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かの地へ46

 コンソールの向こう、連隊本部に呼びかける。

 「ウェアウルフよりガーデナーへ。そちらの状況は」

 ウェアウルフ=人狼=俺に与えられたコールサイン。

 今の俺にはぴったりだろう。

 そしてガーデナー=連隊本部の回答はタイムラグなく届いた。


 「部隊に損耗は無し。合流した三大国離反部隊との情報共有を完了し、指揮系統の再編を完了しました。現在ライングリッド、ジュリエット・ヤンキー2-4及び1-5にて潜入した敵アームスーツ部隊を発見。2-4にはレンジャー第一小隊が向かっています。1-5はレンジャー二個小隊が応戦し多数を撃滅」

 恐らく三大国軍のどこか――先程拾った通信の内容からして2-4は北共軍の特殊部隊だろう。

 無人兵器や他律生体では対処できない以上、生え抜きの特殊部隊を投入するより他にないという事だろうが、それぐらいはこちらも想定済みだ。

 おまけにこちらには連中から奪った装備と兵士がある。

 それがどれほど危険な代物なのかは、俺たちよりも元の持ち主=三大国の方がよく知っているだろう。

 何しろ最後の瞬間まで隠しておく必要のあるシュティレンとは異なりこちらは見せておくための兵器だ。そのためにわざわざ核弾頭を搭載した兵器を目につくように奪ってきたのだ。

 これで三大国の最初の攻勢は完全に凌いだ――どころか反対に連中の喉元にナイフを突きつけてやることに成功した。


 なら、後は身内の始末だ。

 「了解したガーデナー。そちらの兵を借りたい。ライングリッド、ジュリエット・アルファ1-3に30分以内に展開可能な特殊部隊はいるか」

 連隊本部の隷下には第一特殊作戦大隊、即ち特殊部隊がいる。

 問い合わせながら今自分が口にした場所をコンソール上で確認。東京北部、小規模な集積所以外には何もないような場所だ。

 集積所に詰めている部隊を寄越してくれればそれが一番手っ取り早いが、どうやらそこには目当ての部隊はいなかったらしい。

 と言っても、全く期待外れだった訳ではない。ガーデナーはすぐにこちらの探している相手を見つけてくれた。


 「荒川第17監視所に展開中の分隊を確認。分隊長に繋ぎます」

 「こちら認識番号DB-20679903。第一特殊作戦大隊所属。コールサインはダガー2-6」

 繋がった特殊部隊の分隊長の声。

 当然ながら他律生体の為、その味気ない番号が彼の名前となる。

 まあ、実際はコールサインでやり取りするため特に不便はないのだが、彼等には他に名乗れる名前もない。

 「了解したダガー2-6。こちらは議会防衛本部のコールサインウォーウルフだ。そちらの兵を借りたい。今から30分でジュリエット・アルファ1-3に来てくれ。そこで合流して装備を渡す。友軍機が一機ジャックされてこちらに向かっているという情報がある。予測される進路上で待ち伏せして撃ち落とす」

