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こうして僕は傭兵になった11

 通り抜けざま、飛び越えざま、俺たちは連中の頭に鉛玉を送り込む。

 ある者にはただの死体損壊にしかならず、またある者には狙い通りの効果を発揮している。

 本当はナイフを使う方が安上がりなのだろう。だが今は一人ずつ刺してまわる時間はない。それなら、弾で時間を買うのだ。


 「しっ」

 それは偶然だった。

 俺がやらなければ、他の誰かが見つけて処理したかもしれなかった。

 足元に転がる人形たちの一人に銃口を向け、引き金を引こうとしたその瞬間、視界の上端で何かが動いた気がして、反射的にそちらに銃口と目を向ける。


 「ッ!!」

 それは間違いではなかった。

 仰向けに倒れていた足元の人形の向こう。その人形の頭の少し先に足を投げ出して塀にもたれかかっている他律生体が一体。

 その手の中に握られた350ml缶より少し小さいぐらいの円筒形。


 大事そうに握ったそれの頭についている円形のピンに、震えるもう片方の手が伸びていく。


 「クソッ!!」

 立て続けに二発。

 一発目は筒を持っていた手首を撃ち抜き、マズルジャンプを利用して上にずらして放たれた二発目が顔の上半分を吹き飛ばす。

 ごろりと落ちた円筒=手りゅう弾にはピンがまだ繋がっていた。


 安堵のため息が鼻から小さく漏れ、同時に当初予定していた“今の奴に比べれば随分大人しい”足元の相手にも一発叩き込んだ。

 処理を終え、俺の声に気づいて数歩先で振り返って手りゅう弾の奴に銃口を向けていた黒河さんに追いつくと、同時に分隊長の声がした。

 「道が封鎖された。迂回しよう」

 「1ブロック奥の銀行の角は?そう遠くないかと」

 「よし、それだ」

 角田さんが間髪入れずに次のルートを提示。そちらに従って、自転車のタイヤより大きな径の輪を作っている鉄条網が横断していている左折するはずだった正規ルート通り過ぎる。


