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こうして僕は傭兵になった2

 まあ、考えてみれば当たり前の話。逆に言えば俺が何故ここにいるのかを色々聞かれることもないという事だ。ありがたいと言えばありがたいだろう。


 「まあ、日本に住んでいながら異世界で傭兵になった理由なんて、あんまり面白いものでもないでしょ」

 そう付け足したのは角田さんだった。

 「了解です」

 「さて、それじゃそろそろ準備だ。君の荷物は空いているコンテナに入れてくれ。多分……それか」

 話は終わり、分隊長に示された空のコンテナに自分の荷物を入れると、恐らく三人のそれらも同様に納められているのだろう同様のコンテナと、何が入っているのかそれより大型のいくつかのそれを機内に運び込むことになった。


 「いくぞ、せーのっ!」

 何が入っているのかやたら重い大型コンテナを角田さんと一緒に運び込む。

 ジェット機の中は所謂旅客機のようなものではなく、ただ空飛ぶ空洞と言った方がいいような殺風景な中に荷物を詰め込んでいく。

 それもただ置くのではなく、その空洞の中央に用意された荷物用のスペースに詰め込んで、太いワイヤーで上から抑え、更に――なんとなくゴミ捨て場のカラス除けネットを彷彿とさせる――大きなネットをかぶせる。


 「よし、積み残しはないな」

 助教が確認すると、空洞の一番奥、唯一壁で仕切られている機首側に歩いていく。

 恐らくその向こうにあるのだろうコックピットに何かを伝えると、くるりと俺たちの方に振り返った。

 「えー皆様。この度はオプティマル・エンフォーサー航空をご利用いただき誠にありがとうございます。当機はまもなく離陸いたします。おかけになってシートベルトをお締めください」

 全員が笑いあって言われた通り着席。電車のシートのように壁際でお互いが向かい合う形式だ。


 ハッチが閉まり、一度機体が揺れる。小さな窓の向こうで格納庫の壁が後ろにゆっくり流れていく。

 続いて現れるただっぴろい滑走路と複雑にラインのひかれた通路。

 その通路をゆっくりと機体が進み、滑走路へと入っていく。

 独特のエンジン音がななめ後ろから聞こえ、加速のGと、少し遅れて妙な浮揚感。

 浮かびあがった事を実感したのは、外の景色が斜めに曲がったところでだった。


 みるみるうちに小さくなっていくひょうたん型の島=北ヴィンセント島。


 モーリタニア北西に位置するこの島は、東京23区とほぼ同じ面積を持ち、17世紀にイギリスの探検家エドワード・ヴィンセントが上陸し、以降イギリスとそこから権利を購入したポルトガル、ベルギーがアフリカ大陸への中継地点として使用し、現在ではオプティマル・エンフォーサーとブローネルの施設があるだけの島――この世界では。


 俺たちの世界の同じ場所に同じ島があるのかは分からない。

 そしてその島から俺たちは大西洋を渡る。

 向かうはアメリカ、ニューヨーク州。北アメリカ連合共和国と呼ばれる三大国=この世界の覇権を争う三つの超大国の一つが今回の仕事先だ。


 「よし、全員聞け」

 水平飛行に移行してから、助教が立ち上がり俺たちの方を向いてそう切り出した。

 同時にそれぞれの首の後ろからA3サイズのデバイスが現れ、それぞれの読みやすい高さにそれが差し出され、ただ自分の顔が映る黒い板だったそれに開発元と思われるメーカーのロゴとオプティマル・エンフォーサーの文字が浮かび上がる。


 「メールで知っているとは思うが、今回のミッションの概要を説明しておく」

 その言葉に合わせて立ち上がったデバイスの画面が水色に光り、その中心で何かの読み込みを示す青いグラフが順調に端まで伸びていく。

 それから数秒もかからずアメリカと分かる地図が画面全体に表示される。スムーズな読み込み。流石は2090年。

 その地図が東海岸、そしてニューヨーク州と切り替わりつつズーム。ニューヨーク市周辺の地形を示すものに変わり、市街からやや離れた場所に赤い点が波紋を広げながら点灯する。