 「ダガー2-6了解。これよりジュリエット・アルファ1-3に向かいます」

 通信終了。それからすぐに操縦士に指示する。

 「ジュリエット・アルファ1-3に向かってくれ。そこで降りる」

 「了解しました」


 もう一度コンソールへ目を戻す。

 東京湾を北上する公社軍機の行き先は大きく三つ。

 まず最も多い羽田方面。

 今や公社の有する最大の飛行場となったここは、防空部隊の拠点として、また各地からの物資輸送や俺たちのようなエージェントの玄関口としても使用される。

 ――恐らく、奥園たちはここには来ないだろう。

 羽田はその性質上警備がトップクラスに厳重だ。飛行場自体は無論の事、その上空の監視も専属の防空部隊が詰めており、少しでも怪しい機体はすぐさま撃墜される。

 着陸したとして、大部隊の真ん中に降りる事になるためただの自殺にしかならないだろう。


 そして次が荒川沿いに北上、集積所に降りる事。

 羽田に比べれば随分小規模ではあるが、それでも北東方向への防衛拠点であり、またそちら方向への物資輸送の拠点でもあるここに乗り付ける機も少なくない。

 ――羽田と同じ理由でこちらにも連中は来ないだろう。

 それに距離が遠い。

 奥園は俺がこの後向かう場所を知っている。都内の集積所の中ではあそこが一番距離がある。


 となれば三つ目の選択肢。ジュリエット・アルファ1-3=板橋集積所だ。

 今挙げた集積所の中では最も小規模で、飛来する機も少ないが、それでもそこに向かう便に偽装すれば防空網をくぐり抜けることができる。

 そして飛行ルートは既に把握している。ならばあとはここで待ち伏せるだけ。


 「……」

 硫黄島から送られてきた画像をコンソールに映す。

 潜伏していたスカウト個体が最後に送ってきた画像。そこには間違いなく奥園機の機体番号が書かれていた。

 間抜けな話だが、公社防空部隊はほとんどが無人機で、電磁マスキングには弱い。

 つまり、連中に一々攻撃目標を指示するよりも、より簡単で確実な方法=飛行ルート上で待ち伏せする方が確率は高い。

 指揮通信設備を搭載する関係で積載量の少ない指揮官仕様機でも携行式SAMを数基積み込むことは可能だ。

 ダガーと合流後はそれを彼らに渡し、機体番号を伝えて後は待つだけ。

 確実にここで仕留めておく必要がある。

 ダモクレスの剣として、驕りたかぶった革命家もどきにはここでご退場願おう。

 ――今後の脅威となり得る連中と一緒に。


 機体が方向を変え、飛行禁止区域を避けてジュリエット・アルファ1-3に向かう。今後やって来るだろう奥園たちも通るだろうルートをそのままなぞって。

 眼下には湾内に展開した三大国離反部隊の艦艇がずらりと並んで夕日に照らされている。

 手前から東人連海軍のヴィナシュ級駆逐艦ヴィナシュ。同じく東人連の重フリゲート艦イ・ヒョンス。

 そして浮上しているのは北共海軍の原子力潜水艦ルイジアナ。当然のことながら、その艦内にはSLBMが詰め込まれている。

 その隣にキンバリー級駆逐艦アンドリュー・ゴドフリー。

 これらだけで小国の海軍に匹敵する戦闘能力を有する。


 更に羽田にはEF空軍の長距離爆撃機が一個中隊分並んでいる。その腹の中身は言うまでもない。

 そしてここにはいないが、小金井辺りには東人連軍の極超音速弾道弾旋風(シェンフォン)51が展開している。

 ――もっとも、これに関しては東人連は決して認めたがらないだろう。

 これが向けられていたのは他でもない北共に向けてだ。そしてそれはれっきとした条約違反だ。

 条約を無視して貴国の主要都市に照準して日本列島に配備したマッハ20のミサイルが奪われました――こんな事口が裂けても言える訳がない。例え相手がグアム辺りに同じようなものを隠しているとしても。


 そしてそれより遥か上空。衛星軌道上の所謂神の杖もまた、ジャックしたその他の衛星の体当たりを受けて姿勢制御不能に陥っている事については決してどの国も認めたがるまい。

 条約に違反していますが宇宙空間に大量破壊兵器を浮かべて他国を攻撃できるようにしていました――そんな事を認める事は絶対に出来ない。


 要するに、要するにだ。

 連中は滅びるべくして滅びるのだ。

 自分だけは特別で、いつだってルールの外にある。ルールは決めるのは自分だが、それを守るのは他人――その大国の驕りが今まさに奴らに滅びへの道を突き進ませている。


 「……まあ」

 そっと漏らす。

 頭の中にあらゆる顔が浮かび上がる。

 軍隊にいた頃に知り合った連中の顔。O・E社にいた頃に知り合った連中の顔。俺を追ってきているだろうO・E社の生き残りたちの顔。これまでの人生で出会ったあらゆる人物の顔。

 ――ロングアーム作戦で殺した者たちの、死ぬべきでなかった者達の顔。


 「……当然の帰結か」

 自分の声に集中するようにその一言で結ぶ。

 浮かび上がった顔はみんな、夕日の中に消えていった。


(つづく)

今日はここまで

続きは明日に

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