つけた分岐で左=丘への道を選択。緩い上り坂を駆け上がりながら中腹辺りで適当な倒木の後ろに飛び込んで後ろを振り向くと、すぐ後ろにいたクロが俺の横に避けて近くに転がっている岩の後ろに入り込み、ちょうど分隊長がランゲル氏を連れて角田さんの横を通り過ぎるのが見えた。
制圧射撃はまだ続いている。敵の追跡はまだない。
だが状況は常に変わっている。分隊長が角田さんの肩に手を置いてからこちらに走り出すと、厄介なことに風が煙幕を散らし始めた。
「まずいな……」
倒木から身を晒して下を見るが、丁度自分の左下にあるだろう連中の姿は、そちら側を覆っている低木に邪魔されてここからでは見ることが出来ない。
そしてその見ることが出来ない辺りから、煙幕が晴れて相打ちを警戒する必要がなくなった連中の反撃が開始されていた。
となれば、孤立するのは殿を勤めた角田さんだ。
そしてそれは彼自身も、そして彼を殿に任命した分隊長も気づいていた。
ランゲル氏だけが坂を駆けあがってくる。
「こっちへ!」
合図しながら俺は倒木を越えて彼を迎え、支えながらLZ=丘の頂上へ連れていく。
背後で爆発音。分隊長のランチャーが前進を始めた正面の敵を横合いから殴りつけていた。
そしてその後ろから角田さん。彼を追うように建物の中からパラパラと敵の追手が飛び出してくる。
俺は周囲のクリアリングを行い、それから適当なレンガ塀の後ろにランゲル氏を連れて行った。
「お怪我は?」
「だ、大丈夫です……」
「ここに隠れていてください。すぐにヘリが来ます」
彼の外傷のないことを目視でも確認してそう告げ、踵を返して二人を迎えに行く。背後では複数の銃声が鳴り続けていた。
「!!」
そしてその銃声にも隠れずに響く重々しいローター音。
ヘリが間に合った――間に合ったは間に合った。ただし敵側に。
「クソッ!増援か!!」
空襲によって崩れかけた病院の向こう、タンデムローターの輸送ヘリが一機、病院よりもやや高い高度でホバリング。
そこから一本のロープが、天から伸びる蜘蛛の糸のように地上に垂れ下がり、それに沿って次々と兵士たちが降下して病院の影に消えていく。
恐らく機内に積めるだけ積んでいたのだろう。降下は俺が坂を登りながら後方の相手に応戦している三人に合流してもまだそこにヘリがいた。憎らしいが、対空火器の類が存在しない以上、こちらからどうこうすることは出来ない。
「CPよりオールフルバック、間もなくヘリが到着します。全員のデバイスのビーコンをこちらで起動しています」
インカムに声。操作する時間はなさそうだから好都合だ。
「全員頂上まで上がれ。ヘリが来るまで粘るぞ」
追いすがる敵の最後の一人を始末した分隊長がそう叫び、それに従って俺たちは再び坂を登り始める。
丘の頂上にはさっきランゲル氏を隠したレンガ塀のようなかつての建物の残骸が点在していて、短時間防衛線を張ることは可能だ。
――と言っても、頂上まで来てしまえばもう後がない。
俺たち全員でヘリの到着を待てるような場所とは言え、丘の頂上自体は決して広い場所ではなく、ランゲル氏を隠しているようなレンガ塀が最後の砦となっている。
そしてLZに選定されていることからも、その頼れそうな遮蔽物があるのは頂上の外周部分だけで、中央はただの空き地だ。
その後がない場所でヘリの到着まで耐えなければならない理由は、分隊長の指示の後すぐに現れた。
「incoming!」
角田さんの声。
続くクロの銃声。
突入してきた第二波の先頭が倒れ、しかしそれをカバーしつつこちらに撃ち返してくる。
それまでと異なる、パシン、パシン、とでも表せるような独特の銃声は、それまでの7.62mm×51弾ではない。
「クソッ!!厄介なのが!」
毒づいた分隊長の声。
その間にも、一番距離の離れているであろう俺のすぐ横を乾いた音が通り過ぎていく。
「ちぃっ!!」
反射的に撃ち返すが、倒木や岩を巧みに盾にとって、高低差は逆なものの水が流れるような滑らかさでこちらとの距離を縮めてくる。
その装備も、独特の音をたてて飛んでくる6.5mm×50弾も、そして素人に毛が生えた程度の練度しかないAIF兵とは異なる動きも、それら全てが目の前の相手が公社、即ち先進技術振興公社のJ1614型であると物語っていた。
(つづく)
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