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そこを見た者15

 「……AIFがドラッグの密売を資金源としていることは?」

 「ええ。聞いたことがあります」

 分隊長と同様、俺もその話は知っていた。

 AIFは北アフリカ連邦からの独立を訴える武装組織だが、当然その運営には莫大な資金が必要となる。


 「連中の扱う商品は、主にジンバラ共和国から持ち込まれます。あっちでは主要輸出品目といっても過言ではありませんから」

 その話もまた同様だった。

 これについては俺たちの世界でもよくある話だと聞いたことがある。


 「AIFの連中は国境警備隊を買収していて、ドラッグを大量に仕入れています。そうしたドラッグを国内で輸送するために、連中は人間の死体に目を付けました。死体の消化器官に薬を詰め込み、それを息のかかった葬儀社が運んでいきます。勿論、必要な諸々の届け出は買収した役人にやらせて」

 後は簡単だ。葬儀社に着いたら、ばらして中身を取り出すのだ。

 大量に、簡単に輸送して売りさばくこの方法なら、買収しただけの金などすぐに回収できるだろう。


 「……こうしたAIFの“バッグ工場”は、掃討作戦によって連中の支配領域が縮小されるに従ってなくなったと言われていました。ですが……、どこかで臨時のバッグ工場を運営しているとも、国境付近に最近新しく造られたことでその臨時の場所も必要なくなったとも、この辺りの住民の間ではまことしやかに語られていました。そしてバッグの材料として連中が誘拐や殺人をやっているという事も……」

 バッグ工場――最悪の比喩。しかしそうとしか表現のしようのない、最悪の実態。

 この話が本当ならば、仮にマキナがなかったとして引き金を引く指は随分軽くなっただろう。


 連中のスローガン=自由を我らに――連中が自由にやった結果がそれだ。


 「それだけではありません。私は……私は派遣された先の村で知ってしまった……。連中の幹部が話しているのを聞いてしまった……。バッグにするためにさらった人間から臓器を抜いて売りさばいている事も、武装組織やマフィアが構成員に殺人経験を積ませるために、連中に金を払って要員を送り込んでいることも……」

 「狂っている……」

 それが誰の口から出たのか、判断がつくまで一瞬時間を要した――あまりに自分の考え通りで己の喉から出たのではないかと考えたことで。

 だが、実際にはクロの声だったことを聴覚が脳に伝え、そして俺は小さく頷いていた。


 「私がその話を聞いてしまった事を、連中はすぐに察しました。それまで協力してくれていた村人を抱き込んで私の居場所を突き止めようとしていました。私はそれで恐ろしくなって、信頼できる現地スタッフに頼んであのモーテルまで連れてきてもらったのです」

 それが今回の依頼の真相だった。

 東人連の陰謀やらなんやらがその裏にあるのかは分からない。だが一つだけ言えることがあるとすれば、この人は見てしまったのだ。この世のどん底のような世界を。


 「そういう事でしたか……」

 「ええ。あの、どうかこのことはご内密に……」

 「ご安心ください。我々には守秘義務がございますので」

 正確に言えばマキナの機密保持機能だが、最終的には人間の良心に頼るしかない守秘義務よりもよほど信頼できるだろう。


 「お話ありがとうございました。我々が必ず安全な場所までお送りします」

 分隊長のその一言で、彼は幾分か安心したようだった。

 もしかしたら、それまで一人で抱えていた秘密を打ち明けたことで少し気持ちが楽になったのかもしれなかった。


 「CPよりフルバック」

 その安心を帳消しにするような内容――そう直感する声の感じ。

 「現在飛行場近くの空域に無人ヘリが接近。ヘリの離陸が遅れています」

 予感的中。角田さんが小さく溜息をつく。

 「連邦空軍に何とか言えないですか」

 普通に考えればそれが一番手っ取り早いだろう。というか、無許可で武装ヘリを飛ばすなど普通なら大問題になる。


 だが、ここではその普通は通用しない。

 「残念ながら、あのヘリは表向き準州政府の所属という事になっています。準州の領空から出るか議会の承認がない限り、国軍を投入することはできません」

 テロリストの傀儡政府相手であっても、法治国家である以上軍隊を動かすのには法律に則った手順を踏まねばならない――なんとなく納得がいかないが理屈としてはまあ理解できないものでもない。

