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そこを見た者8

 そして翌朝。

 起きだしてすぐ身支度兼撤収準備を整えた俺たちは二階事務所へと集結していた。

 そのいで立ちはいつものプレートキャリアと銃火器一式ではなく、それぞれの私服にリュックサック一つだけという簡素さだ。


 「では、改めてミッションの内容を確認します」

 その集団の例外=スーツ姿のキングさんが壁の一面に表示されたマップをテレビの天気予報のように指示しながら話始める。

 「護送対象のアクセリ・ランゲル氏は現在市街北部郊外のモーテル『ハリール』の206号室に潜伏しています。表示されたルートで車を使い移動。ランゲル氏を回収し、国道を西に進み、リヴィエルブロンまで護送すること。以上が今回のミッションです」

 このセーフハウスから伸びていく赤い線。

 サン・ジョルダン大橋を中心に放射状――と呼ぶには少し歪な――に発展したのだろう市街地を抜けて橋を渡り、町の北側郊外まで出てからわき道に入って件のモーテルへ。それから郊外を走る国道に入れば、後は道なりに一直線だ。

 途中にあるトンネルを抜ければ、すぐに目的の飛行場が見えてくるだろう。

 ――だが、勿論そんな簡単な話なら俺たちが4人で武装して迎えに行く必要などない。


 「現在市内はAIF兵士とスタリオン社の派遣した他律生体による警備体制が敷かれており、不定期ですが主要道路に検問が設置されることもあります。検問と言ってもその内容は身分証の確認と面通しだけのようですが……。そこで今回は昨夜お配りした身分を使用して移動。このため、携行する装備品は最小限度に制限されます」

 まあ、既にご準備はお済だと思いますが。そう付け加えて俺たちを一瞥するキングさん。

 流石に電気工事業者に化けているのにプレートキャリアだのアサルトライフルだのを持ち歩く訳にはいかない。


 「さて、問題はこの検問です」

 俺たちの装備の確認と、同時に自分の方に注目させるのを兼ねての見回しを終えてキングさんが再開する。

 「依頼人、そして護送対象の過去に何があったのか分かりませんが、現在市内に展開している協力者によれば、捜索しているのは護送対象だということです」

 そう。これは護送任務。

 何もなければ俺たちを呼んだりしない。


 「で、結局何をやらかしたんです?」

 尋ねたのは角田さんだったが、全員が思ったことでもあった。少なくとも、俺はそうだった。

 「本社によれば、どうもAIFの何らかの取引を目撃したため、口封じのために追われているとのことです。それ以上は何も」

 その言葉が頭の中に昨日の推測と反論をセットで復活させる。

 東人連やらなんやらが絡んだ政治的陰謀VS臓器ビジネスに手を染めている武装勢力の取引など、外部の人間に聞かれたらまずい話はいくらでもある。


 とにかく、連中がそのランゲル氏を探しているという事だけが今は重要だ。

 その認識もまた、全員の表情を見る限り共通だったようだ。


 そしてそれを読み取ったキングさんが更に昨夜の復習を続ける。

 「昨夜の取り決め通りモーテルへの進入と護送対象への接触は金沢さんと桂さん、モーテル手前での監視に黒河さん。車を回すのは角田さん。で、よろしいですね?」

 全員昨日決められた己の持ち場を再確認する。全員異議なし。

 モーテルに向かう途中の道、十字路――というより実態に即していえば四叉路――から少し進んだ道路沿いに設置された、その周囲に数軒ある民家で使用していると思われる給水塔の上でクロがモーテルへの接近者を監視し、俺と隊長でランゲル氏を連れてモーテルを出る。


 それら全員を角田さんが車で拾い、後は飛行場まで一直線だ。


 「では作戦を開始します。本作戦中の皆さんのコールサインはフルバック。作戦中はこの建物および指揮車から情報支援を行います。全員、無線とデバイスは随時使用できるようにしてください。なお指揮車コールサインはCPを使用。ああ、それと一番大事な点ですが――」

