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かの地へ1

 「しかし、問題もある」

 何をするかは決まった。次はどうするか、だ。

 「現在島内は戦闘の影響から混乱状態にあり、全域に外出禁止令が発令されて守備隊が武装状態で展開している」

 そこに逃がし屋の老人が付け足す。

 「それだけじゃねえ。開戦の数日前からだが理事会から守備隊に島内の三権が移譲された。要するにあそこは今戒厳令下にある。正直なところ、これまでは理事会に顔の利く人間がケツ持ちにいればなんとか誤魔化すことも出来なくはなかったが、今やそれも不可能だ」

 顔の利く人間はみんな逃げ出したしな――そう付け加えての締めくくり。


 つまり、以前エドの救出に向かった時のようにあそこをうろつくのは不可能になっているという事。

 いくら戦闘直後の混乱の中とは言え、他律生体によって構成されている守備隊相手に紛れ込んでというのは難しい。以前連中の装備を奪って偽装した時も、結局最終的には面が割れて撃ちあいの末に脱出しているのだ。


 だが、それでも手はある。

 その事をビショップさんが古い投影機で壁に表示した映像で示していた。

 「そこで、こいつを見てくれ」

 彼が指し示したのは島の南西部。摺鉢山の麓にズームしていく。

 映し出されているのは航空写真だろうか、少し古いようだがくっきりとそこ=山の北側の麓に位置する施設を映し出している。


 「これはこの島のゴミ処理施設。要するに焼却場だ」

 摺鉢山の斜面から生えているように見える煙突の辺りを指して説明するビショップさん。

 「ごみ焼却場というのはただゴミを燃やしているだけじゃない。いわばゴミを燃料にした火力発電所だ。ここで生み出された電気は島内に供給されている。そこで――」

 映像が切り替わる。東人連系の住民が多く住む西側地区の郊外。西側地区と内陸の滑走路跡地に広がる市街地の中間あたりに位置するマンモス団地のような建物へ。

 記憶が正しければ、それは前回訪れた時にシロに先導されて駆け込んだ場所だった。


 「送電線を納めたパイプラインに沿っているメンテナンス通路を通ってこの建物の敷地まで潜入。そこから北東側に位置する旧日本軍のトンネルを使用して駐屯地の背後から潜入する」

 映像の中に彼の言葉を説明するように描かれる一本の線。

 「どうしてトンネルがあると分かるんですか?」

 尋ねたのはクロ。

 ビショップさんは小さく頷いてから回答する――質問者の隣にいたシロの方を見て。

 「以前内務班がこの地で活動していた時、残されているトンネルや地下壕については調べ上げていた。そうだな?」

 「はい。このトンネルはまだ健在で、駐屯地の敷地まで最も接近できるものです」

 そう言えば前回も古い地下壕を利用して移動していた。

 違う世界ではあるが、どうやら今回もご先祖の遺産に助けてもらうことになりそうだ。


 「となれば、次に考えるのはどうやってそこまで進むのか、だ。そこで」

 ビショップさんが今度は老人の方に目を向けると、彼は委細承知と身軽にビショップさんの横に立って説明を替わる。

 「このゴミ処理場だが、すぐ近くに摺鉢山を縦断する放棄されたトンネルから敷地のすぐ横に出られる。このトンネルは日本軍のものよりは新しいが、使われなくなって久しい。その入り口が摺鉢山の南側の海岸に設置されている。ここから山の中を通って処理場の敷地内へ忍び込める。出口はこの辺だ」

 彼がそう言って示したのは工場の背後に立つ摺鉢山の斜面だった。

 工場の屋根と同じか、それよりはやや低いぐらいのその場所は、斜面を降りる事が出来れば工場の大体の場所に上から入り込める。

 老人の指がその出口のあるとされる辺りから、工場の建物の方へと降りていき、建物をぐるっと取り囲んでいる道路の上にかかる渡り廊下のような場所で止まった。


 「ここからここに降りて、屋根に設けられたメンテナンスハッチから中へ入れ。煙突用のメンテナンス通路を煙突側に向かって進み、そこから地下の燃料貯蔵庫へ。そこから作業員用の地下通路を通って灰コンベア室に進み、そこを横断して変電室から配電用メンテナンス通路に入り込める。そうすれば後は一本道だ」

 そう言って言葉の通りに指を行ったり来たりさせる老人。

 どうやら渡り廊下に降りたら、山の斜面に向かって戻るようなルートを取るらしい。

 そして煙突の根元で下に降りて、道路の地下を通っている通路で建物の地下へ入り、それから灰コンベア室なるところを抜ける必要があるそうだ。

 ――その間誰にも見つかってはならない。


 「随分詳しいんですね」

 「昔従兄弟があそこで働いていた。安月給でこき使われると言ってすぐ逃げ出したが、中の見取り図を見せてもらったことがある」

 まさかこんな形で人件費をケチった事が出てくるとはその当時の担当者も思わないだろう。

 「問題は、省力化が進んでいるとはいえ作業員は常駐しているという事と、その役割から開戦前から警備部隊が常駐するようになっているという事だ。まあ、その辺はあんたらに何とかしてもらうしかなさそうだが……」

 まあその辺は仕方ないだろう。

 そもそも戦地に潜入する以上、一切露見の危険がない安全なルートを求める事が無理なのだ。多少のリスクは甘受せねばならない。

 そのための装備はシスターナタリアから送られたコンテナの中に揃っていたのだから。


 そこでビショップさんが再度説明を引き受けた。

 「そこで、その潜入するためのトンネルだが、生憎現在硫黄島の主要な港は厳重警戒が敷かれていておいそれと接近できない。そのため、トンネルの直下まで水中侵入を実施する」

 つまり海を泳いで行けという事か。

 だが、俺たちの中に海軍特殊部隊の出身者などいない。

 ――そこで思い出す過去の記憶。同じように水中から忍び込んだ作戦があった。


 ビショップさんもその事は理解していた。そして、同じ記憶を持っていた。

 「諸君らの多くは久しぶりになるな」

 そう言って、俺たちの背後に視線を向ける。

 今俺たちがいるのは漁船の後方に設けられた建屋――としか表現のしようのない船上構造物――の中だが、その前側半分の床板は簡単にはがせるように、ただ載せられていただけだったという事を、その実演を見せられて初めて理解した。

 「おお……」

 床下と言うべきか、船底の上の隙間というべきか、平底のそこに並べられていたのは、棺桶のような箱型の潜航ポッドが四基。


 T-1190ヴァンパイア。かつてザウート潜入に用いた装備と久々の対面だった。


(つづく)

今日は短め

続きは明日に

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