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そこを見た者5

 「依頼の内容を確認する」

 短い空の旅だが、その間も時間を無駄にせず分隊長が説明を始める。

 それに合わせて席に据え付けられたデバイスが自動で展開するのは、最早見慣れた光景だった。


 「依頼主はFNAで活動するNPO法人『アクアプラネット』内容は、同NPOのスタッフ一名をリヴィエルブロン飛行場までの護送だ」

 内容についてはいつものことながらメールでも大体の事は確認している。


 「護送対象は隣国ジンバラとの国境付近の村から、サン・ジョルダン市郊外のモーテルに移動し、潜伏している。我々は彼と合流後、車両で飛行場まで護送。無事に首都までのヘリに乗せる。大まかに言うとこんなところだ」

 デバイスに表示される周辺地域の地図。初仕事の時のそれより広範囲を示しているそれは下側=南側にジンバラ共和国との国境線がさざ波のように緩やかなカーブを描いて左右に伸び、そこに並行する様に一本の川が流れている。


 俺たちの世界で言えばリビアの南部だろうこの辺り、異なる歴史を歩んできたこの世界の地理が俺たちの世界のそれと同じかは分からないが、少なくとも日本にいる時にジンバラ共和国という名は聞いたことがない。

 その国境付近に点が一つ灯り、そこから線が川沿いに西に進んでサン・ジョルダン市へ。その市内を流れる川に沿って西へ、町の郊外に出たところで線が止まり、その先端が光点に変わる。

 その映像から分隊長に視線を切り替える――彼の言葉に引きつけられるように。


 「――で、ここからが問題だが」

 部下たちの六つの眼が自分を見ている事を確認してから、重要部分に触れる分隊長。ぴんと伸ばした人差し指が天井を指している。

 「今回の作戦領域に当たる北ジンバラ準州はFNA領ではあるものの、反連邦派が強い影響力を持っている地域だ。そしてその反連邦派の急先鋒であるアフリカ独立戦線(AIF)の本拠地もこの地域にある。そして今回の依頼主はかねてより親連邦を掲げており、それは護送対象も同様だ」


 つまり、周りは敵だらけという事。


 マキナの知識:こちらの世界でのFNAの辺りは1970年代初頭までフランスの植民地であった。独立後は俺たちの知るそれぞれの国となった訳だが、それが紆余曲折を経て北アフリカ連邦として一つになったのは2061年。


 その連邦からの離脱を求めている彼らは、彼らの公用語であったアラビア語から、かつての宗主国の言語に土地の名前すら変更している。

 ――独立を訴えながら支配されていた時代の言葉にこだわるのはなんとも皮肉な気もしないでもないが。


 だが本当に厄介な事はそれだけではないと分隊長は続ける。

 「現在準州政府は治安維持を名目にして新興PMC『ゴールドスタリオン』社と契約している」

 「そこの部隊に依頼する訳にはいかなかった……」

 「その通り」

 そう俺に答えてから続ける。

 「AIFは往時程の力は持っていないとはいえ、それでも準州政府は傀儡政権だ。そこと繋がっているスタリオン社にはとても協力要請などできないし――」

 そこで改めて俺たちを見る。

 この後にいう事をしっかりと理解しろ――まるでそう語り掛けるように。


 「最悪の場合、奴らが敵に回っている場合も考えられる」

 「その護送対象は何をやらかしたんです?連中がいくら短気でも、引き上げるNPOスタッフを探し出して殺すぐらい暇でもなさそうですが」

 角田さんの苦笑交じりな声に分隊長は肩を竦めて見せた。

 「何も特別なことは――」

 そんな筈もないという事は態度が示している。

 そして、その具体的な内容がその肩の後に続いた。

 「ただ、連中が隠しておきたかった本当のことを知ってしまった。そしてそれを黙っていられなくなってしまったってだけさ」


 デバイスが切り替わり、横並びに三つのマークが浮かびあがる。左から上下を青と白で分けられ、左上から等間隔で右下に並ぶ黄色い三つの五芒星=FNAの国旗、左に切っ先を向けた剣と跳ね馬=AIFのマーク、そして上下を青で縁取りされた赤と中央に大きな黄色い五芒星=東人連の国旗。


