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そこを見た者11

 その危ない集団がどかどかとこちらに向かってくる。

 ――まずは紳士的に。


 「何か御用でしょうか?」

 確実に聞こえてはいるだろう。この辺りの公用語はアラビア語で、準公用語としてフランス語がある。そしてマキナの自動同時翻訳機能はどちらの言語も対応している。

 だが、彼らの公用語での――それも丁寧な言い方でも――反応は返ってこない。


 「何か御用でしょうか?」

 今度はフランス語。自分の感覚では同じように発しているのだが、口から紡がれるのは生身の自分が知らない言語というのは、なんとも妙な気がする――もう慣れてはきたが。


 だが、それでも返事は返ってこない。

 代わりに出てきたのは、ドアの前から俺を押しのけようとする先頭の奴の手。

 それを払い、反対に相手のボディーアーマーを押し返す。


 止まる八つの足音。睨みつける八つの眼。

 だが、それでビビッていては仕事にならない――そしてマキナは銃を持った相手の威圧すら受け流すように精神をコントロールする。


 「アポはお取りですか?許可のない方はここを通さないようご依頼を受けておりますので」

 兵士たちの目が一瞬互いを見合わせる。

 それから先頭のがもう一度俺を押しのけようとするが、同じようにその手を払いのける。

 「……治安当局の者だ」

 ひどく面倒そうな声が払った手の主から投げかけられ、それでもう十分だとばかりに一歩進む。


 「治安当局の方がどういった御用ですか?」

 もう一度おさがり頂く。

 お相手から頂戴するあからさまな溜息と舌打ち。


 「治安維持の点から詳細は言えないが、この部屋の客は複数の不法行為に加担している容疑がかけられている。よってこちらで身柄を預かる」

 騙す気を感じられない嘘丸出しの言葉。

 その背後で一人が無線――面倒な奴がいる。指示を乞う。

 だが通さないのが俺の仕事だ。連中側にたってみればもっと面倒を追加してやる。


 「令状はお持ちですか?」

 「なに?」

 「現行犯を除く逮捕又は拘留には権限を有する裁判官の発行した令状が必要である、と連邦基本法に定められていますが、令状をお見せいただけますか?」

 後ろの奴に動き。何かを無線で指示され、それを先頭の奴に耳打ち。

 「令状ねぇ……」

 それを受けた先頭の奴の口元が僅かに歪んだのが分かる。


 指が、スリングでショルダーバッグのように吊るしたライフルへ滑っていく。

 「ッ!!」

 一瞬の出来事――奴の手がライフルを掴んでこちらに向ける。

 その指は確かにトリガーにかかっていて、その銃口は確実に俺に向けられようとしていた。


 「ちっ!」

 だがそこまで見えていた。

 左手で持ち上げられる銃身を抑えて左入り身になり、同時に右手はホルスターから己の得物を抜いている。

 一瞬の密着。そしてインタビュアーのマイクのように突き付けた拳銃の引き金を引いた。


 「あっ!!」

 後ろの奴が叫んだ瞬間には、9mm×19のフルメタルジャケット弾が今しがた撃ち込んだ奴の後頭部を抜けている。

 「ッ!!」

 一瞬だけ耳が聾する。

 マキナによってイヤマフが要らない程に保護されているとはいえ、顔の近くで発砲すれば当然何も感じないわけではない。

 そしてその間にも撃ち抜いたそいつが崩れ落ちるよりも速く、俺の背後で続けざまに二発の銃声。声を上げた奴の首から上が吹き飛ぶ。


 そしてその時には、ようやく崩れ始めた先頭の奴を盾にしてすぐ隣にいたもう一人に鉛玉をくれている。

 瞬く間に三人を排除。一番後ろ、肩に担いでいた得物を慌ててこちらに向けようとしている若いの――恐らくまだ二十歳前に一気に躍りかかる。


 「ひっ!!」

 とてもライフルを向けているとは思えない情けない悲鳴をあげる。

 左半身のまま突進し、前にした腕で銃口を体から逸らしながら懐に飛び込むと、ハンドガンのグリップエンドで浅黒い顔面を殴りつける。

 「ごぐっ!!?」

 おかしな音、おかしな声、おかしな感触。

 まともに殴られ、鼻が折れ、ライフルを取り落す。


 殴りつけた動きのまま足をかけて押し倒すと悶絶しているそいつの顔にダメ押しの一発を撃ちこんだ。


 「よし、よくやった。移動します」

 前半は俺に、後半はランゲル氏に言って分隊長が動き出す。

 俺は咄嗟に足元に転がっていたライフルを拾い上げると、故障がないことと弾が装填されていることを確かめてから、階段=進行方向の逆に構えて、そのまま後ずさりで二人の後を追う。


