こうして僕は傭兵になった14
あれから一か月ほどが経った。
結局俺はコントラクターとしていくつかの仕事をこなし、今もこうして洋上の太陽光に焼かれている。
今回の仕事はあの日金沢分隊長の言っていたばら売り、即ち分隊ではなく個人単位での仕事だった。故に今ここにいるあの時のメンバーは俺だけ。他のコントラクターとは面識もなかった。
「しっかし暑いな」
「ですね」
この仕事で知り合った先輩と苦笑いしながら、巡回ルートを回る。
船首付近、波を蹴立てて進むその先に目をやると、一隻の漁船が一定の距離を保ったまま、この船と相似形の白波を立てて進んでいる。
漁船――実情に即していえば海賊船だ。
2090年、数十年前に実用化された水素エンジン及び人工石油の爆発的普及と発展によりこの辺りの各国は所謂“天然もの”によって成り立っていたその経済基盤を大きく損なう事となった。
俺たちの世界と同様にオイルマネーが乱れ飛んでいたかつての栄華は見る影もなく、そうした資金を用いた先行投資が実ったごく一部の他は、文字通りの砂上の楼閣となってしまっている。
勿論、破綻の波をかぶったのはそうした石油産業やそれに関わっていた者達だけではない。その影響は周辺諸国にまで波及し、今や紅海からペルシャ湾の辺りはそんな連中で溢れかえっていた。
そうした多くは陸で強盗団となり、海では海賊となって狼藉の限りを尽くし、またそうした脅威を煽り立てることで、それからの護衛サービス、もしくは通行料という名前のビジネスを始めている――ちょうど今前を進んでいる、コピー品のアサルトライフルとロケット砲だけで釣り具なんて何も積んでいない漁船のように。
2090年。科学は進歩した。
だが、人間はそうではない。
「よう、お疲れさん」
先輩が前方ブリッジに顔を覗かせて知り合いに声をかけている。
それに答えるその人物もまた、スリングでアサルトライフルを吊っている。
海賊に護衛サービス=こいつらはみかじめ料を払ったのだから手出し無用だという事を伝えるための目印として商船を先導するそれを依頼しておいても俺たちは必要になる。
理由は簡単だ。商船が丸腰だと分かれば、連中の中にも良からぬことを考える者がいないとも限らないからだ。
科学は進歩する。だが人間はそうではない。
異世界から集めた素人を強化人間にして傭兵に仕立てる程の技術が生まれる程の時代でも、それは変わらない。
そして変わらないのは俺も同じだ。
あの日、最初の仕事が持ち込まれた時と何一つ変わりはしない。
依頼内容によって上下するものの、日本人の月収としては十分な額が手に入る。その上エレベーターで帰ればむこうでは実働0時間だ。その上表向きはまっとうなサラリーマン。東松商事営業部営業一課の桂冬馬と名乗れて保険証まで使える。
俺は仕事を辞めた。そして戦場に行った。
他にすることなんてなかった。
俺は何者かになりたかった。
そしてそのために新しい世界に足を踏み入れた。
こうして、俺は傭兵になった。
(つづく)
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