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こうして僕は傭兵になった4

 「本気かよ!?」

 国際色豊かな方から驚きの声が上がる。

 何についてなのかはよく分からないが、恐らく助教が何か言ったのだろう。

 その直後、一人の黒人の男が俺たち全員に目をやる――直感的に、彼が今の驚きの声の主であることは分かった。

 「なあオブライエン。あんたマジでツアーガイドにでもなっちまったのか?連中を連れてくるだけじゃ飽き足らず、中に入れさせろって?」

 その後に続く立て板に水。何について驚き――実態で言えば憤っているのかは、恐らく彼の言う“連中”全員が分かっている。勿論俺も含めて。


 「考えられねえぜ!お前ここがどういうところか分かっているよな?ツアー客連れて入るような場所じゃない」

 「口を閉じろ」

 きっぱりと助教が抗議に応える。

 その抗議が彼らの全会一致の意見だったのだろうというのは、代表者を黙らせた助教を全員が睨みつけるように凝視していることから明らかだった。

 「三つだ。まず連中の能力は既に証明されている。銃器・爆薬・格闘のいずれにおいても我々と同様に扱えるし、一々解説してやらなくとも意思疎通が可能だ。次に彼らの投入を決定したのは俺ではなく会社だ。最後にこれはお前たちの上官としてだが――」

 一人一人を睨み返す助教改めオブライエン隊長。

 俺たちの能力は証明されていると言ってはいたが、その時の威圧感は恐らく――少なくとも俺には――未だ到達出来てはいないだろう。


 「――作戦前に規律を乱す、士気を下げる類の発言はするな。軍の飯を食ったことがあればそれぐらい分かるだろう?ろくでなし共」

 誰ともなく漏らしたため息が、ひりついた部屋の中に響いた。

 「……分かったよ」

 抗議と同じ声が渋々漏れる。

 同時にその目が、それが渋々であるとダメ押しの説明をするように俺たちを一瞥した。


 「ま、気にしちゃ駄目だよ」

 苦笑交じりにそう呟いた分隊長の声は、俺以外に聞こえない程の小さなものだった。

 「彼らベテランからすれば、僕らのようなマキナ兵はイマイチ信用がないみたいでね」

 「ま、単に面白くないってのもありそうですが」

 そう付け加えたのは、意外にも聞こえていたのか俺を挟んで分隊長の反対にいた角田さんだった。

 「連中からしてみれば、厳しい訓練と軍隊生活とでようやく身に着けた技術だ。それを体に機械埋め込んで3泊4日で一足飛びに並びましたなんて言われて、はいそうですかよろしくねとは言えない」

 「ああ。それもあるだろうね」

 そう言われてみれば、確かに彼らの気持も分からないではなかった。


 「まあいずれにせよ、気に揉む必要はないよ。別にこの後も一緒にやっていくと決まった訳じゃないしね」

 そう言って分隊長が切り上げるのと、俺たちの後ろから別の誰かが入ってくるのは同時だった。

 「よし揃ったな。全員適当な席に座ってくれ」

 そう言ったのはそのうちの一人。既に老人と言っていい年の頃の男。その後ろから背の高いやせ形の若い男がついてきて、老人が講義をする大学教授のように部屋の一番奥=演壇の置かれた辺りまで向かうのとはすぐに分かれCEOの耳元で何かを囁いた――州司法長官という単語だけが漏れ聞こえる。

 恐らく彼の部下か、或いは顧問弁護士か何かなのだろう。彼の耳打ちを受けたCEOは足早に部屋を出ていった。


 さて、もう一人。こちらはガーハイムの人物ではない。

 そのことはパッと見た印象でもそうであったし、また分隊長がこっそりと耳打ちしてくれた。

 「あれが今回の指揮官だ」

 流石に仕事になれば軍人上りは速い。既に手近な席にまとまって座っている。それに倣いこちらも適当な、と言われても俺たち4人は固まっていた。俺の隣には角田さん。前の席に分隊長と黒河さん。

 恐らく残りの連中も同じように固まっているのだろうという事は、人種の分布でなんとなく分かった。


 「私が今回諸君の指揮をとるデュクローだ。よろしく頼む」

 挨拶もそこそこに早速仕事の話に入る。

 「さて、早い所終わらせちまおう。早速だがこいつがグリーンロック・バレーの全景だ」

 その言葉に合わせて指揮官の前に浮かび上がる巨大なパネル。

 良く磨かれたガラス板に直接書き込まれているようなグリーンロック・バレー全域の詳細な地図だが、それを支える支柱なりなんなりはどこにもない。

 空中に投影されたその映像を使って、指揮官が天気予報のようにブリーフィングを始める。


 「グリーンロック・バレー。およそ3.5キロ平米のエリア内におよそ300世帯が暮らしていた町だ。中心部には市民ホールと病院があり、それを取り囲むように住宅地が並んでいる。出入りは南北に一か所ずつ設けられたゲートで行い、ゲートには24時間警備員が常駐している」