 「まず北ジンバラ準州についてだが、この辺りはFNAの開発が遅れている場所、即ち連邦加盟による恩恵が少なかった地域であり、そしてまた近年国境近くに大量のレアメタルが埋蔵されている事が分かった。そしてレアメタルのみならず鉱物資源や木材はFNAの対EF貿易において主要な輸出品だ」

 そこまで聞いただけで角田さんは何かに感づいたらしい。


 「成程、つまり東人連からすれば放っておけない土地という訳だ」

 「そういう事だ。戦争は15年前に終わったとはいえ、未だ両者は冷戦状態にある。そうなればEFに潤沢な資源が渡ることは東人連からすれば避けたいところだ。そうしてみた時どうだろう?おっと!ちょうどよく内乱を起こせそうな反体制分子がいるじゃないか!」

 デバイス上、東人連からAIFに矢印が伸びていく。


 「そうして支援したAIFが準州政府を制圧。勿論ただのごろつきの集まりだけじゃそんな大それたことは出来ない。当然ながら、そこには専門家の指導って奴がある。で、その専門家っていうのが――」

 「東人連軍……ですね」

 今度答えたのはクロだった。

 先程の矢印の下にもう一本同様に矢印が伸びていく。

 反対方向=FNAからAIFには双方向に刺さる形の矢印が伸びて、それぞれに当たったところで火花が散る絵。


 「その通り!まあ恐らくは諜報部も入っているだろうけどね。FNA政府が前政権から数年がかりで掃討作戦を続け、幹部複数名が逮捕されているのに関わらず連中が未だに活動できるのはヒト・モノ・カネ全ての面で誰かが支援しているのは明らかだ。すぐ近くのジンバラ共和国は東人連のPG受入れも秒読み状態と言われているような状態だし、陸路での支援は容易いだろう」


 そこでデバイスの画面が再び切り替わる。

 今度は他律生体のカタログのような画面。

 「ついでに言っておくと、現在準州政府から治安維持を一任されているゴールドスタリオン社はPMCと名乗ってはいるものの人間のコントラクターは存在せず、他律生体、それも百星(バイシン)ご自慢のK1518HRで揃えている。更にここの発行済み株式の90%を保有しているのは東人連の国営企業だ」

 百星というのは東人連で他律生体製造を一手に引き受ける百星生物化学公司の事だ。

 そこの主力であるK型の最上位モデルを揃え、更に大株主は東人連の国営企業――完全に真っ黒だ。


 「大方、この護送対象って奴がそれに関する何かしらの証拠を得たのだろうさ。となれば大スキャンダルだからね。何とかしてこいつを消したいって訳だ」

 随分厄介な話に首を突っ込んだ――そう考え始めた時、俺のそんな思いを先読みして打ち消すように分隊長が声のトーンを変えた。


 「ま」

 「?」

 「これは可能性の一つってことで」

 それから改めて全員を見回す。

 「実際のところはもっと単純な話だと思うけどね。何しろ、AIFの質の低下は酷いものだ。その高潔な大義などお構いなしにストリートチルドレンや難民をさらっては臓器を捌いている。そんな連中が幅を利かす場所で一人でいるのは色々心細いだろう?それも、ただでさえ連中を犯罪者と批判し続けたような人間が、だ。東人連が何やら企んでいるのが事実だとしても、確立としてはこっちの方がはるかに高い」


 確かにそっちの方があり得そうな話ではある。

 分隊長のその言葉に合わせて映像が切り替わる。今度は国旗その他の存在しない、純粋な地図と、ワイプに小さな旅館のような建物。

 そしてその建物の立地を示しているのだろう光点から線が伸びてワイプと繋がる。


 「ここが現在護送対象が潜伏中のモーテルだ。現地時間の明日07:00時に迎えに行き、それから車で飛行場まで連れていく。そしてこれが、護送対象の詳細だ」

 表示された人の顔=白人男性。四十代。眼鏡と茶色の天然パーマに同色の顎鬚。瞳の色はブルー。

 名前はアクセリ・ランゲル。EFから派遣された地質学者。恐らく井戸掘りのために水脈を探していたのだろう。

 この人物を無事に脱出させることが今回の俺たちの仕事となる。

(つづく)

今日はここまで

続きは明日に

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