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かの地へ34

 死体を隠してからすぐに移動。

 フェンスの切れ目から敷地内に入り込む。

 周囲の目はそれほど気にはならなかった。俺たち以上に大胆かつ広範囲に侵入しているブッシュに隠れていられたから。


 「アルファからCP。駐屯地に潜入した」

 「了解だアルファ。そちらに施設の見取り図を送る。全体ではないが、ある程度はそれで把握できるだろう」

 デバイスが震える。

 全体ではないとはいえ、何もないより遥かにましだ。

 「それと、その見取り図にも載っているが、正面に見えている建物の二階に警備システムの管制と電気系統のコントロールを一括で行う部屋が存在する。ここを制圧できれば施設内のそれらを掌握できるはずだ」

 妙な構造だ。少なくとも軍事施設としては。

 勿論俺も建物の設計や配線の設計に詳しいわけではないが、少なくとも一か所やられた時点で全てがダメになる構造は避けるべきだろう。

 まあとにかく、そこを押さえる必要がある。


 「了解。電源と警備システムを掌握し、奥園を捜索します」

 角田さんの答え。

 敵の警備の中枢を最短で叩きに行く。危険は大きいが、どの道こちらは四人だけで敵地に足を踏み入れるのだ。包囲されればまず助からない事を思えば、そのリスクを最小限にする為の賭けとしてはありだろう。

 「了解した。システム掌握後はこちらに連絡しろ。可能ならエドに外部から手を入れてもらう」

 「了解。アルファアウト」

 通信を終えたのをインカムで確認し、それから発案者の方を見る。

 「で、どうやって行きます?」

 言いながら同時にデバイスで中の様子を確認。

 件の部屋は二階のこちら側にあり、ここからだと建物外の作業用の梯子を昇って直接二階に侵入するのが最も近いだろうか。


 「あそこだ」

 そう言って角田さんが指さしたのは、俺たちのいるブッシュからほど近い車回し――というか駐車場のような場所だった。

 大型トラックによる搬入・搬出を行うのだろう、いくつかのゲートが設けられた平屋がその奥に建っていて、今は駐車場として10トン車が数台置かれているそこも、稼働時にはそれらが出入りしているのだろうと思われた。

 「あれの屋上見えるか?あそこに降りる用の消防用と思われる縄梯子が、奥の建物に設置されている。あそこの横から屋根に上り、そこから上に行って縄梯子を降ろす。それから建物に移れ」

 彼の指の延長線上にルートを確認。

 最初の平屋の屋根には搬入・搬出用ゲートの一番端に置かれた大型フォークリフトのマストによじ登り、そこから配管に手をかけてよじ登る形となるか。


 「了解です」

 「それで行きましょう」

 クロとシロも同じルートを確認。俺たちは注意深くブッシュを出ると、放置されている車両やコンテナの陰から陰へと渡り歩きながら距離を詰めていく。

 その間、周囲に敵影はない。

 市街への警戒強化のために守備隊が出払っている――先程の角田さんの仮説が本当だとしたらありがたい話だ。

 「これだな」

 ゲート脇に停車しているフォークリフトの一台に後ろからよじ登り、運転席の屋根へと足をかける。

 車のそれと違って細い支柱で支えられているだけのそれは、車体の一部というよりただ上に乗っているだけという印象を受け、思わず乗せる足を強張らせるが、幸いなことに取り越し苦労だったようだ。

 屋根を足場にして目の前にそびえ立つフォークのマストの頂上に手をかけ、鉄棒のようにしてそこに体を持ち上げていく。


 「よ……っとと!」

 何とかマストの頂上に体を乗せたら、ここからが最後のステップだ。雨どいのように天井付近を走っている配管に手をかけて体をそちらに引き寄せ、その天井から降りているダクト、正確には垂直に降りているそれを固定している金具に足を乗せて姿勢を安定。そこから一息に体を持ち上げる。

 「くっ……よ……っし!!」

 そのままトタンの上を一度転がってから立ち上がる。

 所々設けられた天窓を踏まないように、そして当然ながら足音にも細心の注意を払って移動。後続する三人が到着するまで、進行方向に異常がないかを確認。

 件の縄梯子は建物から張り出した足場――というか歩廊の上に設置されている。今いる屋根の端には安全に下に降りるためのハッチが設けられ、恐らくその中には建物内に降りていくタラップがあるのだろう。

 幸いそこから誰か顔を出すという事もなく、全員同じように屋根の上にやってきた。


 「で、誰が登ります?」

 上がってきた発案者に振り返る。問題はそこだ。

 二番手以降は降りてきた縄梯子を使えばいいのだが、それを下に降ろしに行く先頭は当然ながらそれ以外の方法を採らなければならない。

 そして勿論、彼がそんな事も分からずに提案していた訳でもない。

 「俺が行く」

 そう言って、彼は腰のポーチから小型のロールラダーを取り出した。

 「まだ持っていたんですねそれ」

 驚いた様子でシロが漏らすと、角田さんは笑って応じた。

 「船にあったからね。せっかくだから貰ってきた。下に誰もいないか見てくれ」

 そう言って下に降りるハッチに近づくと、そのすぐ横でシロが天窓を確認。

 「明かりは消えています。人影もありません」

 「了解」

 答えてから、その場に屈みこむ角田さん。恐らく天井に穴をあけているのだろう。


 数秒して、改めてロールラダーを展開する。

 硬い音が一度聞こえ、ロールラダーが天に向かって伸びていく。安定用のスパイクが天井に突き刺さったのだろう、角田さんの手を離れた後もラダーはぴくりとも動かず、初めからこの平屋がそういう建物だったかのように真っすぐに伸びたラダーが、本来の目的地である奥の建物の外側歩廊に達した。

 「それじゃお先に」

 そう言うや否や、梯子を登り始めた彼を、俺たちはライフルを向けたまま見送る。もし歩廊に敵影があった場合、今の角田さんは無防備だ。

 ここからでは手すりしか見えないが、その上に姿が見えたらすかさず引き金を引く必要がある。そう思って構えている視界の中を、一定のペースで角田さんが登っていく。

 ――下を見てしまえば多分足がすくむ。それぐらいの高さはあるのだが、マキナはその辺の恐怖心も解消してくれるのだからつくづくありがたい。


 無事手すりに到着すると、ひらりと身を翻してその向こうに消える角田さん。

 そして代わりに姿を現した一体の他律生体。

 「!?」

 銃口をそちらに向け、反射的にそいつに照準した瞬間、奴の体がぐわんと持ち上がり、手すりの外へと飛び出した。

 奴はそのまま落ちていく。俺たちのいるこの屋根のすぐ横を一瞬で通り抜けの、アスファルトの上で音を立てる。


 「よし、降ろすぞ。登って来てくれ」

 そしてそんなもの存在しなかったかのように、インカムに角田さんの声が響き、今しがた落ちた奴のいたすぐ横の箱から、そのすぐ下の柱に沿って縄梯子が降りてきた。


(つづく)

投稿遅くなりまして申し訳ございません。

今日は短め

続きは明日に

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