 当然、ロケット弾を撃ち込まれた側からすればそれでは済まないのだが。


 だが、そこで憤っていても仕方がない。

 「待ってください……。ッ!!オールフルバック!LZに西から所属不明の車両が1台接近しています。車種は4WD。警戒してくださいオーバー」

 その無線とほぼ同時に、窓の向こうに四駆が一台現れたのだから。


 反射的に窓の桟の下に隠れる。

 「フルバック了解。今こちらでも目視した。LZで停車。武装等は確認できない。……いや、あれは……」

 武装は確かにしていない。だが、問題がないという訳でもなかった。

 降りてきたのは4人。一人はスーツ姿の男。

 そして彼の周りを固めている3人は全員揃いのオリーブドラブのコンバットシャツとズボン。コヨーテブラウンのIMTVと脛のプロテクター。それに目を覆う横長方形型バイザー付きACH。そして手にはブルパップ式のアサルトライフル。


 J1614型=紛れもなく公社の他律生体。


 「どういう事だ……?」

 スーツの男の護衛なのは間違いない。

 問題は2つ。公社は個人向け護衛サービスをやっていない。そしてJ1614型は公社の独自開発で他に採用例がない。

 つまり、スーツの男は何かしら公社から護衛を受ける立場の人間であるという事。

 そしてこの状況において、その人物が友軍である可能性は非常に低いという事。


 「おいおい、あれ公社の……」

 「CP、まずいことになっている。何故かは分からないがLZに停まった車から公社の他律生体に護送された人物が一名車から降りてきている。公社はどことの契約でここにいるか分からないか?」

 角田さんと分隊長がそれぞれの対応=窓の向こうに銃口を向け、相手の出自をCPに確認。

 返事は「確認します」のみ、答えはそれから数秒後。

 「フルバック。どうやら準州政府が限定的PGとして公社及び東人連と契約しているようです。詳細は不明ですが、準州政府の独断による受け入れだった模様です」


 「こちらフルバックリーダー。確か……それは連邦法違反では?」

 俺のマキナにもその疑惑は浮かんできていた。

 いくら地方政府にある程度の自治権が認められているとはいえ、勝手にPG契約を結ぶ=事実上他国の領地となることは承認されないはずだ。

 市内にいたスタリオン社すらも、仮にその実態が東人連の出先機関だとしても、表向きは準州政府の治安維持業務の代行というお題目が必要なのだ。


 「それが……、現時点では明確にPG契約を禁止する法律が存在しないため、中央政府としてはすぐに処罰することは出来ないとのことです。来月の改正法の施行前に滑り込みで介入したものと思われます」

 「滅茶苦茶だ……」

 思わず口をついた言葉は、俺の口の中だけで処理されたようだった。

 一体AIFの連中は何を考えているのだろう。独立など口にしながら、やっていることは自らに首輪をつけて奴隷市場に並ぶような真似だ。


 それからもう一度公社の他律生体に守られた男を見る。生憎車の方に向いていてこちらにはスーツの背中しか見えないが、恐らくは東洋系だ。

 こちらに気づいた様子はなく、どこかと電話している。癖なのか、乗ってきた車のルーフとサイドウィンドウの境目辺りに肘を乗せて寄りかかるような姿勢を取っている。

 と、その姿を見ていた視界に別の移動物が入り込んでくる。


 「!!」

 先頭に装輪装甲車。その後ろにSUVが1台にトラックが3台。前2台は幌付きで、最後尾のみ先程クロが沼地に叩き落したのと同じタイプのもの――積み荷も含めて。

 「AIFの連中が来たな……」

 「ついてないですね」

 そのクロがため息のように応じる。

 車列の先頭にいた装輪装甲車が停まる。接近してきたその車列に反応しかけた護衛兵を制止したスーツの男の前に、装甲車からAIFの兵士たちが降りてくると、他律生体は再び通常配置に戻っていた。

 スーツの男が車列の方に歩き出す。手を広げ、歩幅も広げ、左右に一体ずつ他律生体が同行する。

 彼の行く先にいたのは、二台目のSUVから降りてきて、装甲車の乗員たちに囲まれたAIFの男だ。


 「隊長、あれって……!」

 その顔を最初に見分けたのは角田さんだった。

 彼の代名詞が何を指すのかに気づいた分隊長と、彼の横でその声の様子に今スーツの男と親し気に握手を交わしている男がただのAIF兵ではないと気づいた俺。そして分隊長の指示があればすぐにその男の頭を血飛沫に変える用意をしていたクロ。


 八つの視線が見ているのは先程市場の入り口で見たプロパガンダ広告の男=AIFの実質的指導者クレセロ・アジャーニその人だった。


(つづく)

今日はここまで

続きは明日に


明日は午前1時に予約掲載いたします

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