 角田さん提案の迂回ルートはすぐに分かった。銀行の看板はピーターズの入り口前からでもしっかり見えている。

 そこに差し掛かると、メンバーを変えてはいるがこれまでと同様にクリアリング。

 曲がった先の緩やかな下り坂は、突き当りにある郵便局まで他の誰もいない。その間にも道の向こうで断続的な銃声がいくつも響いていた。


 「あの郵便局の隣が市民ホールだ。急ぐぞ」

 「「「了解」」」

 最後の直線を駆け下り、突き当たった郵便局前の駐車場に入り込む――郵便局からの攻撃がないかを確認しながら。

 駐車場横の幅数メートルの植え込みを越えれば、その向こう側には市民ホールの駐車場だ。


 「チャーリーよりアルファ。郵便局側から駐車場に出る。俺たちを撃つなよ」

 「了解だチャーリー。現在1階エントランスで交戦中。駐車場の連中を掃討してくれ」

 植え込みに入り込み、僅かに低くなっている駐車場を見下ろす。

 多数の他律生体たちが疎らな駐車車両と、連中が使用していたのだろうトラックに隠れながらエントランスや2階の窓と交戦している。

 その姿を一瞥した分隊長の指示が飛び、同時にそれが実行された。


 「一番手前、白いワゴンと物置の影にいる奴をやって、あそこを橋頭保に攻め込む」

 「「「了解」」」

 返事と共に空気が漏れるような静かな銃声が二つ。

 それぞれの遮蔽物に隠れていた――そしてこちらには無防備な背中を向けていた――他律生体が倒れ、そこに俺たちが殺到する。

 連中がこちらに気づいたのは、俺たちの移動が完了する直前だった。


 新たに出現した敵を正面の籠城より優先するべく振り向こうとした連中が、めいめいの隠れていた車両に伏せる。

 けたたましい銃声が複数回セットで轟き、それらの車に雨あられと弾丸を降らせていた。

制圧射撃。角田さんの操る二型から繰り出されたそれは確実に敵の動きを止め、そしてそれが、浮気された籠城側に無防備などてっ腹や背後を晒すことになる。


 連中にとってみれば絶望的な戦況だった。

 ただでさえ正面の敵は建物の中に隠れていて、更に一部は高所から撃ちおろしてきている。それに加えて脇から現れた敵の増援も同時に相手にしなければならないのだ。

 新手に警戒すれば籠城側に、籠城側を警戒すれば新手に尻やわき腹を晒すことになる。

 そしてそれに迷っている個体は唯一残された安全な場所=駐車場の出口へと向かう。

 建物の正面と俺たちの正面=建物から見て右側の出入り口の2か所に、少なくなった生存者が走る――俺たちの前を横切るか、籠城側の前を横切って。


 「標的、赤いセダンの横」

 「タンゴダウン。マガジンを変える」

 まるで射的だった。

 しっかりとサイトを覗く余裕のない敵側の射撃は当たるを幸いにばら撒くだけで、大体は俺たちの遮蔽物にさえ当たらなかった。


 ただ一方的な殲滅戦闘は、すぐに幕を閉じた。

 駐車場に動く者は、加勢から一分も経たずに俺たち4人だけになった。


 「よし、今ので最後だ」

 正面ゲートに差し掛かったところを仕留めた他律生体が倒れ、無線から声。

 「アルファよりチャーリー、よくやってくれた。これで――」

 敵を全員倒した。これで人質を連れて帰れる。そう続く――はずだった。

 「……正面と右側両面に敵の増援を確認した。軽歩兵と、正面にトラックが一台だ。こちらからマークスマンを残してそちらに合流するオーバー」

 どうやら第2ラウンドが始まるようだ。


 「チャーリーリーダー了解」

 そこで通信終了。俺たちに向かって続ける。

 「俺とカクで正面を抑える。桂はクロと右側を抑えろ」

 返事の代わりに全員が動き出す。

 俺たちは駐車場を横断して、緩やかな下り坂の麓にある出入口へと駆けていった。


 パシっという乾いた音が響いたのはまさにそんな時だった。


 「!!」

 にわか雨の振り出した時のような、パラパラという音が連続する。

 一瞬反射的に足を止めようとして、すぐさまその考えを否定し音のする方へと突っ込んでいく。

 駐車場の車はまばらだ。ここで音に背を向けて後退するより、目の前にある白いセダンを盾にした方が音の正体=5.7mm弾に対しては安全だ。

 同じ判断をした黒河さんが、セダンのすぐ横に乗り捨てられていた、恐らく連中が乗ってきたのだろうピックアップトラックの後輪に隠れたのはほぼ同着だった。


 「「incoming!!」」

 彼女と背後の分隊長の声が重なり、それに銃弾の雨が車体と音を立てて更に重なる。

 「ちぃっ……」

 膝をするようにして前輪の影へ。貫通力に優れるとはいえ小口径弾だ。車のエンジンルームという大小の金属の集合体を全て貫通するには質量が足りない。


 銃声と雨音が止んだ瞬間、バンパー側から顔を出して敵影を確認。道路を走っていた時と同様、俺と隣とで互いの前方を睨む。

 顔を出した瞬間、それまで撃っていたのだろう奴らと目が合った。

 「標的、道路右側白い塀の後ろ!」

 自分の頭に刻み付けるように叫びライフルを構え――ようとしたのを急遽中止。頭を引っ込ませた瞬間に銃弾の雨が再度降り出す。

 見えたのは3人。だが銃声は一人分。という事は――?


 「標的2名向かってきます」

 制圧と前進、先程俺たちがやった事への意趣返しのように、弾の雨の庇護を受けた他律生体たちが突っこんでくるのを冷静な声で知る。

 処理しなければ、そう思った瞬間に鋭く静かにサイレンサーが2度鳴った。


 「1名排除」

 銃声が止む。

 もう一度バンパーから頭を出して3発、すぐに左に振る――銃と目と体すべて同時。

 しかし同時に視界の隅にはリロード中に右腕を撃ち抜かれた敵と、彼と入れ替わろうとしていたもう一人、そして彼が射撃を中止して撃たれた仲間を塀の陰へと引きずっていくのを、弾幕を張って援護しようとするもう一人を視界の隅に入れている。


 「2名排除」

 しかし同時に、振る動作とほぼ同時に指は引き金を引き、引きながら目がサイト越しに近くの街灯の影に隠れたもう一人を捉えていた。こちらは腕だけではない。胸と首だ。

 そいつが仰向けに倒れ、直後に隣でサイレンサーの銃声。雨がやんで、倒れている敵が一人増える。


 「1名排除」

 仲間のカバーに入ったそいつが撃たれたのだった。

 「あっ!!」

 冷静な声が急に崩れる。

 最後っ屁が放物線を描き、かつんとバウンドしてこちらに飛んできて、重いライフルを手放すのが遅れた彼女の足元に転がっていく。


 「グレネード!」

 それは果たしてマキナの効果なのか、或いは俺の意思だったのか。

 答えは出ないだろうが、まあどちらでもいい。

 俺たちの間に転がってきたそのフラググレネードに、俺は叫びながら内野手のように飛びつき、倒れながら転がってきた方向へとぶん投げた。


(つづく)

今日はここまで

続きは明日に


新年あけましておめでとうございます。

本年も変わらぬご愛顧いただければ幸いです。

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