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そこを見た者6

 「現在サン・ジョルダン市内はAIFの支配下にあり、連中の兵士が警察業務を行っている。このため、堂々と武装してうろつくことはできない。空港に着いたら、装備品を一度トラックに積んで現地セーフハウスに送り、俺たちは先行しているうちのコントラクターと合流してセーフハウスに向かう」


 表示されるもう一つの光点。場所はランゲルのいるモーテルとは川を挟んで反対側の郊外だ。

 空港からのルートも表示されているが、町の北側にあるセーフハウスからは、町の中心にかかっている町の名を冠した橋を渡らなければならない。


 「当然ながら、護送対象を迎えに行く時もそれは同様だ。全員に“あれ”を用意してもらったのもそのためだ」

 あれ=今は他の荷物と一緒に纏められている新装備を顎でしゃくって示す。

 ユーラシア戦争の影響で様々な武器の価格破壊が起きているために不安になる程の格安で手に入ったそれは、本来ならば法執行機関などで採用されるような代物らしい。


 それから間もなく、輸送機は緩やかに高度を下げ、海岸線に対し防波堤のように並走する滑走路が眼下に現れ始めた。

 トリポリ臨海空港。その名が示す通り海に臨む――と言うより沖合の埋め立て地を丸ごと空港にしたそこと繋がっているトリポリ市は、まるでSFのような高層ビルが立ち並んでいる。

 さらに高度が下がる。空港に駐機している、或いはまさに飛び立とうとしている大小の飛行機もまた、俺たちの世界ではSFの世界にしか出てこないような産物だった。

 そんな未来世界の端っこに俺たちは降り立つ。アメリカの時と同様、無人のカーゴがお出迎え。

 そしてこれまた同様に簡単にゲートを越えた。国内線だからというのもあるだろうが、どうやらオプティマル・エンフォーサーの社員証は十分に身分証としての効果を発揮するようだ。


 そしてこれもまた同様に、そのゲートの外には迎えが待っていてくれた。

 「お待ちしておりました」

 そしてこれは全く予想外だったのだが、そう言って俺たちを待っていてくれたのは、俺も知っている人物だった。

 「えっ……」

 思わず他のメンバーを見回す。

 ベテラン二人=特に驚いた様子はない。

 クロ=誰だか知らない。だが、眼があった俺の様子からして何も関係がない訳ではないという事だけは察している。


 そして当の本人に視線を戻すと、向こうもまた俺の事を覚えているようだった。

 「お久しぶりです。導入訓練以来……でしたか」

 そう言って小さく微笑んだ。

 そう。最後に会ったのは導入訓練=新兵訓練の時が最後。

 その時と同様のスーツ姿に眼鏡の女性=初めてこっちの世界に来た時に受付にいたあの人だった。


 「えっと、お久しぶりです……」

 対する俺の言葉は――なんとも間の抜けた声で――絞り出したそれだけ。

 他に何か言うべきこともあるのだろうが、未完成の言うべき言葉が大量に浮かび上がって、それら全てが喉で止まっている。

 そんな俺と恐らく面識のないのだろうクロの様子を察してか、彼女は改めて居住まいをただす。そのいで立ちと合わせて、ピッと伸びた背筋はバリバリのキャリアウーマンという印象を与える。


 「改めまして、今回作戦の補佐を担当します、本社業務部フランシス・キングと申します。お見知りおきを」

 「ど、どうも……。えっと、桂冬馬です」

 「黒河歩美です。よろしくお願いします」

 俺たち二人が――その“ちゃんとしている感”になんとなく気圧されながら――ぎこちなく挨拶を終えた横で、ベテラン二人はそれが面白いようだった。


 「お久しぶりです。ミス・キング」

 分隊長がそう言って挨拶すると、角田さんがそれに続く。

 そしてそれから、思い出したような口調で分隊長が漏らした。

 「あなたがいるという事は、今回の件はミスタ・ビショップ肝煎りという訳ですか」

 これまた懐かしい名前だった。

 ビショップさんとはあの面接以来会っていない。何度か仕事をこなすうち、あの人が俺たちの上司であり頂点であるという事を知らされたが、その人の肝煎りという事はただの護送任務では済まなくなるのかもしれない。