 そのまま一歩、二歩、そして三歩目と同時に引き金を引いた。

 「わっ!!」

 階段から飛び出してきたAIF兵が銃声とはじけ飛んだ壁紙にたたらを踏んで引っ込む。

 そのままセミオートで制圧射撃を続け、四発目を追うようにフラググレネードを投げ込んでおく。

 ゴトッ、と鈍い音を立ててバウンドしたグレネードが階段の前で炸裂し、銃だけ出してブラインドショットを試みた増援をその銃ごと吹き飛ばしていく。


 「フルバック1今どこだ!襲撃を受けて――くそっ!!」

 すぐ後ろとインカムの声がタイムラグなく両耳に響く。

 振り向いた瞬間の映像=廊下の一番奥にあった非常階段のドアが外から一気に開けられ、飛び込んできた敵を分隊長が躱した。

 そしてそう認識した瞬間、その敵を蹴り飛ばして扉の外に追い返すと、踊り場の手すりにもたれる形となった相手に至近距離から拳銃を発砲していた。


 2mも離れていない状態での射撃。マキナの前では外すほうが難しい。


 そしてその直後にやかましいエンジン音と恐怖と驚きが混ぜ合わさった悲鳴。そして鈍く重い何かが衝突する音が一気に続いた。

 「フルバック1。ただいま到着した」

 その一瞬の大音響にインカムの中の声が追加される。

 「よし!すぐに行く!」

 それに答える分隊長の声が更に追加。


 彼とランゲル氏に続いて非常口に出ると、踊り場で崩れ落ちて動かなくなっているAIF兵を跨いで錆びついた階段を下りていく。

 下には往路に使ったワゴン車が――しっかりとドリフト痕を残して――後部ハッチを開いたまま停車していた。

 そのすぐ横に無人のテクニカルが1台。モーテルの壁にもたれるようにして倒れているAIF兵がもう一人。そしてワゴンのバンパーにへこみ。

 先程聞こえた音と声がその映像に合致する。ジグソーパズルの最後の1ピースのように明確な形で音にあった再現VTRが脳内で上映されている。


 「さ、乗ってください」

 後部ハッチの横、こちらに――というかその更に背後に床下から取り出した自身の銃を向けているクロを通り抜けて分隊長がランゲル氏を車内へ。


 後は俺たちが撤収すればそれでよし――クロと同様に後方を警戒していたまさにその時、人影が動いたのが視界の隅に映った。

 反射的にそちらに銃を向ける。

 錆びだらけの非常階段の向こう。あちらも気づいたのだろうが、自分の目の前のグレーチング状のステップと銃弾が耳障りな音を立ててもものともせずに飛び出して突っこんでくる。

 その手にはマチェーテが光り、その光の刃を振りかざして叫び声を上げながら俺に突進してくる。


 「ッ!?」

 距離は3mもない。

 対する俺の手の中にあるのは奴の同僚から奪ったライフル――それも二発目の引き金を引いた瞬間異様な音と手応えと共にジャムを起こした。


 咄嗟の判断:ハンドガンに切り替えるか否か。

 結論:クイックドロウで仕留めたところで相打ちが精々。


 「くっ!!」

 ジャムったままのFALのグリップから右手を放し、ストックの付け根に移行しつつ構えを変化。

 奴の斬撃を銃身で受け止める、まさにその一瞬前、その恐れ知らずが建物の方に頭から吹き飛ばされた。

 俺とほぼ同時に奴に気づいたクロがジャムを起こした瞬間には引き金を引いていた。

 着弾までのほんの一瞬、それが俺には妙にスローモーションに思えていた。


 「ありがとう。助かった」

 そう言って役に立たなくなったコピー品を放る。

 パッと見た限り銃本体に異常はない。だがどれほどケチったのか、超低品質の薬莢が装薬に耐え切れず破裂していた。


 「全員乗った。カク、出してくれ」

 「了解!」

 俺とクロが乗り込んだ瞬間車が動き出す。

 表の駐車場から回り込んだのだろう兵士が数名こちらを指さして何やら叫んでいるが後の祭り。

 ――いや、まだだ。


 「しつこいな!」

 バックミラーでそれを確認していたのだろう角田さんの声。

 そのしつこい相手を肉眼で捉えているのは彼以外の全員だった。

 「伏せて!」

 分隊長がランゲル氏の横で彼の頭を押さえる。

 直後、後部ハッチに何度か鈍い音が響き、いくつか新たに生まれた穴の向こうに高速で後ろに流れる地面が見えた。


(つづく)

今日はここまで

続きは明日に

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