 「依頼主はガーハイム・セキュリティー社。内容は、同社が警備を請け負っている自治体『グリーンロック・バレー』における人質救出だ」

 赤い点にズーム。

 グリーンロック・バレー全体が映し出される。

 「『グリーンロック・バレー』は所謂ゲーテッドコミュニティだ。壁と24時間警備員在中のゲートによって外界と隔離された300世帯が暮らしている。現地時間の昨日1800時、そこが極左テロ組織『民主革命党』による襲撃を受け、住民と警備員およそ20名が死傷。住民30人余りが人質となった。現地の警備本部よりガーハイム社へ通報があり、ガーハイム社から契約関係にあったうちに要請が入った」

 それから画面に映し出される3人の顔写真。

 内訳:白人の男女と黒人男性1人。いずれも年の頃は中年と言ったところか。


 「これが要救助者ですか?」

 分隊長の声に助教が頷く。

 「そうだ。現在彼らは3人とも『民主革命党』に拘束されており、連中は彼らを含めた人質全員の身代金10億ドルと、収監されている自分たちの幹部の即時釈放を要求している」

 そこで俺たちの出番という訳だ――ちょっと待て。

 一般的な日本人の感覚が脳内に異論を唱える。だとしたらまず連絡するべきは俺たちの他にもあるだろう。


 だが、その疑問はすぐに脳内の“先生”が解決した。

 現在の共和国地方自治法では、州知事と地方自治省の承認があった場合、こうしたコミュニティが自治権を獲得し、警察や消防と言った一部の行政をコミュニティの責任で国から委任されることがある。

 依頼主のガーハイム・セキュリティーという企業も、そうしたコミュニティの治安維持を請け負っている警備会社だ。彼らからすれば、こうした事態=酔っ払いや空き巣の相手に迷子探しや住民同士のトラブルの仲裁を想定していた警備員だけでは対処できない事態のためにオプティマル・エンフォーサーと契約していたのだろう。


 警察その他の国家機関が今回の件で介入してくるとすれば、犯行グループがこのコミュニティの外に出てきた場合か、コミュニティの代表者が自治権を放棄して泣きついてきた場合だけだ。


 「警察に頼れないのは彼らが自治権を行使してきたから……というのもあるが、実のところこの囚われのお姫様たちが厄介な存在となっている」

 タイミングよく助教がそこに切り込む。

 「白人の男はエリック・リチャードソンといって、自らニュースサイトと雑誌を主宰するジャーナリスト……と言えば聞こえはいいが、実態はクレーマー、訴訟屋の類だ。これまでにも色々理由をつけては政府や大企業を相手に権利の侵害を訴えて賠償金をせしめ、それでここの高い家賃を支払っている。妻の方は、以前はモデルだったそうだが、夫の仕事を手伝う才能の方があったようだな。今では夫の雑誌やらインターネット上やらで広告塔として活動している。そして黒人の方はボブ・メイソン。弁護士で、一言で言えばリチャードソン夫妻と同類だが、こいつは金儲けのためではなく、今時珍しいガチガチのイデオロギーで味方している。政府の影響を1mmでも市民社会から排除するのが弁護士の仕事だと信じて疑わない男だ。そして、その正義を信じ続けられるぐらいには弁護士としては優秀らしい」


 そういう連中を警察が介入して救出したら?後になって何を言われるか分かったものではない。

 「とにかく、グリーンロック・バレーに侵入しこの3人を救出すること、それが今回の任務だ。詳細は現地到着後、先遣隊と合流してからとする。以上だ」

 そこでデバイスがOFFになり、少し前の自らの動作を巻き戻すように戻っていく。


 「……」

 再び沈黙に戻る機内。見るでもなく外の青一色に目をやる。

 頭の中にあるのは今聞いた説明。メールに書かれていた内容とほぼ同じだが、それでもあと数時間後には現地入りするという状況で聞かされるのは受け取り方が違う。

 まるで映画。違うのは自分が当事者であること。そして台本が渡されておらず、あったとしても相手がそれに従ってくれる保障などないという事。


 首を窓から機内に戻す。

 向かいに座る二人=角田さんと黒河さん。

 どちらも慣れているのか、かたや腕を組んだまま仮眠。かたや単語帳のようなものを取り出している。

 そんな日本の通勤電車のような光景が、ドンパチしあう仕事に向かう輸送機の中に広がっているのが、なんだか妙に目についた。


(つづく)

今日はここまで

続きは明日に

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― 新着の感想 ―
[一言] 人質見捨てたいなー
[気になる点] 単語帳のようなもの……マキナがあっても21世紀の日本で教えている内容はインプットされてないってことか マキナの内容いじれるなら学習が捗りそう
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