 ――先程の機内での分隊長の話が頭に蘇る。一体なぜ重役がこの任務を重視するのかは不明だが、もし可能性が低いと言った方の予想が当たっているとすれば、俺たちはひょっとすると面倒な話に首を突っ込みつつあるのかもしれない。


 「……そう思われるのも無理はないかもしれません」

 そう言って小さく肩を竦め、口角を僅かにあげて見せたキングさん。

 もしその予想が当たっているとすれば見せないだろう表情だ。

 「残念ながら、わが社も人手不足でして」

 異世界だろうが未来だろうが、いつの時代も同じ問題が付いて回るものらしい。


 「さて、車へご案内します。どうぞ」

 そこで話を切り上げるとくるりと踵を返して一定のペースで進んでいく彼女の後姿に、ふともう一度陰謀論めいた考えが頭の中に浮かび上がってきた。

 「いや……、そんなはずないだろ」

 誰にも聞こえないように己の荒唐無稽な妄想を否定する。

 僅かに漏れたその音は、搭乗手続きの時間を告げる放送によってかき消されていた。


 「こちらへ」

 空港の建物から出て直ぐのエスカレーターを下り、地下に設けられた駐車場へ。

 その途中で同業他社のコントラクターたちを複数見かける。

 それぞれ私服の上にプレートキャリアを纏い、アサルトライフルやサブマシンガンをぶら下げている。

 彼らに共通点があるとすれば、その腕に着けた「Security」の文字だろう。ご丁寧にアラビア語も併記されたそれは、彼らがこの空港の警備を任された会社の人間であることを表している。


 アブストラ・グループ。EFを拠点にするPNCだ。そのコントラクターには特殊部隊や空挺出身者といった精鋭を多く抱えていると言われ、先進技術振興公社の台頭以前は世界第二位の大手だった。


 彼らが目を光らせる空港内を抜けて地下駐車場へ。当然ながらそこにも彼らのコントラクターと警備メカが常駐している。

 自動ドアを越えた先には、既に準備していたのだろう一台のワゴン車が待機していた。

 「今から我々のセーフハウスにご案内します。明朝07:00時に向けて待機していただきます」

 俺たち全員が乗り込んだことを確認してから助手席に滑り込んだ彼女がそう手短に告げると、運転席の男性に合図する。

 彼への挨拶もそこそこにシートベルトを締めると音もなく動き出した車両は、すぐに緩やかな坂を登って海の上に出た。

 ――もしその時の光景を狙っていたのだとすれば、この空港の設計者は中々のロマンチストかもしれない。


 駐車場と高速道路を繋ぐ海底トンネルの出口は地中海の太陽に照らされた海の上に滑り出すようになっていて、キラキラと輝く世界の中を進んでいるような錯覚をさえ覚える。

 それでいてトンネルを出る瞬間に太陽光で目が眩むことがないのは、この時代の設計技術か、車のフロントガラスの性能か。


 そしてその光の海の向こう側、海岸線を立体化したように立ち並ぶ高層ビル群に向かって道が伸びていく。

 まるでSFの世界そのものな、様々な形状のビルが立ち並ぶオフィス街の中心を突っ切るように伸びた道が、ビル群の向こうに見えている――空港の発着に影響しないのかは分からないが、海上の道路の長さからすると恐らく大丈夫なのだろう。

 連邦首都チュニスに並ぶEFへの玄関口であるこの世界のトリポリ市は、同時に連邦の経済的中心地でもある。立ち並ぶビル群はEFへの戦中、戦後の貿易によって急成長を遂げたこの国の経済を表すかのように陽の光に輝いて高くそびえ立っている。


 しかし、その姿はそれほど長くは続かない。


 市街地に入った時に見えていた高速道路の先へと近づくにつれてビル群は少なく、低くなり、代わりに民家が増え、そしてそれも徐々に小さくなっていく。

 それに合わせて高架から地表に路面が降りる頃には、既に広大な農地の他には、工場がそれらの合間に点在する程度となっていた。


(つづく)

今日はここまで

続きは明日に

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