 説明に合わせて地図上の読み上げられた施設がピックアップされ、いつ撮影したのか各建物や施設の近影が表示されている。


 「民主革命党は市街中部西方のグリーンベル小学校を拠点にエリア全体に展開しており、投入された兵力は歩兵2個中隊。およそ200名と推定されている」

 200名のテロリスト。対するこちらは十数人の傭兵部隊だけ。

 「200名のうち生身の人間はおよそ6名ないし7名のみ、他は他律生体(たりつせいたい)であると思われる」

 他律生体。聞き慣れないこの言葉の意味もマキナにはしっかりとインプット済みだ――俺たちの親戚のようなものとして。


 他律生体:短期促成で十代後半~二十代前半程度の肉体に成長させたクローンの生命活動を停止させ、COSとBMS及び運動機能管理用AIを移植することで製造される、人体の本来持っている運動機能を使用した人類史上初の人型兵器。他律生体という仰々しい名前は動く屍という実態を覆い隠すために他ならない。


 科学技術。特にAI関連技術の飛躍的発展は無人兵器の爆発的普及と発達を促し、戦場から人が消えるとさえ言われていた。

 しかし兵器の開発とは常に終わりなき矛盾であり、必要は発明の母でもある。

 無人兵器の進化はそれと同様か、それ以上のスピードでそれを無力化する電磁パルス兵器の開発と普及を推し進め、僅か十数年のうちに戦場は再びオイルとバッテリー液ではなく血を欲した。


 しかし、一度手に入れた利便性と効率を手放したくないのは人間の宿命だ。様々な理由から生身の人間を使わずに、かつ無人兵器の穴を埋められるだけのソリューション=人間の兵士が欲しい。この問題の解決のために生み出されたのが駆動生体だった。


 人型兵器のもつ欠点と求められる能力を人間の肉体をそのまま使用することで解決し、かつ人間の兵士より予算と時間と死傷時の補償を必要としないこの倒錯的無人兵器は2090年の兵器産業において、既に一つの分野として成立するほどに普及していた。


 そしてこれとマキナとの違いと言えば、宿主となる人間の記憶や感情=要するに人格を消滅させて神経系統や脳、肉体の機能を居抜きで使うか、元の人間と共存させるかの違いでしかない。


 でしかないが、生と死の差は大きい。


 「事件発生当時の連中の姿を捉えたのがこれだ」

 隊長のその言葉に合わせて地図の上に現れる一枚の画像。

 恐らくグリーンロック・バレーの内部だろう路上に三人の兵士が歩いている。グレー系のタイガーストライプの上に黒のOTV(ボディーアーマーの一種)。首から上にはゴーグル型に開いたバラグラバ。

 K1518型――この世界の三大国の一つ。東人連こと東亜人民連合で製造された他律生体K型のローエンドモデル。


 「次に現在までに確認されている連中の装備だが、特筆すべきはこれだ」

 画面が平面の地図から立体的なモデルに変わり、その上を低空飛行するカメラアングルが中央の建物の前に停止する。

 その小高いビルの上に設置された給水タンクの親玉のような物体が白い枠に囲まれ、おそらくそれのカタログか何かの写真なのだろう、実際の姿が横に表示される。


 「こいつはブルーフォッグ電子妨害装置。共和国海軍の一部艦艇に使用されていた電子妨害装置で既に型落ちだが、この辺り一帯でのあらゆる通信に干渉できる。この建物がぎりぎりの距離だ。この市民ホール屋上に一基のみ配備されているが、こいつのお陰で無人兵器も無線通信も使用不能と来ている」

 白枠を中心に広がっていく赤い円が、グリーンロック・バレー全域とそのフェンスの外に広がる森林の一部をも巻き込んで広がっていく。


 「その上ブルーフォッグは特定の通信のみ妨害を行わないという選別も一切のタイムラグなく可能だ。つまり、連中は我々と同じ周波数を使っていくらでもおしゃべりできるという訳だな。そこで、今回は連中にまずフェアにやってもらうことにする」


(つづく)

今日はここまで

続きは明日に

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― 新着の感想 ―
[一言] ふーむ?  クローンをわざわざ殺して死体を機械制御にして即席知性で制御した。 これ考え方を変えると、生きた兵士が死んだらゾンビ兵にしてリサイクルみたいなのを量産できる?
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