 一拍置いて、彼女はそれまで同様冷静な口調で続けた。

 「今回作戦にかかった経費は全て依頼者負担となります。必要な場合はあらゆる手段を使用してください」

 「それが聞きたかった」

 おどけた分隊長の言葉に全員が笑いながら頷いた。

 確かに俺たちにとっては一番大事だ。


 それが終わるといよいよ出発。俺たちは偽装ワゴンへ。キングさんは後部座席に通信設備を搭載させた昨日の車へ。彼女も移動しつつ作戦を実行する――とは必ずしも限らず、基本はこの建物内で作戦を展開する。

 車に積み込んでいるのは、あくまでここをすぐに離れなければならないような緊急事態が発生した場合のためだ。

 その彼女を残し、俺たちのワゴンは朝の町に向かって進んでいく。

 時刻はまだ6時30分少し前。既に日は昇っているが、まだ早朝の静かさが辺りを包んでいた――町の中心部に入るまでは。


 「随分人通りがあるんですね」

 運転席と助手席の間から前を見ていたクロが驚いたようにも感心したようにも聞こえる声で呟く。

 「意外と、この辺りの連中の朝は早いようだね。それにほら――」

 分隊長がそれに答えながら右側を指さす。

 クロと一緒にその先を見ると、町を南北に貫くこの大通りよりも人通りの多い道が、その存在を主張する様に交差点に人を吐き出し、また飲み込んでいた。

 「あそこで朝市をやっているみたいだね」

 「この辺りじゃあ、朝食は外で買って食べるのが一般的みたいですからね」

 ハンドルを握る角田さんもちらりとそちらを見たのがバックミラー越しに見える。

 まるで観光気分。そんなほんの一瞬の雰囲気を、窓の向こうの異国の風景は一瞬で変えていく――すれ違ったAIF満載のトラックで。


 「朝もはよからご苦労なことで」

 角田さんがすれすれを通り過ぎたそれに感情もなく呟いた。

 そのトラックの向こう、更に近づいた朝市の入り口にはゲートが設置されていて、丸ごと市場として機能しているその道路の幅いっぱいに広がっているそのゲートの市中には、円柱型のそれに合わせて巻き付くように設置された大型LEDディスプレイが男の顔を映し出していた。


 太い鼻筋と角ばった輪郭。少し癖のある髪の毛と同色の黒く短いひげが顎と口元に茂っており、その頭の上に被ったえんじ色のベレー帽にはAIFのエンブレムが光っている。

 そのいかつく、意志の強そうな男の下にはAIFのスローガン「自由を我らに」が大書されていた。


 クレセロ・アジャーニ。AIFの幹部にして事実上の最高指導者。

 前政権から続く掃討作戦で勢力を大幅に縮小したAIFにおいて、未だに戦略的な点のみならず精神的支柱となっている男だ。

 彼がいなければAIFは瓦解しているとさえ言われたその賊軍の英雄を起用したプロパガンダ広告は、町の至る所に存在するそうだ――別に探し出す気にはならないが。


 その広告の奥=多くの露店が軒を連ね、その何倍もの客でごった返している朝市にチラホラと、デザート迷彩の野戦服の上からサンドイエローのボディーアーマーを着込み、バラグラバとACHのようなヘルメットで顔を隠した兵士たちが、M16のショーティモデルを携えて睨みを利かせている。


 これがAIFの採用した他律生体K1518HRだった。

 ボディーアーマーの背中には彼らの派遣元を示す「GOLD STARION」の文字。


 それから目をゲートに戻す。御大層なプロパガンダ広告の上、ゲートの横にある建物は即席の監視塔になっているらしく、2階のベランダには軽機関銃が据え付けられ、こちらは直下のプロパガンダ広告とお揃いのベレー帽をかぶったAIFの兵士が大通りを銃口と共に監視している。

 自由を我らに――連中の唱えるプロパガンダの正体を、その銃口が物語っていた。


 「……」

 その市場に向かうのだろう“積み荷”も含めて先程と同じようなトラックと再度すれ違う。

 その向こうに見えてきたのは進行方向に並んだ車列。先頭は町の中心である橋のたもとに停車したトラックと、その前に積まれた土嚢。そしてその周りにたむろするベレー帽の集団。

 その即席の検問所は、新たな車が通りかかる度に――まるで強盗のように――銃を弄びながら車を囲むのだった。


(つづく)

今日はここまで

続きは明日に

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